2008年8月3日日曜日

IPS勉強会報告

住吉病院で、月1回のペースで開催されている「IPS勉強会」。http://blog.cabrain.net/CN010030/article/id/25662.html



第3回が先日開催され、私Iyokiyehaが発表してきました。
以下、使用した資料を掲載しておきます。
このブログの2007年11月4日投稿分を編集して作成したものとなっています。
http://iyokiyeha.blogspot.com/2007/11/200469.html



なお、個人情報に触れる部分については割愛させていただきますので、ご了承ください。


初めに、勉強会の意見交換で気づいた点、学んだ点、実感した点というのは、以下の通りです。


■日本で現在展開されている、公的サービスとしての職業リハビリテーションは、財源の関係もあるためか、「事業所が障害者(手帳保持者)を常用雇用するため」のものとして位置づいている。一方で、IPSは、「当事者のリカバリーを推進する」「就労支援は、医療の一貫として実施される」プログラムとして位置づいており、両分野が連携を図るためには、この立ち位置の違いに気づくことが前提となる。
■本人のアセスメントに関して。現在、障害者職業センターなどで実施されている職業評価に意味がないとは思わない。しかし、精神障害者の多くが持つ特性として「応用が利きにくい」ところがある以上、保護的な環境下で身につけたスキルが、実際の就労現場で活かしきれるとは限らない。その点、IPSプログラムにおける「現場でのアセスメント」は、まず「できる・できない」が明確となることで、非常にシンプルなアセスメントであるといえる。
■一般就労の捉え方。IPSでいうところの「一般就労」は、「competitive(競争的)」就労の訳である。つまり、資料の通り「同じ職場・部署内に健常者がいること」と「最低賃金以上の賃金が確保されること」が、その条件とされている。一方で、日本における「一般就労」は、「福祉的就労」と対比する概念としての言葉として捉えられている。厳密な定義は定かでないが、敢えて条件をつけるのであれば「雇用契約を結ぶこと」「週20時間以上の労働」「常用雇用(期間の定めがない、またはそれに準ずる雇用契約)」である。この用語についても、医療機関、精神保健福祉機関、職業リハビリテーション機関とが連携する場合に、誤解を招きやすい。
■図に示したように、IPSの守備範囲(就労支援可能な範囲)は、職業リハビリテーションのそれを含みつつ、もっと裾野が広く、これまで就労支援プログラムには参加できないと判断されていたようなクライアントに対しても、その人に「合った」、ニーズに基づく就労を検討することができる点において、精神障害当事者の視点に立てば、職業リハビリテーションよりも利用しやすいプログラムであるといえる。
■事業所の視点に立ったときには、そのクライアントを「雇い入れるメリットがある」働き方を模索する必要がある(「お願い」視点だけでは、限界があり、事業主にも負担がかかる)。日本におけるIPSが批判される点として、「アメリカにおけるキャリアの考え方と日本におけるキャリアの考え方に違いがあるため、広まらないだろう」という論調があるが、その点についても再考が必要であるといえる。
■上記について、具体的には地域のイベントに当事者が積極的に参加していくことにより、地域住民や地元の事業所に理解を広めていくという手が考えられる。地縁の残る山梨県という地域であるがゆえに検討できる方法だろう。イベントにおいて雇用関係が結ばれなくとも、まずはその存在を認識してもらい、その活動成果により正のイメージを広めていく、そしてIPSにおける「一般就労」に照準を絞り込み、一定期間であっても収入を得ることができるのであれば、当事者のリカバリーは促進されるように考えられる。結果として、段階的に常用雇用を目指す当事者が、適切な力をつけて職業リハビリテーションサービスを利用することになるという、青写真を描くことができる。

この地点において、具体的に精神医療保健福祉分野と、職業リハビリテーションとが連携する可能性について、考察することができました。
ご意見・ご感想あれば、コメントお願いします。


以下、当日の資料を掲載します。


(ここから)---
○IPS勉強会(第3回) 2008/07/30

第6章「IPSの概要」
1.IPSの基本的な考え方
(1)IPSでは、
 就労=治療的なもの
   =ノーマライゼーションをもたらすこと
   =治療・援助プロセスの不可欠な一部
(2)IPSは、
 一般の地域社会で、精神障害のない人と一緒の職場で共に働くことが、
 ①クライアントの生活の質を高め、
 ②健康を増進させ
 ③スティグマ(烙印・汚名・不名誉…、?)を軽減する
 という考え方を基にしている。
(3)IPSにおけるアセスメンとは、
 「伝統的な評価・査定方法」(標準化されたテスト、ワークサンプル、準備訓練)を含まない
 その代わり、
 ①本人との会話の機会
 ②(本人の許可を得て)家族や前の事業主から情報収集する機会
 ③IPSチームの他のメンバーと相談する機会
等、様々な情報源から、情報を得て、クライアントが仕事に就くのを助けるために、最善と思われるプランを作る。
 ※仕事を得るための最適なアセスメントと訓練は、「ともかく仕事に就くこと」
  =地域社会で通常の仕事の経験を積むことに基づいて行われる
(4)IPSプログラムにおける「離職」は、
 失敗ではなく「すべての就労経験が肯定的に捉えられる」

2.IPSにおける「支援」の概要
支援は、クライアントが「働き続けるため」に提供される、例えば・・・
-医師は、クライアントが職場で働いている状況を基準に薬剤調整をする
-ケースマネージャーと心理臨床家は、職場での対人関係の難しさに対応するためにクライアントと話し合う
-就労支援スペシャリストは、事業主と連絡をとり、
  ①通勤の手助け
  ②仕事の進み具合を見直すために、仕事の後クライアントと会う
-就労支援スペシャリストと他のメンバーは、情報を頻繁に交換更新する




(別表:IPSと職業リハビリテーションとの違い)


(図:クライアントの安定度と、職業リハビリテーション、IPSの守備範囲)

○まとめ
(キーワード:IPS=医療の一部、アセスメント、一般就労)
IPSプログラムをもっとも特徴付けているのは、それが「医療の一環」として実施されることと言える。本人主体で、かつ本人ニーズに寄り添った就労を実現することにより、本人がエンパワメントされ、病状も改善し、結果として「リカバリー」に近づくことができるという。本書5章の記述により、科学的根拠も示されている。
 この点が、「経済社会で能力を発揮する権利を保障」する従来の職業リハビリテーションの考え方と大きく異なる点であるといえる。職業リハビリテーションの現場において、「(一般就労はまだ早いので)福祉的就労や施設利用」を進める場合があるのは、この経済活動に適応できるか否かという点を職業評価により判断した結果に基づいている。
 また、IPSプログラムにおけるアセスメントは、伝統的な検査を実施しないことによって特徴づけられる。しかし、アセスメントを実施しないわけではない。「職業能力」を把握するための方法が異なるだけであるといえる。むしろ就労前におけるIPSのアセスメントは、ありとあらゆる情報源からの「聞き取り」によって実施されるため、どのように情報を獲得し、面接時などにどのように先方に本人の能力を説明するか、という点が興味深い。
 さらに、「一般就労」の内容を厳密に見ていくと、職業リハビリテーションが準拠する行政用語としての「一般就労」の意味と、IPSプログラムにおける「一般就労」の意味は多少異なっていることがわかる。より条件が厳しいのは前者であるが、このことは現在日本で実施されている職業リハビリテーションの財源が、主に事業所が納める雇用保険と納付金であることに由来していると考えられる。

 働くことによって、生活の秩序を取り戻すなど、リハ効果が高まるという点は、職業リハビリテーションに携わる立場としても、同様の実感を持っている。よって、職業リハビリテーションとIPSとは対立する概念ではなく、またそれぞれの対象者像がはっきりと区別できるわけではないといえる。本人のニーズにより、どちらのプログラムを利用したいかということについて、選択肢を提示することができる環境を作ることが、社会復帰を検討する上で理想的な環境であるといえる。
そのためには、精神保健福祉に携わる方の支援メニューとして「就労支援」を組み込む発想と、職業リハビリテーションに携わる者の発想として「就労が医療の一環としても有効である」という考え方を持つことが重要であると考えられる。その上で、本人が正しい情報を得て考えた「真のニーズ」をいかに引き出し把握するか。このことがプログラムを問わず本人の就労を支える上で重要となる。

(ここまで)---