2022年9月24日土曜日

思い出したことは美談になりがち

  このBlogは、ビューが5~10件なので何の発信力もないのだけれども。以前から個人的には思うところがあって、最近一言にまとまってきたこと。

「『人生の決断』とか言うけど、そのほとんどは結果であって、自分語りをする時に言葉になるだけのこと。」

「人生の交差点・分岐点は、その時にはわからないこと」

 似たようなことは、カウンセリングの時にいろんな人に言ってきたけど、結局「何かを選ぶ」悩みのほとんどは仮の話であって、同列の選択肢が自分の前に提示されることはほとんどなく、だいたいは「自分の意とは異なる具体的な選択肢と、自分の思い通りになった時の仮の話」を天秤に並べて迷うもの。実際は「具体的な選択肢にのるか/すてるか」ということだけである。

 もう一つ言えば、上のような判断って、日常の延長線上で行われるものであって、その時は意味をもって選択肢が迫ってくるわけではない。といことは、その時の気分や準備の中で何気なく選んだことが、後日・後年思い出した時に「意味づけられる」だけのことである。結局は自分の中のことであって、何度も言うけれども、選択肢が意味を持って迫ってくるということではない、といえる。

 先日、そういえば就職活動やっている時にこんなことがあったなぁ、と仲間と話していた時に「人生の決断ですね」と言われたことに対する違和感から、こんなことを考えました。だって、飲み屋で「ウチにこい、俺が面倒みてやる!」と名刺をくれたのだけど、翌日強烈な二日酔いとその人というよりは背景の不信感が拭い去れず、結局履歴書ださなかった、というだけのことだもん。履歴書出していたら、今所沢にはいないかもしれないのだけれども、どうなっていたか、なんてわかんないじゃん。

 そのエピソードだって、就職活動を思い出して、半ば美談にしていたからそう聞こえたのだろうし、その時だって自分の職歴を「環境活動か/教育活動か」だなんて将来を選んだつもりはない(その後、雇用支援から自治体職員になるなど、想像もしていなかった)わけで。

 だから、楽しいよね。っていうのと、世にはびこる「目標指向を人生に適用する」できるのは、ごくごく一部の人達の営みなのだろうと思うわけです。

林誠『どんな部署でも必ず役立つ 公務員の読み書きそろばん』学陽書房、2020年。

 コロナ陽性(2022年8月:オミクロン株の時期)の症状が軽快し始めた時に、少し頭に負荷をかけようとして選んだ一冊。

 こんな本を書ける人が職場の先輩にいるという心強さと、基礎基本を今一度確認をと思って手に取る。私が中途採用者であることと、前職から今までも含め、どちらかというと「事務職らしくない」仕事ばかりやってきているので、勝手知ったるところでも、窓口や現場に立つことに何の不安もないのだけれども、いわゆる中堅事務職員に求められる技能(の一部)はすっぽ抜けている自覚があるので、こういう基礎基本は本当に心強い読み物だった。

 現代的なスキルとして、統計の読み方や、ファシリテーションに触れているなど、「このままでいい」と思えるようなことも、予算科目のざっくりした読み方(「報酬」か「報償費」かとか「工事請負費」と「修繕費」の違いとか)、何度聞いてもよくわかっていなかった地方交付税の算定式とか(「基準財政需要額」-「基準財政収入額」で求められる。後者はある程度積算可能だが、前者は国の裁量で係数が毎年変わるなど)地方自治体の全体を見通すための言葉が、平易にまとめられており、そんな意味でも心強い一冊。

岡田憲治『政治学者、PTA会長になる』毎日新聞出版、2022、Kindle版。

 本書との出会いは、我が家で購読している『毎日小学生新聞』の広告欄。2020年度にPTA会長に就いていたIyokiyehaさんは、その職を退いた今でもPTA活動には興味がある。とはいえ、今は関わろうとはしない。ありがたいことに個人的には勧誘してもらえるけど。振り返れば、IyokiyehaにとってPTA活動は2勝5敗くらいの感覚で、そのうちの1敗分が「あー、めんどくせ」に変換されてしまったために、おなかいっぱい、になってしまったのが現実。とはいえ、当時からもやもやと頭や心に残っていたものが、すーっと言葉に整理された読後感のある一冊だった。

 考え方や思いは、おそらく私と近いところにあったように読み取れるのだが、その受け止め方や対峙の仕方、そして取り組みは数段階進んでいるようだ。会長の任期が異なる(私は副会長2年、会長1年。著者岡田氏は会長3年)ことも大きな違いだが、役員ポイント制や区市町村P連との関わりなど、似たような問題意識への取り組みと着地点のイメージ、実際の乗り切り方が全く異なっており大変興味深い。PTAは「やるべきもの」ではなく「やったほうがいい、あった方がいいもの」であることや、「多くの人が気軽に学校と関わるしかけ」を持つべきとする根本的なイメージは重なる部分が多い。ただ、それを「自治の課題」と位置づけて、原理原則を確認した上で必要なもの・こと、そうでないもの・ことを分類し、整理していったあたりの経緯は、(おそらくここに描ききれない出来事が細々あったのだろうが)読んでいて小気味良いものだった。参考になった。

 特筆すべきは、役員ポイントでもベルマークでも感じたことだが、集まって雑談することの「ガス抜き機能」を明確化し、自由な活動の中にきちんと位置づけていること。それを正当化するために「挙手制、提案制」のボランティア活動を推奨してたきつけ、本部役員はコンセプトキーパーに徹していること、など、おおよそ私がイメージですら到達しえなかった、ベクトルの先にあるものを具現化している。

 「PTAかくあるべき」ではなく「それぞれ原点に返って、見直したほうがいいんじゃない?」と訴えかけてくるような一連の取り組み記録である。政治学者ならではの分析も鋭いが、専門用語で切り分けていくのではなく、あくまで運動・活動の内面から立ち上がる「感情」を大切に、あくまで活動のためのガイドとなりうる内容にまとまっている。他の論考や記事には「PTAは不要」と断じてしまうようなものもある中にあって、本書の整理は「PTAの役割を再構築」しているものであり、これは、原点に返ることから現在と個別の学校の状況に即した活動があるはずだ、とする主張の書である。

 PTA関係者や子を持つ親に「考えること」を促す、大人の良書といえる。

森島いずみ『ずっと見つめていた』偕成社、2020年。

 図書館シリーズ。ティーンズ向け小説。新刊の棚に並んでいて、装丁が素敵で手に取った一冊。

 妹の化学物質過敏症候群を理由に、埼玉県浦和市から山梨県南アルプス市に転居した一家を描く作品。自然の恵みや人情ばかりでなく、地方のよそ者扱いや都会へのあこがれなども描かれている。小説ではあるが、派手ではなくむしろ普通のありふれた日常を描いており、淡々と心温まる内容になっている。

 浦和のマンションを売って、母親の夢だった地方で食堂を開店する。素晴らしい材料を母親が料理の腕をふるうのだが、地元の親玉のようなおじいさんが「よそ者め!」と言って回るので、近所の他の人もお店を使いづらくなっていく。近所づきあいも少しギクシャクするのだけれども、ある事件がきっかけで・・・という、よくあるお話なのだけれども、一家の人柄がよかったり、近所の人たちも根がいい人達だから、きっかけでカチリと歯車が合えば、コロコロと事態は展開していく。読んでいて、穏やかなのに何かこころが暖まる、そんな読後感のある小説でした。

 願わくは、続編を読んでみたい。

白石優生『タガヤセ!日本 「農水省の白石さん」が農業の魅力教えます(14歳の世渡り術シリーズ』河出書房新社、2022年。

 農林水産省の公式You Tubeチャンネル「BUZZ MAFF」で活躍されている、白石さんが中学生に農業の魅力を語る一冊。これは面白い。

 動画コンテンツは、ながら観ができないのと、コンテンツの質がどうしても玉石あることから、あまり利用しないのだけれども、そんなIyokiyehaにあって、時々再生しているYouTubeチャンネルの一つ「BUZZ MAFF」。農水省の取り組みを、動画コンテンツとして若手官僚が作成し発表する活動で、チームによって差はあれど、公的機関の広報を根本から考えさせられる取り組みといえる。公務員あるあるが絶妙な感じで織り込まれ、手作り感がたまらない。ただ、その内容は奇をてらってモノだけではなく、きちんと国の施策をとりあげており、ありとあらゆる方法を使って、広く伝えようとしている姿勢が見て取れる。Iyokiyehaイチオシのチャンネルである。

 その中心人物の白石氏。農業への興味から、身近な農業、進んだ農業、今の農業について、現状から課題、対策まで、身近でできることを語る。端々に、ちょっとした蘊蓄も盛り込まれ、冷蔵庫やスーパーから農業を考えられる一冊にまとまっている。大人が読んでも本格的な内容で、食料自給率など広い課題にも触れつつ、ただその語り口は14歳向けで大変わかりやすい。言葉選びのセンスはあるのだろうが、それ以上に九州勤務~現在を通じて、相当勉強されているのだろうと察せられる。

 まだ20代、若手官僚でありながら、広い見識とその伝え方は、たとえ農業に興味のない人であってもちょっと気になってしまうレベルで、それは日々のBUZZ MAFFや本書を通じて感じ取れる。とはいえ、彼にはまだまだ語ることがあるだろうし、今後の活躍にもついつい期待してしまう。

kagshun『精神科医kagshunが教えるつらさを手放す方法 幸せになる超ライフハック』KADOKAWA、2022年。

 Voicyで何気なく聴き始め、現在私のプレミアムリスナー枠に収まっている、元世界一周バックパッカーで精神科医による著書。「精神科医のココロに効くラジオ」で語る、人の性格に関する分類や、心の病気の概説を、ウェルビーイング(Well Being)と結びつけて、生活に役立ついろんな知識やアドバイスが書かれている一冊。

 元々私にとってラジオ番組がコツンと響いている人の著書なので、内容はすんなりと入ってくるし、自分が知っていることと、その周辺の+αの知識に加え、「それを生活に活かすための具体的な方法」を理論に基づき説明している。いわゆるよくある「ポジティブ思考」にも似ているのだけれども、ここで一つ視野が広がったことは、「健康を追い求める社会=幸せな社会とは限らない」という言葉。ちょっと振り返れば当たり前のことで、人間易きに流れやすく、私もその例外ではなく、目の前の快楽を優先してしまうことがあるわけです。ただ、それは全部が全部悪いわけではなくて、自分で納得していれば「それもアリ」と思える、「いい/わるい」じゃなくて「幸せ」というもっと先の生き方を意識すれば、目の前の明らかな健康に悪いことでも「その場で結構楽しいもの」は、それはそれで自分の生き方を豊かにする一つになり得る、ということ。「生き方の正解はひとりひとりが決めていい」ということです。当たり前のことだけど、改めて言葉にしてもらえると、きちんと意識できますね。万人におすすめの一冊です。

 音声番組の方では、精神疾患に関してかなり突っ込んだ話題や、逆にゆるゆる軽々な話題まで多彩な話題が満載です。精神科医が一般、それもどちらかというと若者や当事者向けに病気の解説や背景・歴史を説明することがあり、これが大変勉強になります。G氏を褒めちぎっていたり、私の志向とは合わないものを取り上げることもあるので、ズレを感じるところもありますが、それも視野を広げるきっかけになると思えばアリってことで。

鴻上尚史『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』講談社、Audiobook版。

 戦争をモチーフにした作品は、自分なりに違和感をもって読み進めることにしている。なぜか?私が気になるのは、個人内の公と私のせめぎ合いだ。「戦争に参加している、そのときの体験、思考を描き切っているもの、逆に言えば公や世間体といったことに染まり切っていないものに、接することができたと思える機会は、それほど多くない。

 そんな背景の中で本書は、Audiobook.jp内で評判がよかったことと、率直に題名に惹かれた、ということがある。特攻、反抗、という言葉がキーワードになって、自分の目にとまったというのがきっかけだった。

 想像以上の生き様が描かれている、と思った。「特攻兵として9回(くらい)出撃して、生還した」というすさまじい実績を一旦おいておけば、一兵卒として何十機という航空機や船を沈めたわけではなく、小説『永遠のゼロ』で描かれた宮部久蔵ように類い希な操縦技術をもっていたわけでもない。そして、崇高な自己犠牲精神の表れた行動や、国を守るために身を犠牲にするという行動もここでは強調されない。ただ一点、「航空機乗りとしては、一機でも多く敵国船を沈め、失敗しても何度でも沈めに行く」というプライドと、そのプライドを支える「必ず生き残る」という気迫と行動は、この書籍を貫くテーマであり、ある人の「生き様」と言ったときに語られるべき歴史なのだと思った。

 戦争末期にかけて、日本の風潮が「お国のために死んで参ります」を褒め称えるようになってきており、軍隊を描いたものには十中八九「華々しく散ってこい」「お国のために死んでこい」と上官に命じられる様子が描かれる。一部では事実だったのだろうし、こうした側面があったことは否定しない。個人の中にそうした意思が全くないとも思わないし、きっと何かきっかけがなければ、自分を鼓舞することはできないこともあったかもしれない。こういう描写を多く見かける戦時中の読み物にあって、本著(の基となった人物、ササキトモジ氏)の記述内容は、読む(聴く)たびに驚くことの連続である。特攻の不合理さを暗に指摘し、特攻作戦でありながら、爆弾を投下する発想をもった上官、その説得を受けて飛行機を改造した整備士、生還するも他の上官から鋭く徹底的に罵られ、「死んでこい」と言われても言われても、それでも何度も生還する肝のすわり方。何度も続ける内に誰も口にしないが「こいつを死なせてはならない」と援護し続ける直掩機パイロット達、戦没者に名を連ねられ帰国の目処が立たない絶望の淵にあっても彼を励まし続ける仲間達・・・

 ササキ氏のプライドを気迫が周囲の認識と行動を変えていくあたりは、迫力だけでなく感動してしまうようなエピソードであった。個が公を超えて、人間としてあるべき在り方が広がっていったかのような感じがした。

 初めは聞き流すつもりで購入したAudiobookでしたが、その内容のすごさから思わず聴き入ってしまいました。戦争物に抵抗がない人ならば、おすすめの1冊です。

2022年9月20日火曜日

齊藤飛鳥『子ども食堂 かみふうせん』国土社、2018年。

 個人的に「子ども食堂」に対しては、なんとも言えない魅力を感じており、老後の視野の隅に入っていたりする。カミさんには反対されるだろうけど。あこがれから手を出した、というわけではないのだけれども、最近、いわゆる「児童文学」っぽい読み物も気楽に読むようになったので、あの「国土社」さんの出版物(以前、『月刊社会教育』を取り扱っていた出版社)ということや、Amazonセールであと1,000円くらい買いたかったことなど、いくつかの偶然が重なって手に取った一冊。

 八百屋のおかみさん「あーさん」が月2回ではじめてみた子ども食堂「かみふうせん」と、そこに集まる子ども達の物語。両親が突然出て行ってしまった女の子、芸能活動をする妹を持つ男の子、テーブルトークゲームが好きな家族の一人で自称「地味」な女の子、レストランを経営する一家の男の子。みんながちょっとした生きづらさを抱えていて、「かみふうせん」にくることで、生き方の選択肢が増えた、というシンプルな短編集。シンプルでわかりやすい。

 制度面の大人の理屈ではなく、子どもの課題解決事例とも言い難い物語。フィクションなのだろうけど、巻末に参考資料など掲載しているあたり、著者は丁寧に取材しているか、子ども食道の運営に関わっておられるのだろう。特別な物語のように見えて、おそらくこんな事例はあったのだと推察される。見方によっては重大な事件にも見えるし、本人にとっては生活そのもの。事実は小説よりも奇なり Truth is stranger than fiction.と言われますが、まさに、そういうことかもしれない。読み物と見せて、実は身近によくあることなのかもしれない、なんて思いながら読みました。

 とはいえ、こんな風にあーだこーだと考えるのも大人の発想かもしれません。読んでちょっとほっとする、派手なハッピーエンドじゃなくて、地味な一歩前進のお話なんだけれども、こころを暖めたい時にパラパラっと読みたい一冊です。

■引用

80 強いやつと戦う勇気がないのをごまかし、弱いやつをつぶして自分をなぐさめているだけの、絵に描いたような負け犬が、このおれだからだ。

定野司『マンガでわかる!自治体予算のリアル』学陽書房、2019年。

 少し前に紹介した『はじめての自治体会計0からBOOK』と併せて、今年度の異動に伴い読んでみた一冊です。マンガで事例が紹介され、それに解説が入るという構成。予算とか会計とか、数字や字面を追わなきゃいけないことですが、言葉になじみがない自分に合わせて入門書を選んでみました。

 率直に、読み物として面白いかと問われたら、派手さはないし、地味だし、ドラマのようなわかりやすい二項対立の表面化、みたいな話ではないので、面白いとはいいきれません。ただ、自治体の予算は、金額の多寡はさておき、本著にとりあげられているような、住民の生活と隣り合わせの、当たり前の、どこにでもある、地味なことの積み重ねでなりたっているわけで、本著の狙いは現場のど真ん中、とも言えるでしょう。こういう視点(つまり入庁して予算から身をひいていた、長年さぼっていた私の視点)で読めば、じわりじわりとしみこんでくる内容で、予算の原則(財政担当課の立場)と担当課の立ち位置などは大変よく表現されていると思います。

 私の仕事で言えば、ここ3ヶ月ほど歳出ばかり気にしていましたが、歳入あっての歳出であって、この視点をフォローできたのはこの読書のとりあえずの成果です。ただ、使い方の意味や補助金設計によって伝わる(伝わってしまう)メッセージといった、自治体財政の常識、的なことまで触れている内容なので、予算編成前にもう一度読んでおきたい本でした。

 ただ、時間を戻せるのであれば、入庁初年度くらいに一度読んでおきたい本だったな、と反省を込めて、でも良書に出会えたのは収穫です。

湯本香樹実文、はたこうしろう絵『あなたがおとなになったとき』講談社、2019年。

 図書館シリーズ。

 私は、もう大人になった(なってしまった)わけだけれども、子どもの頃に見た空や街並みは大人になって見え方が変わるのだろうか。答え 変わるものと変わらないものがある、というごくごく当たり前の答えに帰結します。

 実家に帰ると、40年前に見た景色が見えることもある。ただ、やっぱり変わっているものがほとんどです。人間関係はどうだろう?もともと私は、実家に帰ったからと連絡をとって会う人はそれほど多くない。とはいえ、学生時代からの付き合いの人と会うと、一気に20~30年くらいタイムスリップするような錯覚を覚えることがある。それほど不思議でもきれいなものではないけれど、それでも人の記憶は時間を超えて、記憶を今と結びつけることを軽々と、そして意図せずにやってのける。

 「大人になって、この空を一緒にみるのは誰なのだろう」とこの絵本は語りかける、過去が自然と思い出される、そんな絵本でした。

上間陽子『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』太田出版、Audiobook版。

 沖縄をフィールドにする研究者上間氏による、風俗業を生業とする女性たちの生活を描くもの。社会学的な学術分析が加えられたフィールドリサーチです。

 本著でとりあげられた女性たちが、「沖縄人ならではの行動」をとっているかというと、そうとは言い切れません。おそらく、日本のどの街にも似たようなことは無数にあり得るのだと思います。そうした厳しい状況におかれている女性たちへの膨大なインタビュー、調査によって執筆された一冊です。

 ただ、本著の特徴を私なりに表すなら、沖縄出身の著者が、沖縄で研究活動(社会活動にも近い動き方をしているが)を行ったことにより踏み込めたことがある内容と言えるように思います。沖縄ならではの家族関係と思われるような記述も随所に見られます。そして、そうした沖縄で生活する女性たちの行動を理解し描くにあたっては、著者の背景が少なからず影響していると思われました。

 この手の女性を描くルポルタージュによくある、配偶者やパートナーからの暴力、他人が見て良いとは言い難い家族関係、希薄なのか偏りなのか判断つきかねる友人関係、行政サービス・民間支援サービスとの未接続、こうした背景に本人の知的能力の低さがうかがえる言動が見え隠れすることなど、調査から感じたことをうまく描き出しています。よくよく読むと(聴くと)、言動の質は男女差があるとはいえ、社会的な背景まで読み解いていくと、性差による違いを超えた共通点が見え隠れします。「男女差」ではなく、「生活者」という視点から見える背景は、結局行政サービスの未整備だけでなく未接続、という事実が浮かび上がってきます。自治体職員の私としては素直に学ぶべきことだと思いました。ここまで深めてみてようやく、そこに性差をきちんと事実として把握しなければ、有効な支援、というのは設計できないでしょう。このことを強く感じた一冊でした。

 暴力的な言動があったとしても、それでも関わってしまうという「共依存」関係へのアプローチ、傍から差別的と見えても、それをもって関係が変わらない家族関係。その土台に「孕む」存在である女性という事実が関わってきます。沖縄という土地の特徴ともいえる低賃金、シングルマザーとして生きるための生活の糧の確保、支援者がこうした複合・複雑な「ヒト」と関わるために最低限必要なのは、何度「予想外」に直面しても「かかわりあい続ける」ことしかないでしょう。複合・複雑で先が見えない状況にあっても、まず目の前のことに取り組んで、まず一つ解きほぐしていく。次に出てきた課題にまた取り組む。時に二歩進めずに三歩下がることがあったとしても、「裏切られた」と思ったとしても、再び自分の前に表れたら、その時からまたやりなおす。そのやりなおしはゼロでないかもしれない、マイナススタートかもしれない。それでも何度でもどれだけでもかかわり合うことでのみ、その人にとって救いになり得るものだと思います。

 その人にとってたとえ筋にならない一点でも光に見えるのならば、それが希望になる。そう思って関わり続ける、立場を変えて支援を設計する、そういう気概がつながった時に、いわゆる「不幸」が一つずつ減っていく、そんなイメージが「かかわりあう」ことの本質だと思いました。

2022年9月6日火曜日

喜多川泰『運転者 未来を変える過去からの使者』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2019年。(書籍版)

 相変わらず喜多川氏の小説。『君と会えたから…』を買った書店を再び訪ねたところ、同じ場所にこの本が陳列されていた。私はAmazonさんで購入したけれども、ちょっとしたご縁を感じた出来事でした。あらすじは省略ですが、私くらいの年齢(現在43歳)、30代~40代後半くらいの方におすすめです。宗教色がないので読みやすい。

 上機嫌でいること、運は貯めてから使えるようになる、運の総量は現世で消費しきれるわけではなく、自分の運も現世のやりとりに留まらない。即効性はなくとも、自ら運気を転ずる(良くする)ために必要な習慣を、小説のモチーフとして語るもの。

 様々な伏線が張られていて、随所でそれを回収しつつ、一方で触れるにとどまり謎のまま通り過ぎていくものもあり、行間で読ませるしかけもあったりと、読み物としても単純に明快で面白い。それでいて、言葉の使い方が巧みであるのも著者の小説の特徴といえるだろう。謎のままもやもやしながらも、このすがすがしい読後感は何だろうと思える一冊でした。

■以下、引用

58 「いつでもどこでも、明るく楽しくいることだ。いつでも、どんなときでもな」

65 運は〈いい〉か〈悪い〉で表現するものじゃないんですよ。〈使う〉〈貯める〉で表現するものなんです。だから先に〈貯める〉があって、ある程度貯まったら〈使う〉ができる。少し貯めてはすぐ使う人もいれば、大きく貯めてから大きく使う人もいる。そのあたりは人によって違いますけどね。どちらにしても周囲から〈運がいい〉と思われている人は、貯まったから使っただけです。

106 「なるほど、上機嫌でいるというのは、楽しいことを期待するのではなく、起こることを楽しむと決めるということなのかもな」

168 実際に今の自分がやった努力の成果が自分に対して表れるのは、普通の人が考えているよりもずっとあとになってからです。それこそ十年とか、場合によっては百年とか・・・

蟹江憲史『SDGs入門 未来を変えるみんなのために』岩波書店、2021年。

 仕事で作文をする時に、「SDGsの項目を踏まえて」という条件が付されることが増え、真面目に勉強しておこうと思い、図書館で借りてきました。先に、斉藤幸平『人新世の「資本論」』のSDGs批判を読んでいたため、ちょっと批判的に考えていたのだけれども、きちんと読めば、やはり、持続可能な社会・世界を目指すための入り口だと分かり、ないがしろにするものではない、ということ。斉藤氏の批判についても、「単に『いいことをしていると思い込めるだけで、足りない取り組みを繰り返す』だけ」という地点ではないことも整理できた。

 要は、SDGsの目標というのは、何か業を起こしたり事業に取り組む時、開発を行う時に、それが何の目標に当てはまる取り組みで、取り組みの結果その目標となる分野がどのように「改善」されていくのか考えるフレームワークだということ。かつ、他のどの目標に影響を与えるのかを考えるフレームワークであるということ。これらを通して、持続可能な社会・世界にどのように寄与するのかを考えるためのフレームワークとなりうる、ということだと理解した。

 だから、SDGsの項目に当てはまることを「やればいい」のではなく、目標を通じて何を成し遂げたか「考えること」がその本質である。さらには、政治的合意で成立したものであり、各目標の整合性(こちらを達成すれば、他方も達成するなどの連動)は目標レベルでは未調整の段階であるため、他への影響を「考慮する」ための切り口となりうる。

 この背景には、答えのない問いに対して取り組むためには、不断の取り組みが必要であり、今のところ行動やその結果を相対的に評価するしかないわけだ。持続可能な社会や世界を目指すための現時点での到達点といえるだろう。

 本書は、様々な「前向きな」取り組みを目標に落とし込む理屈、そして他への影響への視野を、豊富な事例を基に丁寧に論じている。中学生向けと言ってあなどるなかれ、今まで読んだ本、論考の中でもトップクラスのわかりやすさだと思う。


中村朱美『売り上げを減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』ライツ社、Audiobook版。

 これはいい意味で期待を裏切った一冊だった。題名のインパクトに惹きつけられて聴いてみた一冊だったのだけれども、「佰食屋」(ひゃくしょくしゃ)という名称(漢字)にも表れているように、売り上げを基に考える経営から、人を基に考える経営へのシフトチェンジを描く飲食店の奮闘劇といえる。

 ローストビーフ丼をキラーコンテンツとして扱う飲食店が、販売量を制限するという発想と取り組みによって、働きやすさと管理された利益を出し続けるというビジネスモデルを提示する。売れるものを「売り続ける」のではなく、無理ない目標数を「売り切る」ことを標準とすることによって、他の目標への取り組みを強調できる。知恵を絞ることができる。

 ちょうどバスケットボールのピボットみたいに、ある点を固定すると他の部分が動くようになるイメージが浮かんだ。固定することができないと思い込んでいる「売り上げ」を敢えて固定(一定数を「売り切る」ようにする)ことで、思いもよらなかった成果(昼営業だけで事業が成立する)が生まれる。「働き方改革」と手探りで各社が取り組んでいることを、一足飛びで超えていく感じがした。その発想として「売り上げを固定」しているわけだ。

 どの業種、どの仕事にも「売り上げ固定」を当てはまるということを学んだのではなく、「何かを固定することで、自由になる何かがある」ことと「操作できないと思い込んでいることがある」ことを学んだ一冊だった。

喜多川泰『君と会えたから…』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2006年。

 以前Audiobookで聴いていて、素敵な物語だと思っていたのだけれども、先日本屋でばったりと出会うことができ、衝動買いしてしまった。『手紙屋』シリーズにも通底するところがある。要は、自分の可能性を小さく固めてしまうな、ということ。

 病に冒されたある女の子とのやりとりで物語は進んでいく。生まれてまもなく亡くなってしまった父親が残した「生き方メモ」のようなノートを、まるで生きている父親からの教えであるかのように学び、それを伝えられる主人公。半信半疑が別れという出来事を通じて確信に変わる、とまぁよくある現代小説ではあるのだれども、それでも読ませるのは喜多川マジックなのだろう。

 大変読みやすく、全体を通して明るい雰囲気の中で語られる内容は、万人に通じる人生訓とも言うべきものばかり。とはいえ、なかなか一歩踏み出せないのが人間なのかもしれないけれども。

 「成功」と「幸せ」を自分なりに再定義する、ハルカの講義は以下の構成(引用)

1 自分の欲しいものを知る

2 夢を実現させる方法を知る

3 経済的成功の真実を知る

4 魅力溢れる人になる

5 手段を目的にするな

6 できないという先入観を捨てる


ジョージ・ルーカス原案、岡崎弘明著『脱走大作戦 -ヤング・インディ・ジョーンズ11』文藝春秋(文春文庫)、1993年。

  シリーズ11作目。前作『硝煙の詩』でドイツ軍の捕虜となったインディの脱走劇。相方が若き日のドゴールというのも面白い。

 第一次世界大戦を一兵卒から描いた前作とは打って変わって、今作はエンターテイメント性が強く、『モンテ・クリスト伯』のような脱走劇に、魔女狩りの歴史がスパイスとなって読み物として大変面白いものになっている。テレビシリーズ当時も屈指の好きなエピソードでした。

 脱走なんてのは、ドラマの話だと思っているけれども、実際には結構あった出来事なんだろうな。とはいえ、トンネルを掘って逃げる「ショーシャンクの空に」みたいなものもそんなに件数があったとは思えないけれども。今作もトンネルあり、孤島あり、棺桶ありと何でもありの物語になっている。一気に読ませる勢いがある。


ディヴィッド・S・キダー 『1日1ページ。読むだけで身につく世界の教養365』文響社、Audiobook版。

 歴史、文学、芸術、化学、音楽、哲学、宗教をテーマに、365本のトピックを列挙したもの。いくつか続き物はあるが、基本的にはどこから読んでも役に立つ内容となっている。歴史の教科書の太字になっているトピックを、その背景や関連する人物、出来事とともにコンパクトにまとめられている。確か書籍版も見開き4ページくらいで一つの話題がまとまっていた。文学で紹介されている小説などは、ちょっと読んでみようかな、という内容で紹介されているし、音楽や化学なんかは、普段あまり接することがないので大変面白い。専門的な内容であっても、徹底して一般向けに書かれているので、読みやすい。

村上和雄『生命(いのち)の暗号 -あなたの遺伝子が目覚める時』サンマーク出版、Audiobook版。

 以前、就職活動の時に知り合って、いろんな話をした方からいただいた本が確かこの村上氏の著書だったと記憶している。「Something Great」人智を超えた何か、というもの(こと?)の存在を仮定し、科学者でありながら理屈では考えられない何かの存在を意識している姿勢は、大変好感がもてるし、私は科学者ではないけれども共感する。


池谷裕二『記憶力を強くする -最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方』講談社、Audiobook版

・海馬の働きについて、最新の知見を一般向けに論じたもの。様々な「記憶」について、その分類や特徴について紹介している。

・鍛え方、といっても体調と連動することや、年齢を重ねたとしてもそれ即ち忘れっぽくなるわけではないことなども紹介されている。高齢になったとしても、脳は働き続けるということだ。

川又千秋著、ジョージ・ルーカス原案『硝煙の詩 ヤング・インディジョーンズ10』文藝春秋(文春文庫)、1993年。

 シリーズ10作目。若き日のインディの活躍・・・であるが、今回は第一次世界大戦に従軍したインディが直面した戦争の真実、を描く小説。

 舞台は1918年、フランスのソンムの史実。総力戦と言われる第一次世界大戦における塹壕戦の最前線。銃弾飛び交う最前線で、一兵士として、仲間が銃弾に倒れる中、生きることの意味や、戦争の無常をこれでもかと突きつけられるインディを描く。

 子どもの頃って、バカだから、私はこのシリーズの中でこのお話は上位ランクのエピソードだったんだよね。戦闘シーンなんて何回も観ていた記憶がある。敵陣トンネルを抜けたらマシンガンの銃座の後ろに出てきて、そこから手榴弾で銃座を吹っ飛ばして・・・という一連の活躍にドキドキ高揚したのを覚えている