2013年3月25日月曜日

猪俣正雄著(大阪市立大学人権問題研究センター企画)『障害者雇用と企業経営 −共生社会にむけたスピリチュアル経営−』明石書店、2012年。

障害者雇用に対し、企業がどのような意識をもって取り組んでいるのか、あるいはどんなニーズがあるのかといったことを知りたかったので読み始めた書籍。
Iyokiyeha の問題意識については、大阪の企業に対する調査結果のみの内容となっているので、当初知りたかった内容に答える内容ではなかったのだが、最後まで読ませる内容であった。
詳細は読み始めた頃に少しずつ書きためたTweetに譲る(後述:長文メモ)が、企業経営はどうあるべきか、どんな社会や組織が理想的なのかといった壮大なテーマに真摯に取り組んでいる一冊であるといえる。著者猪俣氏の思索もまだまだ広がりまだまだ深まる余地が見え隠れするが、これまでに語られた緒論を端的かつ包括的に整理しており、大変勉強になる一冊だった。
現在の私の関心事である職業リハビリテーションそのものに対する考察や憲法や法的な位置づけといった内容にはあまり紙面を割いていないが、あくまで企業経営のあり方について切り込んだ一冊である。


(以下、Tweetを引用)

問題意識:(1)市場経済万能主義に対抗する概念や思想をどのように構築するか。(2)スピリチュアリティやロゴスあるいは意味実現の概念を職場や仕事にどのように取り入れるか。(3)共生の究極の条件をどのように捉えるか。(4)どのような社会や組織(企業)の実現を求めるか。
当事者の親の立場でもある。

障害者雇用の経済的視点:障害のある人を雇用するかどうかは一般の労働市場と同様、経済合理性によって決める。雇用をコストと捉え、費用対効果によって雇用すべきかどうか決定する。市場原理に従った結果であり、新自由主義や新古典派経済学の流れ。
障害者雇用の法的視点:社会的正義からすべての人々にまず社会的経済的利益が平等に分配されるべき(ロールズ)。葛藤や衝突の予防(ケーリー)。人々の自尊の観点から労働権を擁護(カフカ)。障害のある人の働く権利を保障するもの。

障害者雇用の倫理的視点:コールバーグの倫理の発達段階。前慣習レベル:1.罰と服従志向、2.道具主義的相対主義者志向。慣習レベル:3.良い子志向、4.法と秩序志向。後慣習レベル:5.社会契約的遵法主義志向、6.普遍的な倫理的原理志向。前慣習レベルは経済的視点、慣習レベルは法的視点に対応。倫理レベルは後慣習レベルで尊厳の尊重を重要視する。人間は存在価値をもつゆえ尊厳が尊重される必要があり倫理が求められる。働く人の尊厳性を考慮して雇用すること。

障害者雇用のスピリチュアルの視点1:ヴィルバーの発達段階。1.前慣習レベル:幼児の意識の段階で他社の存在を尊重する意識がない。2.慣習レベル:自己の所属する集団・部族・国家の価値観を中心として考える。3.後慣習レベル:民族、人種、性、信仰に関係なくあらゆる人間に対して愛情と関心を向ける。4.後・後慣習レベル:事故のアイデンティティをあらゆる生命体に拡張し、愛情を向ける。
スピリチュアリティを(1)意識の発達ラインにおける最高の状態。(2)愛、信仰といった精神的な態度、姿勢と捉える。自己と自己を超越した外部の崇高なものなどとの一体化や融合、自己利益と他社利益の統合化。

スピリチュアル経営とは:経営者がスピリチュアルな価値(前述)を実践して組織の有効性を達成する過程。組織成員が(1)自己超越性(2)信頼(3)支援(4)憐情(5)献身(6)天職、に基づいて行動すること。仕事によってスピリチュアリティを達成する。仕事が有する次元、(1)手段性(2)社会性(3)評価性(4)精神性。何のために仕事をするのかという根本から、他者や社会との関わりあいの中で生き、自己超越していく目的。
本来は人間が主役で、仕事は人間に合わせるもの。一人ひとりが仕事ができるように創意工夫することが組織のイノベーションを生み出す。イノベーションの機会は他者や組織あるいは社会に貢献する自己超越的行為。
一般雇用に向けて:インクルージョンの理念に基づき障害者雇用支援を行うこと。インクルージョンとはバリアフリーの共生社会のこと。物理的だけでなく、制度、文化・情報、意識のバリアが除去され、すべての人がアクセス可能な社会。

必要な支援:1環境的支援、2経済的支援、3職務遂行的支援。1:物理的、制度的、心理的バリアを除去する取り組み。援助付き雇用や援助付き雇用の拡充が求められる。2:企業の労働生産性と当事者の生産性のギャップを補填する。3:仕事の要件と障害のある人の能力との間のギャップを埋める支援。ジョブコーチやメンターの取り組み。担当者から面的に関わっていくナチュラルサポートの形成。1〜3が総合的に行われることが共生のコンテクストを創造する。

日本の障害者雇用施策:障害者雇用促進法の三本柱、1職業リハビリテーション、2障害者雇用率制度、3障害者雇用納付金制度および障害者雇用継続助成制度。筆者は、障害者が職業能力を高めることで就労可能にするという考え方を課題としている。
課題:一括採用と終身雇用。意識のバリア:障害そのものが拒否する理由になっている=訓練やリハビリテーションが欠陥モデルに基づいており、(障害を)直して就職する、という考え方が定着しており、社会のバリアではなく意識のバリアとなっている。インクルージョンの考えを取り入れ雇用施策を障害者権利条約に合うよう整備する。1合理的配慮を行わないことを差別とする障害者差別禁止法の制定と権利擁護、罰則規定、救済措置の整備。2雇用率を5%とし20人以上規模の事業所を対象とする。3納付金を現在の不足1人あたり月5万円から平均賃金額とする。4政府や地方公共団体との取引において法定雇用率の遵守を選定基準に含めること。一部の自治体では既に行われている。

共生のコンテクスト:障害者雇用の根拠は何か、統合された職場で働くメリットとは何か、真の共生とは何かを検討し、共生のコンテクストを創造するための条件を明らかにする。
障害者観と雇用:M.プレステレイやH.G.ギャラファーによる障害者観=社会の偏見が障害者を不当に差別し施策を阻害する。労働市場も例外ではなく、特に新古典派経済学では顕著。障害者は生産性が低い→適応を必要とする→それは大きな支出となる。障害者問題の原因が障害のある個人の問題と考えることが障害者観として出てきている。一方で障害者運動の結果として自立生活モデルIndependent Living Modelが注目されている。問題や欠陥は社会の中にある。

障害者雇用の根拠:企業がなぜ障害者雇用をするか。1企業に必要な人材であること、2社会的責任として、3アファーマティブ・アクション(積極的優遇措置)として、4ロゴス性。働くことの意味を追求することが企業や個人のロゴス性を明確にする。
共生と障害者雇用:企業の中で障害者が共に働く関係が望ましいと考え雇用することは、相利共生関係を求めることになる。生産性や効率を害する存在と捉え、健常者に依存している存在として捉えると片利共生の関係となる。新古典主義経済学では後者。多様性はイノベーションを生み出し企業が活性化する。相乗効果。障害者雇用にかかるコストをとるか、外部からの信頼をとるか、見極めが重要となる。冗長関係。要素還元主義的にコストを切り出すのではなく、全体像を捉えて考える。
共生のコンテクスト:仕事を単位とし、仕事に人を貼り付ける発想で障害者の訓練をする方法は欠陥モデルに基づくリハビリ。シュリナーの提唱する変革的リハビリテーションとは社会システムを分析単位として客観的条件を変革するもの。仕事の再編成。

キャリア論(ホール):1昇進、2専門職、3生涯にわたる職務の連続、4生涯にわたる役割に関連する経験の連続。キャリア=人の生涯にわたる仕事関連の経験や活動に関わる態度や行動について個人的に知覚した連続。
(スーパー):キャリア発達とは職業的自己概念を発達させ実行していく過程。時間の視点から捉えたライフ・スパン、役割の視点で捉えたライフ・スペースのアプローチ。成長、探索、確立、維持、減退というライフステージに集約。発達課題。
(ホランド):職業行動を説明することに関心。6つのパーソナリティ(現実的、研究的、芸術的、社交的、起業家的、習慣的)、6つのモデル環境(現実的、研究的、芸術的、社交的、起業家的、習慣的環境)があり組み合わせ、行動が決定される。
(シャイン):個人のキャリア発達過程をキャリア・アンカーの概念で捉える。組織と個人との相互作用の過程でキャリア問題を明らかに。個人のキャリア形成は、1個人の成長、仕事、家庭の相互作用とする。それぞれの欲求を満たす方法が必要。
(ハンセン):統合的人生設計モデルIntegratibe Life Planning。キャリア=個人と仕事の適合関係だけでなく、家族・他者との関係・生活上の役割など多くの分野を含めて、生涯にわたる関係で全体滝に捉える。キャリア発達6つの課題。1変化するグローバル視点で仕事を見つける、2人生を意味ある全体に作る、3家庭と仕事を結合する、4多元主義と包摂性を価値づける、5スピリチュアリティの探求、6自分自身の生活の変革者となる。
(シマンスキーら):キャリア発達の構成要素を1個人、2コンテクスト、3媒介要因(個人・環境・社会)、4仕事環境、5結果に分類。キャリアの結果はそれぞれの要因の相互作用で決定されることを示す(≠個人要因と環境要因だけじゃない)。
QOL:人にとって重要な領域を含む諸関係のパターンや全人としてキャリアを捉え、キャリア発達の統合的全体的枠組みを示す。キャリア=仕事ではなく、他の経験や学習の側面を含む。障害のある人の場合は支援を受けることによって向上することもある。
キャリア形成のバリア:キャリア形成を妨げる問題は、1人生早期における経験の不足、2意思決定の困難、3否定的な自己概念。適切な意思決定の機会を与えられないために、意思決定能力が身に付かないなど、社会のしくみと相まって自信をなくしていく。
原因は障害ではなく社会的バリア:障害者問題の基本は、障害そのものではなく障害のある人のライフ・ステージごとに立ちはだかる社会的バリアにあるため、その解決はバリアの除去と彼らの希望を満たすように支援することにある。キャリア形成も同様。

コミュニケーション:障害者の根本問題は障害そのものではなく、その人のコミュニケーションにある。このことが雇用・就労を難しくしている。バーナードの組織成立の三要素(共通目的、協働意欲、コミュニケーション)を引用。
一般モデル。送り手はメッセージを記号化する。その記号はチャンネル(媒体)を通して受けてに解読され、ようやく受け手に届く。各段階でノイズが入る。また記号そのものの明示的な意味だけでなく暗示的な意味も含まれる。
言語はそれを使う人がその規則を知ることで行われる。規則システムは1.形式、2.内容、3.使用、からなる。
1:単語と文法を理解することで自分の考えや意志を表現する。
2:単語の意味を知らなければ言語を使用できない。
会話で重要なのは、送り手と受け手がそれぞれ立場を変えること。効果的な会話には、新自己中心性(他の人の立場をとる能力)と脱中心化(一つの問題についていくつかの側面を同時に考える能力)が必要(バーンスタイン)。
言語的意味とは語や文によって一義的に決まるものではなく、コンテクスト(文章の前後の関係)との関係でしか決まらない。語の単語的意味を知っていてもその意味は会話する状況によって決まるのでコンテクストの理解が必要となる。人は発達するにつれてコミュニケーションにおける意味形成について周りの人との関わり合いの中で、あるいは社会的文化的状況の中で自動的に習得していくと考えられる。障害のある人はこの習得家庭に障害を起こし十分に対応できない。
注意の視点を含めた情報処理システム(R.オーエンズ)1:注意、2:組織化、3:記憶、4:移転。前提としての人間の能力は1.注意の範囲に限界がある、2.注意の一元性、3.認知的緊張を避けようとする内的欲求。

援助付き雇用の理念。
障害のある人が学校卒業後にとる進路は以下の4つに大別される。
�競争的な一般雇用Competitive Employment、�援助付き雇用Supported Employment、�作業所Sheltered Employment、�デイ・プログラムAdult Day Progrum。�は「一般就労」と呼ばれるもので援助を受けずに働くこと、�は職場で他の障害のある人や障害のない人々と一緒に、特別の援助を受けて働くこと、�は障害のある人専用の隔離された場所で働くこと、�は働くのに必要な技能を身につけるためのプログラムのこと。

援助付き雇用とは。
�従来就職できるとは考えられなかった
�以前に就職したことがない
�重度の障害を持つ人々が
�最低賃金以上の給付を得て
�週20時間以上一般就労するもの
である。特徴は、
イ.一般の競争的雇用でその生産性に応じて賃金が払われること
ロ.統合された職場で行われること
ハ.重度の障害のある人のために行われること
である。援助付き雇用を細かく分けると、
�エンクレイヴ・モデルenclave model 一般の職場の中でグループが援助を受けながら働くこと
�作業班モデルwork crew model コミュニティ内で援助を受けながらグループで働くこと
�個人別援助付き職務individual supported job 個人の興味やニーズに合わせた職場で個別に支援を受けながら働くこと
に分けられる。

援助付き雇用の理念とは。
�すべての人々は、働き賃金を得る権利をもっており、競争的な仕事を行う機会が与えられなければならないということ。困難は障害ではなく人々の態度にあるため、社会の態度や偏見あるいは差別を除去すれば、障害のある人は仕事の世界に入り成功を収めることができる。
�就労するために準備する必要はないということ。訓練してから就職させるのではなく、彼らが就きたい職場に就職させ、そこで彼らに必要な支援を行う。

(部下の)業績は
 業績=動機付け×能力×役割知覚×環境の制約
で表せる。

能力:一定の職務を効果的に遂行する能力や特性のこと。しかし障害者雇用においては、能力よりも興味や関心、態度、欲求あるいは仕事に対する価値が重要となる。
動機付け:仕事への意欲ないし仕事を遂行しようとする意志の強さ、あるいは意思の力。
役割知覚:自分の役割を正確に認識しているか否かという点。必ずしも期待された行動をするとは限らない。実際にすべきと考えている「知覚された役割」と実際に行った一連の行動である「演じられた役割」との間に葛藤が生じることもある。
職場環境:職場の物理的環境整備、人的支援体制を含む概念。

就労支援者(スペシャリスト)に求められる要件とは、
1.被支援者の要求ないし要望を聴き取り、それに的確に対応するコミュニケーション能力
2.職場開拓や総合的職業に関する知識や技能
3.地域の事業主や企業家と良好な関係を築ける能力
4.企業の人的資源管理に関する知識
5.人間関係調整能力
6.障害のある人に関する専門的知識
7.障害のある人の適性を見つけその能力を開発し、動機付ける技能
8.障害のある人の権利擁護
198ページ。
信頼のコミュニケーションが必要となる。障害のある人を理解し、彼や彼女をトータルに受け容れ、個々の障害に対応する

2013年3月7日木曜日

子育てしていて思うこと

子ども手当も大事、保育園も大事、幼児教育無償化も意識改革も全部大事。
でも、最近思うのは制度によって支援の拡大について白黒ハッキリさせることなんじゃなくて、もっとグレーな部分を拡大していくことなんじゃないかなと思う。
一つ切に思うことは、働き方(男だけじゃないです)が変わると、生活スタイルが変わるよね、ってこと。