2008年8月10日日曜日

精神科リハビリテーション学(草稿)

WHOの障害構造モデルと国際生活機能分類(ICF)の生活機能構造モデルの違いを述べ、その違いが実際の支援にどのような違いとなって表れるか述べなさい。

1.はじめに
 精神障害者が社会復帰を目指す時には、社会生活技能の向上や、治療履歴に対する偏見からの復権等、個々の課題に応じた取り組みが必要となる。その人の希望や、自己実現に向かうための専門的支援として、精神科リハビリテーションは位置づく。我が国では、社会参加や活動に制限があったり、症状の変化が続くなど、長期に渡り生活の困難がある人達が、その対象となる。
 本稿では、精神科リハビリテーションを実施する上で不可欠となる、「対象者理解」に焦点を当て、精神障害を持つ人の「状態」を把握するための二つのモデルを紹介し、その違いを説明する。また、その違いが具体的な支援に与える影響を説明する。

2.障害構造モデルと生活機能構造モデルの観点
 世界保健機関は、国際疾病分類(ICD)の補助として、1980年に国際疾病分類(以下「ICIDH」)を発表する。ICIDHでは、個人レベルの障害を、「疾病または変調」、「機能障害」、「能力障害」、「社会的不利」に分類する。障害によってもたらされる「社会的不利」の原因を、その人の「疾病・変調」だけに求めず、その人の機能や能力に応じた代替手段や訓練を検討することを示唆するモデルとして捉えることのできる一方で、その人の生活全体における障害を理解するには不十分であると指摘された。
 数度に渡る検討を経て、2001年5月には国際生活機能分類(以下「ICF」)が採択された。人間の生活機能と障害との関係を「心身機能・身体構造」、「活動」、「参加」の側面から考える。その人の抱える困難は、個人の能力改善や機能障害を補完する技術により改善されるだけでなく、その人を取り巻く環境の調整により困難が改善されていくという、個人と環境との相互作用が強調されるモデルとして捉えられる。
 ICFは、個人の「できること」に焦点を当て、活動や参加を可能とする方法を環境調整にも求め、結果として社会参加の実現を目指す。ICFは、ICIDHよりもノーマライゼーション理念が反映され、目指すべき社会の姿を示唆している。

3.具体的な支援
 具体的な支援場面では、ICIDHとICFの考え方がそれぞれどんな違いとなって表れるか、私の経験を振り返り、精神障害者の就労支援場面を考える。ここでは、「人間関係の不調」を理由に離転職歴が多い精神障害者の支援を取り上げる。
 気分障害のAさんは、面接を突破し就職はできるが、慣れた頃に「他の従業員からどう思われているのか」が気になり、不安が高まる傾向がある。その結果、1~2ヶ月で離転職を繰り返してきた。
 ICIDHの枠組みで支援計画を立てるならば、継続就労が難しい(社会的不利)理由を以下のように分類して考える。障害により気分の落ち込みが大きく(疾病または変調)、また気分が落ち込みやすい(機能障害)ことと、周囲の状況をやや被害的に受け止めてしまいがちな考え方の癖(能力障害)が気分の落ち込みを生んでいると考えられる。よって、薬物療法により気分の落ち込みの程度や頻度を抑えつつ、認知療法等により気分の落ち込みを生む原因となっている考え方の癖について修正を図っていく計画が立てられる。
 一方、ICFはどうか。上記支援と平行し、職場に対する働きかけを計画する。就労(参加)を妨げているのは、状況を被害的に捉えがちな認知の癖(個人因子)の他に、Aさんが誤認識する原因が職場(環境因子)にもあると考える。個人因子の改善と共に、例えばAさんの上司にAさんの特性(やや被害的な捉え方をすることと、相談により気分の落ち込みは軽減できること、等)を伝えることにより、日常声をかけてもらう、相談に乗ってもらえる体制を整え、Aさんは自分が気になることを確認できる(活動)ようになる。その結果、気分の落ち込みの頻度も少なくなる(心身機能・身体構造)。また、Aさんの気分の波による欠勤時も、不必要な不信感を他の従業員に与えずに勤務できるかもしれない。

4.まとめ
 ICIDHとICFの違いは、支援により本人の変化を促進するだけでなく、それと平行して環境調整を実施することで本人の困難を改善し、その向かう先にはノーマライゼーションが強調されている点であるといえる。
 精神障害者の就労を例にとれば、その人の就労を促進するために、個人の能力や障害の向上や改善だけでなく、職場環境を改善し変化させることも平行して実施することにより、精神障害者の就労継続が可能となる。
 このことは、精神保健福祉士の本来の役割にも合致している。こうした支援を実施するためには、本人のアセスメントだけでなく、本人を取り巻く環境についても正確な把握が必要となる。幅広い観点から、本人のニーズにより近づいた支援計画を立てられるようになりたい。




(勉強メモ)


なお、公開されている文章をコピーして提出課題とするのはやめてください。