2008年8月19日火曜日

精神保健福祉士スクーリング(4日目)精神科リハビリテーション学

4日目。
スクーリング折り返し地点である。
率直なところ、思っていたよりも熱のこもった講義が立て続けに並んでいるので、心地いい疲れに襲われている。
これまでのところ、講師は皆PSWとして現場を作ってきた人たちで、理論を具現化し、現在は教育に携わっているということで、内に秘めた「熱」(スピリッツとか、パッションとかとほぼ同義)が抱えきれずにほどばしっているようにも感じられる。

講義を受けて考えたことは、以下の通り。
■「常識を疑う」ことについて、私はそれほど抵抗がない種類の人間である。しかし、私が持っている情報そのものが、常に更新されていなければ、比較判断する材料それ自体が信用できないものになってしまう。抗精神病薬がドーパミン受容体を増やしているという情報を知っているのと、知らないのとでは、私が取り得る支援方針の幅も大きく変わってくることになる。継続して、勉強が必要である。
■「クライアントの真のニーズに合った支援を組むことができれば、失敗しない」という持論が、それほど間違っているとは思わないし、「『できない』と言わない」という私の目標設定も、実現不可能とは思わない。ただ、これまで「病気を治したい」というクライアントに対しては「それは無理」と言ってきた。職制としては、間違った答えではないのだけれども、今回勉強して少し見えてきたのは、本人の「治った像」と、「それに近づくための戦略」、「医者との付き合い方」といったところで、ニーズを整理することができるのではないかということ。現段階ではまだメモ程度です。
■PSWは「クライアントの力を引き出す」ことが役割であるとのこと。この定義は、Iyokiyehaにとって「ぴったり」くるものである。エンパワメントしていくという姿勢は、現職でも忘れないようにしたい。
■「絆」というキーワードがあった。Iyokiyehaは現職の中でも、本人の「真のニーズ」を引き出すための「絆」は大切にしているつもりである。ただ、周囲の評価として「踏み込みすぎ」や「本人より」とされることもある。もちろん、組織の論理をいつも破るわけではないし、これまで批判されながらもやってきたことは、「人」としては決して間違っていないとは思っている(とでも思わないと、やっていられないということも正直なところだが・・・)。しかし、この点についても、常に自己確認しなければ危険域に思わず踏み込んでしまうかもしれない。メタIyokiyehaを鍛えることも大切だと思っているが、身近にモニタリングをしてくれる人の存在も大きいように思う。
■ちょっとした言葉の使い方。真意をよく知った上で使わないと、思わぬところで誰かを傷つけてしまうことになりかねない。


<講義内容概要>
1.精神疾患とは何ぞや?
 答え:未だにはっきりしないもの。
 専門家でも、「未だによくわかっていない」のが現状。19世紀終わりから20世紀にかけ、クレペリンという人が、精神疾患の分類を試みた。きっかけは「うつ病の診断の一致率が低かった」ことによる。その成果が「操作的診断基準」と呼ばれるもので、現在ではDSM-Ⅳ-TR、ICD-10が用いられる。
 原因が近いものを取りまとめ、病名を分類しているが、臨床的には「境界例」が数え切れないほど報告されており、実際には分類しきれないのが現状。
 また、薬物療法に関しても、抗精神病薬の服用により、ドーパミン受容体を増やしているといった論も提出されており、薬物療法に意味がないとは言わないが、医療だけでは精神疾患からの回復に限界があるかもしれないという状況もある。そこで、専門家の仕事としての医療ケアだけでない「非医療的サポート」という概念が打ち出される。

2.非医療的サポート
 「専門家」だけでない人も、本人のサポートには必要
 「治療しないサポート」とも言われる
 「患者さんが、何をニーズとして求めているのか、側にいて向き合い、声を聞く」ことを通じて、提供されるサポート
 それは、専門家(PSWを含む)が、頭で考えたニーズではなく、自分と本人との「関係の中で聞いた(患者さんの)声」である。本人が、何を訴えようとしているのか、人と人との関係の中で聞こえる「声」を大切にしなければ、非医療的サポートにはなりえない。

3.言葉
(1)障害者 Disabled Person
 日本語では「障害者」と訳される。この場合「人の中に障害がある(障害=人)」という意味になってしまう。
 (例えば、Black Cat(黒い猫)と同様、猫と黒いことは切り離せない)
 以前(日本では、行政用語としては現在も使われている)は、障害を持った人を指して使う言葉であったが、アメリカでは差別用語として扱われる(州公文書でも下記のwithが用いられる)。
(2)障害を持った人 Person with Disabilities
 「障害を持った人」と訳される。まず「人 person」であり、人とは切り離された「障害」を何らかの理由で持ってしまった、というニュアンスが含まれる。当事者による運動(Person First Movement)の結果、アメリカでは州公文書でもこちらの語が用いられる。
(3)リハビリテーション Rehabilitation
 個人は「違う」ことを前提に、尊重する Everyone is Equal.の考え方を内包している。EqualではなくSameになると「全て同質」という意味が強くなり、個性を含む「違い」は認められなくなる。
 リハビリテーションは、「個別支援」で提供される
(「違い」を認めるため)
リハビリテーションの目標は、「リカバリー」
 (一度は失ってしまった、機能、生活、自尊心、人生、を回復すること)
 機能障害の回復には限界があるが、他のものについては「新たな人生の発見」により「回復」することができるとする。

4.障害分類
 要点は、「能力障害」をどう捉えるか
(1)医療モデル
 原因となる疾病により、機能障害が発生し、機能障害が「能力障害」(○○ができない)を生み出すとし、「能力障害」は個人内に存在するものと考え、社会的不利(ハンディキャップ)を克服するために、個人の能力を向上することのみ考える。
 例)乙武氏は、両上下肢の機能に制限があるため、予備校入学を断られた
(2)社会政治モデル(≒エンパワメントモデル)
 「能力障害」は、個人と環境との相互作用の中であらわれるものと考える。つまり、能力障害は、個人内にあるのではなく、個人が環境と接する時に個人の外であらわれるものとして捉えるため、社会的不利の克服には環境調整が大きな役割を果たす。
 例)乙武氏は、両上下肢の機能に制限があるが、K大学は氏の入学にあたり校舎をバリアフリーとしたため、授業を受けることができた。
(3)ICF
 ①従来のICIDH
  疾病または変調 → 機能障害 → 能力障害 → 社会的不利
 ・「障害」に着目し、障害者と健常者を二分した
 (例:足の一部に障害がある人を「足の不自由な人」とした。階段が上れないことを「階段が上れない人」とし、能力障害がその人の中にあると捉えた)
 ②ICF International Classification of Functioning

       健康状態
  ______↑____
  ↓       ↓     ↓
心身機能 ⇔ 活動 ⇔ 参加
身体構造
  ↑____↑____↑
     ↓    ↓
   環境因子  個人因子

ICIDH:機能障害・能力障害・社会的不利
        ∥    ∥    ∥
  ICF:心身機能・ 活動 ・ 参加
      (身体    人   社会:を表す)
 ICFには「障害」など、マイナスイメージの言葉がない。「21世紀型」の分類とされ、個人の病気や機能上の低下があっても、その人と環境が変わることによって、特に双方の接触面(インターフェイス:生活)が改善されることで、活動や社会参加は促進する。
 ・「人はいつか障害を超えるもの」という前提で、健康なところに着目して「人」を見ている
○心身機能・身体構造
 機能障害があるのは、身体の一部であって「人」全てに障害があるわけではない
○活動
 身体の一部に心身機能の低下があっても、その人には活動できる「生活」がある
○参加
 参加があって、社会は生まれる

5.リハビリテーション再考(相互依存)
(1)従来のリハビリテーション
 ①医学リハビリテーション
 ②心理リハビリテーション
 ③社会リハビリテーション
 ④職業リハビリテーション
 これらはいずれも「専門家主導」のサービスであったといえる
(2)これからのリハビリテーション
 専門家に求められるのは「エンパワメント」
 「教育」は本来の意味(本人の潜在能力を引き出す)で実施されるべき
 目指すのは、「エンパワメント」を通じた「トータルリハビリテーション」(全人的復権)
 ・「自立」とは?「孤立」させることではない。
 ・「依存」を含めた(相互依存、相互協力)、本人の「復権」(地域に根付く)を目指す
(3)「超職種」
 治すこと以外を考えた支援
 ≒心理社会的サポート
 服薬や生活支援は必要だが、「復権」を考えるためには、専門家としてではなく「人」としての関わりが不可欠 = 「絆」
 (心・気持ちの通い合う「絆」作り)
 例えば、服薬をとっても以下の段階がある。
 ①コンプライアンス(遵守)
 ②アドヒアランス(本人の意思により服薬しようとする姿勢)
 ③コラボレーション(ともに歩む)
 コラボレーションを目指す。

6.ACT Assertive Community Treatment
 (包括型地域生活支援プログラム・日)
(1)内容
 ①多職種、訪問を主とするチームアプローチ
 ②重い障害を持つ人が対象(従来、退院の対象とならなかった患者)
 ③スタッフ:本人=10:1程度
 ④24時間、365日のケア体制
 ⑤期限なし、On Goingで支援する
(2)歴史
 1950年代 抗精神病薬が開発される
 1960年代 アメリカで脱病院化が進められる
      「ケネディ教書」
     結果:退院者にホームレスが増加
 1972年  ウィスコンシン州で始まる
(3)要点
 「待ち」から「出前」へ
 (Waiting modeからSeeking modeへの切り替え)