2022年11月6日日曜日

最近考えること 時代の最先端をいく対談を浴びながら

  先月末に開催されたVoicyFes2022に参加して、今(本日は11/5)でもアーカイブを聴きすすめている。メモをとりながら聴いている対談が多いので、膨大なメモに埋もれているところだ。昨年から何気なく参加しているこのVoicyFesだが、今年は仕事を早く切り上げるなどして参加している。音声配信サイトVoicyのパーソナリティ達が、3日間に渡り対談を繰り広げるというこのイベント。思うところがないわけではないが、基本的には大変刺激的で学び多い、価値観への影響も大きいと思えるイベントである。

 去年も、Webのトレンドや、ライフスタイルに関することに触れる対談はあったが、今年はより広がる深まる対談ばかりである。個別にあげていくとキリはないのだが、現時点で自分なりに集約してみると、

・数値化される価値観、例えばフォロワー数とか再生回数などは、ビジネス視点の立場からは指標として重要といえる。ただ、個人の生き方にとっては検討の余地が大きい。数的評価指標が承認欲求増幅装置となっている雰囲気も見え隠れしているのが現在といえる。

・Web(2.0)において、個人が世界中に向けて発信できる環境が整ったといえる。そこで人間が全体的に賢くなったかというと、そう言っている人はいない。些細なこと、ちょっとしたこと、どうでもいいことにコメントをつけることで、コメントをつけた人の自己満足を満たす(可能性がある)だけであって、対象事象・物とつながって深めていくような使い方ができている事例は「探していかないと見つからない」。

・ビジネス視点と物事の質の視点というのは、関連しながら異なるもの。車の両輪のような関係にある。数的評価指標として見える化される物事は、ビジネス視点の立場で世界を見るヒントにはなる。物事の質の視点というのは文化を作る原動力となるものであって、日本においては「本質を極める」という文脈で語られることがある視点である。現在の日本では、後者に重きを置く動きはあるが、前者(ビジネス)が置き去りにされている。

・Webツールは、人生にも影響を与えるものとして位置付く。ただ、本質を外した使い方ができるものでもあり、むしろ世の中の話題はそういったことに注目を集めていく。いわゆる話題性(バズる)という価値観が増大していく。

といったことを感じ取っている。

 おそらく、自分にとってはいい刺激を一杯受けているのだろう。もちろん、何十人も対談者がいるわけなので、私の価値観には合わない人もいないわけではない。どうにもかみ合わない、と感じる対談があったのも事実。ただ、そういった内容のものであっても、それを一旦自分の中に取り入れることで、価値観がより立体感をもって、世の中の視野が広がるような気がする。チケット代3,800円をどう考えるか、であって、これを高い、と断じるのは簡単だけれども、私にとっては「気に入った対談が3つもあれば元をとれる」と思える内容です。

 気になる方はチェックしてみてください。私は来年も参加予定です。今年の対談も11月中はアーカイブで聴けます。

2022年11月4日金曜日

中川なをみ作、白石ゆか絵『マグノリアの森』あかね書房、2022年。

 図書館シリーズ。小学生高学年~中学生向けの小説は、病院の待ち時間とかで読めてしまうので手軽でよい。『屋根に上る』ですっかり味をしめてしまった。
 幼い頃から気管支が弱く、ぜんそくっぽい症状のある卓(たく)。父親の転勤が中国に決まり、身体のことを考慮して海外へは行かず、田舎で暮らす祖父宅で暮らすことになる。都会から農村への生活の変化、人間関係の変化の中で、自分を見つめて開放していく物語。
 とはいえ、祖父宅で幼い頃からの知り合いアズサとの関わりと、祖父が大切にしている山の花畑に植えられたマグノリアの花々、生活環境の変化に伴う体調の変化から、それぞれが好きなこと、歌うこと、踊ること、踊ってみることを見つめ直し、生活を変えるきっかけにしていく様子を描いた一冊。大変手軽で、表現も平易、穏やかに物語が進行するので、安心感のある物語である。
 文学は、感情描写が背景描写に表れる、と高校の時に習い、そういうものだと思って読んでしまうが、児童文学の一部には、伏線だと思っていた表現がそのまま放置されてしまうかのように読めてしまうことがある。これは単純に背景を切り取って描写していると読めばいいのだろうと、最近になって思えるようになってきた。単純に物語を楽しむことを最近になって思い出している図書館シリーズでした。

かみやとしこ作、かわいちひろ絵『屋根に上る』学研プラス、2021年。

 図書館シリーズ。最近は、次女(小学校2年生)が読めるもの、だけでなく、自分がさらりと読めるもの、も選んでいる。本書は後者。題名もさることながら、表紙のイラストと内容をパラパラ見たところで借りてみた。

 中学生男子のちょっとした人間関係に、祖父と接点のあった高齢男性(田村さん)とその大工仕事が関わってくるお話。思春期手前のもやもや感をそのままに、大人が大人の理屈と子どもたちに寄り添う様子を描いている。ちょっと関わりがとがった感じのある友人一樹とのやりとりを中心に、主人公の思いや田村さんの気遣いが暖かい。

 心があたたまる読み物に触れるようになり、こういうティーンズ向けの小説って、若い時にもっと読んでおけばよかったなぁとも思うようになる。シンプルな言い回しの中に、ちょっとした心の動きが描かれていて、それでいて本当の意味での悪者がでない、どこにでもある日常にちょっとしたドラマがある。ほら、実際の生活は小説より奇なりとも言えるくらい、身近なところにいろんなことがあるだけでなく、いわゆる「普通の生活」にも人は迷うことがあり、合理的でない行動をとる。その背景には、それぞれに様々な思考があるわけで、こうした小説にはそうした「普通の生活の中にある心情」が描かれている。悪者が出てこないので、読んでいて心地いい。

新井紀子『AIvs.教科書が読めない子どもたち』東洋経済新報社、Audiobook版。

 以前、キャッチーな題名と、AIの認知度が高くなってきた背景から、ベストセラーになっていた本。聴取のタイミングと、『僕とアリスの夏物語』の読書時期とが重なったので、相乗効果も手伝っていくつかのことがわかった1冊。

 AIは人間の脳機能とは異なるしくみで機能している、ということを様々な角度から説明している。基本的には、人間の脳が物事の「意味」を理解して出力することができるのに大使、AIは基本的なしくみが数学にあるため、論理・確率・統計が現時点での限界となっている。もちろん、数学的な思考によって現在の枠を超える可能性はあるものの、数学によって記述できないことは、現時点でAIの機能として期待することはできない。特に「意味」の理解と出力については、AIの深層学習によって身につけることは現時点では不可能であると結論づけている。

谷口忠大『僕とアリスの夏物語』岩波書店、2022年。

 Amazonポイントアップセールの時に、後1冊購入したいタイミングでリストの上位にあった1冊。小説とAI解説、というキャッチコピーに「わかりやすいかも」という期待を込めて買った本。新井氏の『AIvs.教科書が読めない子どもたち』とも相まって、自分の中でのAIに関する理解は少し深められたのだと思う。

 物事を「認識する」ということに焦点を当ててみると、人間の脳がいかに多様なものをいかに質的に分類しているのだと気づかされる。質的な分類というのも、A=Bといった単純な結びつきではなくて、その要素を分解し、部分や全体を自在に他の事物と様々な形で意味を持たせて結びつけている。しかしながら、AIの理解というのは、(1)コンピューターの言語に置き換えられる事・モノであること、(2)テキストデータとの結びつけは可能だが背景となる言葉の意味までは把握・理解することはできない、という特徴がある。また、本書後半の物語で表現されるように(3)人間の生活には、論理では(今のところ)表現しきれない矛盾が無数に存在している、という限界がある。

 解説部分は、雑誌記事のような専門的な内容を含みつつも、一般向けに説明を試みている。今まで読んだAI解説の中では、大変わかりやすい内容であった。それを補ったり、発展させたりする意味で、本書の物語の果たす役割は大きい。

 AIに関する理解を深めることと合わせて、人間の認知(機能)の理解を深めるのにも訳に立つ1冊といえる。

瀧本哲史『ミライの授業』講談社、2016年。+Audiobook版

 著者の瀧本哲史(たきもと・てつふみ)氏は、2019年に若くして亡くなられましたが、『僕は君たちに武器を配りたい』がベストセラーになり、注目されるようになったエンジェル投資家、経営コンサルタントで、京都大学で教鞭をとっていたことでも知られています。

 「ミライの授業」といいながら、本論は古今東西有名無名(無名といっても知られていないだけ)の伝記。でもテーマは、今を生きる若者(14歳の中学生に行った講演録、とのこと)に未来を切り開くための知恵を語るもの。

 歴史をひもとくことが、未来を語ることになる。その歴史は、聴く人・読む人にとって人物像だけでなくエピソードが魅力的であることが大切です。古代から現代までの19人を描きつつ、未来を生きる中学生(14歳)に語った講義録です。伝記として取り上げられる人の生き様は、これからを生きる現代人であっても参考になることばかり。参考になるように瀧本氏が見事にデザインした講義を展開しています。

 今年(2022年)もっとも感銘を受けた本といわれたら、この本を挙げます。歴史上の著名人について、その功績の要点を説明しながら、これからの社会を生きる若者に向け、変化の時代を生き抜くためのヒントを示し、その伝記とヒントを結びつけて、自分を見つめ直すことと、一歩踏み出すことを説く講義です。これはライブで聞いた中学生には響く内容なのではないか、と感じるほど、活字で読むのであっても迫力のある内容でした。