2008年8月17日日曜日

精神保健福祉士スクーリング(2日目)精神保健福祉論(Ⅰ)(Ⅱ)

2日目。
精神保健福祉士養成カリキュラムの中核科目。
スクーリングの時間数も、レポート提出回数も多い。
専門科目の中の、いわゆる「基礎科目」ということにでもなるのだろう。
講義を受け、考えたことは以下の通り。

■歴史は、覚えるしかないのだけれども、排除・隔離から、治療・病院収容、保安処分との絡みもありながらも、地域生活・支援・社会復帰・参加といった方向へ、法的に目指していくものが変化していることはわかる。制度が充実しているかどうかについては評価しかねるが、精神障害を持った人であっても「参加の機会」はあることがわかる。同時に、「参加しない自由」も保障されていることは忘れてはならないと思う。
■インフォームド・コンセントについて。Iyokiyeha自身が果たして、「適切な説明」をしているのかどうか見直すきっかけになった。同意能力のアセスメントも必要ではあるが、クライアントが適切な説明の下で、正確な理解をして、それに基づく選択ができているか、今後各クライアントに対しても確認する必要がある。


<講義内容概要>
○精神保健福祉論(Ⅰ)(Ⅱ)
1.精神障害者処遇の歴史「排除からノーマライゼーションへ」
(1)排除の歴史
①養育院(東京)
 ロシア皇太子が来日予定時、地域生活をしていた精神病者を収容した。
②癲狂院
 養育院に収容された者が、後に収容された場所。養育院に収容されていた者が、より重度の者の世話をするなどの状況があった。
 ③村山全生園(@多摩)
 ハンセン病者を隔離するために作られた施設とされている。
 上記施設はごく一部とされていたが、この頃は社会復帰といった発想はなく、収容され治療されていた。元々、宿屋であったものが、寺や神社・仏閣といったものを併設し、治療に当たっていたとされる。治療には、灌漑療法など「水」を使ったもの(打たれたり、浸かったり)が目立つ。

(2)法整備とそれに関する出来事の推移
 ①1900年 精神病者監護法
  ・私宅監置(座敷牢)
  ・親族の監護義務(現在の「保護者」)
 (この頃、呉秀三らの調査がある)
 ②1919年 精神病院法
  ・道府県に公立精神科病院の設置を命ずる
 (しかし、国の予算は軍備に回される時代で、設置は進まなかった)
 ③1950年 精神衛生法
  ・措置入院制度の整備
  ・同意入院制度(現在の「医療保護入院」)
  ・精神衛生鑑定医を設ける
  ・私宅監置の廃止
 (私宅監置を公的監置に置き換え、長期間の隔離が目的)
 ④1964年 ライシャワー事件
  ・精神障害をもつ19歳の少年が駐日アメリカ大使を刺したことにより、「野放し」となっている精神障害者を「治安的取締りの対象」とする警察庁長官答弁
 ⑤1965年 精神衛生法改正
  ・保健所を精神保健行政の第一線機関として位置づけ、精神衛生相談員を配置
  ・通院医療費の公費負担(2分の1)
  ・措置入院者が離院した時の届出義務
 (治安的要素の濃いものとなり、在宅精神障害者の把握が強調される)
 ⑥1969年 Y問題
  精神的に不安定だったY少年を、家族の依頼により公的機関のソーシャルワーカーが警官二人とともに訪問し、入院させた
  ・PSWの倫理だけでなく、精神医療の必要性まで議論される
  (精神科病院があるから、精神病が存在する:不要論)
  ・PSW協会で議論(結果として協会解体、再建)
 ⑦1970年 『ルポ精神病棟』
 ⑧1984年 宇都宮事件
  入院患者2名が看護職員の暴行により死亡する
 ⑨1987年 精神保健法
  ・国民の精神的健康の保持増進を図ることを目的とする
  ・人権擁護と社会復帰促進が明記された
  ・任意入院制度が設けられた
  ・社会復帰施設(生活訓練施設、授産施設:2類型)
 ⑩1993年 精神保健法一部改正
 ⑪同年   障害者基本法
  ・精神障害者が障害者施策の対象として位置づく
 ⑫1995年 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)成立
  ・精神障害者の自立と社会経済活動への参加の促進のための援助が加わる
  ・精神障害者保険福祉手帳の創設
  ・社会復帰施設追加(福祉工場、福祉ホーム:4類型)
  ・通院患者リハビリテーション事業の法定化
 ⑬1999年 精神保健福祉法改正
 ⑭2005年 障害者自立支援法成立
 ⑮同年   精神保健福祉法改正

2.人権と人権を支える思想(ノーマライゼーション)
(1)インフォームド・コンセントの歴史
 1947年 ニュルンベルク綱領(患者の同意について)
 1964年 ヘルシンキ宣言(患者の利益・福祉を優先する)
 1983年 インフォームド・コンセント(アメリカ)
(2)インフォームド・コンセントの要素
 ①クライアントの同意能力の有無
 ②主治医が適切な説明をしているか
 ③クライアントが理解しているか
 ④クライアントの任意の意識的な意思決定がなされているか
 つまり、厳密には、説明するだけでも、同意を得るだけでも、インフォームド・コンセントは成立しない。クライアントにわかる、適切な説明をした上で、クライアントがそれを理解し、他の選択肢も含め検討した上での同意でなければならない。
(3)具体的な質問項目(スカッリーの質問16項目)
 クライアント(患者)やその家族が知りたいことはどんなことか。(スカッリーらの質問項目 T.scully & C.scully)
 ①私に起こっているのはどんな病気ですか? 病名は?
 ②この病気はどの程度重いのですか?
 ③どんな検査を考えているのですか?
 ④なぜその検査を進めるのですか?
 ⑤その検査の危険性は? その検査の結果は治療法の決定に必要なのですか?
 ⑥どのような治療法を勧めるのですか?
 ⑦その治療の目的はなんですか? それで治るのですか? 痛みを和らげられるのですか? 社会復帰できるのですか?
 ⑧その治療法の危険性はどのくらいですか?
 ⑨その治療法が私の場合に成功する確率はどのくらいですか?
 ⑩それは一時的な効果ですか? 持続的な効果ですか?
 ⑪その治療を断ったら私に何が起こりますか?
 ⑫別な治療法はないのですか?
 ⑬どれの治療法を効果と危険性とから比較するとどうなりますか?
 ⑭どれがベストだと思いますか?
 ⑮あなたが私と同じ状況にあったとして、あなたやあなたの家族にどの治療を選択しますか? それはなぜですか?
 ⑯参考になる読み物はありませんか? 情報センターはありませんか?
(2)ノーマライゼーション Normalization
 ①バンクー・ミッケルセン(1950年代)
  「ノーマライゼーション」
  知的障害者の生活を可能な限り通常の生活状態に近づけるようにする
  (知的障害者をノーマルな人にするのではない)
 ②ニィリエ B.Nirje(1967年)
  「暮らしの条件」
  ⅰ 一日のリズム
  ⅱ 一週間のリズム
  ⅲ 一年のリズム
  ⅳ ライフサイクルに沿う
  ⅴ 自己決定
  ⅵ 好きな人と一緒にいること
  ⅶ 適切な住環境
 ③ヴォルフェンスベルガー(1972年、1984年)
  1972年 可能な限り、文化的に通常となっている手段の利用
  1984年 社会的役割の実現に転換する
       ソーシャル・ロール・バロリゼーション Social role valorization
 ④谷中輝夫
  「当たり前」
 ノーマライゼーションを支える考え方として、エンパワメントempowerment、ストレングスstrengthなども注目