2023年1月29日日曜日

身体技法再び

個人的なコロナ禍の影響で、結構大きなものが、合気道のお休み、でした。茶帯を視野にお稽古し始めたところでの休館ということで、いつ復帰できるかな~と待っていたのですが、ようやく復帰にこぎつけました。

未だに休館は続いています。ただ、昨年くらいから有志で場所を変えてサークル活動をしており、そこに誘われてはいたのですが、異動のゴタゴタと、時間帯に気持ちがのってこないことが重なってくすぶっていたのですが、昨年末からいくつかのきっかけが重なり、勢い任せで先週から活動に復帰させてもらいました。

日曜日夕方のお稽古に参加した結果、火曜日の夕方くらいまで身体のあちこちが痛かったのですが、まぁ、そのうち慣れるでしょう。ということで、ぶったるんだ身体と頭に喝入れて、お稽古に励みたいと思います。あっ、今度の相棒は長男ではなく(コロナ禍直前に辞めてしまった)、次女です。いつまで一緒にできるかな。

2023年1月9日月曜日

昨年の残り物

 書籍やその他諸々の感想文をまとめてアップしました。もっとマメにアップした方がいいんだろうけど、POMERAを買って、マメにメモをとれるようになったことと、PCを立ち上げる機会がぐっと減ってしまったので、しょうがないですね。

今日アップした分は2022年に書いたものだから、2022年の実績に組み込まれています。2023年にはカウントしないように(備忘録)。

松田宏也『ミニヤコンカ奇跡の生還』山と谿谷社、2010年。(文庫版。底本は同名書1983年)

 土曜日の朝にラジオNHK第一で放送している、「石丸謙二郎の山カフェ」のゲストに、本著者松田氏が出演しているのを聴いて読んだ一冊。図書館で底本を借りて、その迫力に触れ、書籍版を購入した。

 学生時代にワンダーフォーゲル部に所属していたIyokiyehaにとって、山岳読み物は身近なものではあるのだが、同じように遭難や事故の知らせを聴くことも、少しはイメージがつく故、ある程度のリアリティをもって感じとれるものがある。とはいえ、当時から思うことだが、山岳部の山に対する知識・技能はワンダーフォーゲル部のそれとは比較にならないものがある。本著の写真一つをとっても「なんでこんなところで寝られるのか?」というアタックキャンプが写っている。

 日本の山岳史上においても、遭難は珍しいことではない。ただ、ここまで悲惨な遭難から生還した経験と、そのリアルな記述において、本著は他の書籍とは少し雰囲気が異なる。松田氏は「命を賭けた冒険の裏に起こった数々のミステイクをあえて公表しなければならない」(288ページ、あとがきより)と、ミニヤコンカでの遭難に「数々のミステイク」を認め、ごまかしなく書き切っているのだろうと察する。アタック前からの隊の不協和や、ピーク直下の邁進、菅原氏を置いて歩を進めたことの後悔など、生還したことを美談にすればごまかせるようなことも、本著では淡々と記述されている。とりたてて目立つ記述ではなく、あくまで起こったことを淡々と、その時の自分の身体の様子や、幻聴といえる身体の内側から起こっている感覚異常も、日本語として記述している。現実感のない記述と思わせる箇所がないわけではない。ただ、そんなことは置いておいて、本著を通じて一貫して描かれ、すべての文章から感じられる意思としては「松田宏也は一度たりとも死を受け入れず、生きることに執着している」(300ページ、阿部幹雄氏の解説)ことであろう。後悔や一時の諦めがあったり、仲間に悪態をつくことがあったとしても「これでいい、ここでいい」と自ら死へ向かうことなく、生きて帰る、の一心で歩き続けたことは一貫している。一気に読ませる迫力がある。

 見れば、著者の続刊があるようだ。帰国後、今に至るところで、松田氏が何を考え、どう生きているのか。生き様から謙虚に学びたいと思う一冊だった。

山崎史郎『人口戦略法案 -人口減少を止める方策はあるのか』日経BP、2021年。

 職場で共有されていた、何かのセミナーの動画を視聴したときに、その講師だった山崎氏の近著。2022年夏の時点では、内閣官房参与(社会保障、人口問題)及び全世代型社会保障構築本部総括事務局長となっている。元々厚生労働省(旧厚生省)に籍があった方。そのセミナーは、人口減少問題を取り上げたもので、残念ながら視聴期間が超過してしまったのだが、その内容が本著を基にしたものだと言われていたので、手に取った一冊。その分量に驚くものの、内容はまるで実際の資料を基にした講義を受けているかのような錯覚に陥るような書きぶりで、重厚な内容でありながら、小説仕立ての大変読みやすいもの。

 現在の私の立場、守備範囲を拡張して視野を広げて読んだときには、労働政策と子育て政策とは(厳密には)別物で、これまで労働政策として取り上げてきた育児休業(と給付)制度とは別の「普遍的な子育て制度」の創設あるいは再検討が望まれている、ことが推測される。働いている「から」使える育児休業制度だけでなく、「子育てをするための」育児制度が必要といえる。子ども・子育てを考える上で、労働政策はその対象の一部しか補足できない、というパラダイム転換が必要だとする論点が、大変印象的だった。

 社会保障の観点から、出産支援制度の充実、保育を含めた子育て支援制度の充実に留まらず、日本の世帯特性を踏まえた結婚(出会い)支援への広がり、ライフプランの見直し、人口問題として一段視野を広げたときに三本柱として取り上げられる地方創生と移民政策。前半の出産・子育ては今の私の立場ど真ん中の内容だが、地方創生(乱暴に言えば、「東京からの転出を増やす、東京への流入を減らす一連の取り組み)の意味や取り組みの本質に触れられていたり、議論百出の移民政策が関わってくる。こうしたことを踏まえた「一億社会」であって、決して出生数を増やすことだけが人口政策ではないことがよくわかる内容である。中央省庁の仕事とその背景、地方公共団体との関わり、国会対策と、小説としての内容も負けておらず、静かな感動がある。

 これだけ広範な内容を、データに裏付けて説明する技法は、公務員の大先輩として学ぶことばかりであるが、それを小説として、勉強会等での報告、という形で話し言葉で描く手法は、これからの書籍のあり方にも一石を投じる内容とも思われる。論文調ではなく、面白おかしい物語ではなく、その間を高次元で表現する技法にも素直に感心させられた一冊といえる。行政(自治体)には、くだらない人間関係はあるが、静かな大きい感動もある、ということが伝わってくる良著といえる。

DJ Nobby『実は大人も知らないことだらけ 経済がわかれば最強!』KADOKAWA、2022年。

 以前からラジオ番組や、昨年のVoicyFES、それ以降はVoicyの番組などで名前は聞いていて、いい声の人、わかりやすい解説ができる人、と評価していたDJ Nobbyの著書です。題名そのまま、宣伝そのままの経済ニュースの初心者向け解説本です。

 分かっているようで分かっていない経済用語やトピックス、歴史的事実。なんとなくイメージがあっても、それをうまく説明できない=理解していない。子どもに問われても、調べないと答えられない、あるいは答えていてもしっくりこない=理解していない、こういうことが増えてきたように思うこの頃です。特に経済の事象は、新聞を追っていれば言葉は頭に残っているのですが、その構造や前後関係が読み解けていないと、やはり単語レベルの記憶にしかなっていないのですね。

 本著は、多分この立ち位置から一歩踏み出すための一冊になると思いました。いわば「政治・経済」の教科書を読み解くための参考書、辞書的な使い方ができる内容です。索引からキーワードを引き出すこともできるし、キーワードやトピックから歴史的な前後の流れをまとめて読み解くこともできる。経済中心ですが、近現代の世界史・日本史を理解する一助になる本のように感じました。

古賀史健『20歳の自分に受けさせたい文章講座』星海社、2012年。

 現役ライターの古賀氏が「文章を書くこと」を語った1冊。どうしたら伝わる文章になるのか、ということにこだわった内容となっている。「気持ち(ぐるぐる)を翻訳する」「リズムにこだわる」「見た目は大事」「立場を変える」「ハサミを入れる」という5つのテーマから、どうすれば人に伝わるか、どうすればもっと伝わるか、ということを具体例を盛り込んで説明している。

 伝わりやすさは100点の出ない相対的な概念で、文法的に正しいことや話す内容、とは異なる。もちろん、係り受けは大切で、正しい順序で文章ができていることは最低限のことであるが、それを文章として読者に読ませるとなると、これは伝える側の熱量だけでは説明できず、書き手のスキルが問われる。

 Iyokiyehaは行政職員なので、もちろん行政文書として誤読させない技術は必要なのだが、それとは重なりつつ少し立ち位置をずらし、読む人に「伝わる」書き方を入れ込む必要がある。理想的、究極的には相手その人(の理解力)によって書き方は変わる。しかし、そこまは現実的でなくとも、想定する対象にきちんと伝わる書き方ができることは、上記技術と共に必要といえる。本書は後者に関して、豊富な示唆を与えてくれる。


(以下引用と感想)

30 書くのではなく、頭の中の「ぐるぐる」を、伝わる言葉に「翻訳」したものが「文章」。 ぐるぐる=頭の中を駆け巡る、言葉と言葉以外のぼんやりした「感じ」や「思い」のこと

42 聞いた話を誰かに話す。これは「翻訳」の第一歩だ。

 話すことによって得られる①再構築、②再発見、③再認識

135 文章を書くことは、他者を動かさんとする「力の行使」なのである。

 自分の文章の中に「主張」「理由」「事実」の3つがあるか。そしてこの3つはしっかりと連動しているか。これらによって「論理的な文章」になる。

143 面倒くさい細部を描いてこそ、リアリティを獲得する。

 読者の理解を促し、文章の説得力を強化する。

168 たったひとりの「あの人」を思い浮かべて書く

 みんな、万人を動かす、喜ばすことはできない。

197 文章の「起『転』承結」を成立させるためには、冒頭に「自らの主張と真逆の一般論」を持ってくる必要がある。

 仮説と検証で、読者を巻き込む=読者を当事者にする。

 そのためには「一般論→仮説(関係は『一般論⇔仮説)』を早く提示すること。

 起:一般論

 転:仮説の提示

 承:根拠・事実

 結:締め

 ①主張、②反論、③再反論、④結論

212 文章とは「答え」を示すものではなく、その「解き方(ゴールまでの道のり)」を示すもの

 =論理

 「自分の頭でわかったこと」以外、書いてはいけない。

239(編集について)「ぐるぐる」を紙に書き出す=可視化

 ①キーワード、連想→②それ以外 で2回はブレストする

 自分を疑う、疑いを晴らしていく=説得力になる。

264 言葉で反論しなければならないということは、それだけ言葉が足りていないのだ

250(推敲について)推敲とは、ある意味サンクコスト(もったいない、と思う自分)との戦いだ。

251 少しでも長い文章を見つけたら、さっさとハサミを入れて短い文章に切り分けたほうがいい。

 ①冗長さを避けてリズムをよくする

 ②意味を通りやすくする

 ③読者の不安をやわらげる

 +図示できるか? 主張や論理展開を図で表すことができる=明確な文章

268 「いい文章」とは「読者の心をうごかし、その行動までも動かすような文章」のこと


スティーブン・R・コヴィー著、フランクリン・コヴィー・ジャパン訳『完訳 第8の習慣「効果性」から「偉大さ」へ』キングベアー出版、Audiobook版。/スティーブン・R・コヴィー著『完訳 7つの習慣 30周年記念版』キングベアー出版、Audiobook版。

 価値の置き場を、outside inから、inside outへと転換する。「刺激と反応の間には『選択』がある」というシンプルな法則。目の前にある当たり前のことに、自分にとっての価値を見いだす。問題だと思っていることは「周囲を変えようとしていること」である。自分には変えられない。自分で変えることができるのは、自分のみ。習慣の力。

原田ひ香『三千円の使い方』中公文庫、2021年。(初版は2018年版)

 今年(2022年)の初め頃、書店で平積みになっていた文庫小説。4人の女性にまつわるお金の話、短編小説の形式だがそれぞれの話が最後にまとまっていく。読み物としては、シンプルに面白い。

 身内の4人が、それぞれのライフステージでお金について考える。終活?夫の定年後?子育て中?結婚相手?。どの話も、いわゆる「普通の」家庭でどこにでもありうる内容である。だからといって地味な話なのか?というと、地味ではあるが、ぐいぐいと読ませる内容である。自分の生活に重ねるところがあるからなのか、イメージがしやすいからなのか。そういうことを考えていると「日常を描くことの難しさ」みたいなことが意識の中に立ち上がってきて、著者の表現力の豊かさに気づかされる。著者の世界観に引き込まれている、という感覚ではなくて、自分の生活にいつの間にか「いる」ような感覚である。ファンタジーを読んでいる時には絶対に感じられない感覚なのだろうが、とはいえ、自分の中に確かに入ってくる感覚が大変新鮮である。

 「お金」≒生活費という共通点はありながら、背景も悩みも異なる4人が、それぞれの立場で悩んで、悩んで、それなりの着地点を見いだしていく。決して正答とは言い切れないが、とりあえず納得して過ごしていく。言ってみたら、人の生活なんてのは、そういうことの繰り返しなのかもしれない。そう思わせる生活像を描ききる著者の力量に、素直に脱帽です。

■以下引用

337 お金や節約は、人が幸せになるためのもの。それが目的になったらいけない。

347 (略)「他人は他人、自分は自分」なんてことは誰にだって耳にタコなのです。それでも心の粟立ちを抑え込めないのが人間なのです。


濱野京子『空と大地に出会う夏』くもん出版、2022年。

 図書館シリーズ。いわゆるティーンズ小説。最近は、こういう軽い読み物をぱぁーっと読むのが楽しい。

 言葉でうまく説明できないことが苦手な小学校6年生の理一郎。「~かも」とか「多分~」とか、そういうことが苦手で、周りからも合理的と言われる。そんな(ちょっととっつきにくい)子が、何を考えているかわからない(ように見える)大智と、無駄が多い海空良と出会い、一緒に過ごすうちに、「言葉でうまく説明できないこと」が自分を変えていることに気づいていくお話。

 「楽しそう」にピアノを弾くとか、「気が向いたら」教えてもらうとか、これまで受け入れがたい、苦手な「言葉でうまく説明できないこと」が、自分の周りに、身近な人にもたくさんあって、他ならぬ自分も「うまく説明できないこと」のために母親と喧嘩してしまう。

 こうやって人は成長するのだな、ということを「うまく説明できないこと」を通じて描く小説。ティーンズ向けだろうけど、読ませる箇所がいくつもあって、ついつい没頭してしまった。小説っていいですね。

■以下、引用

7 ふわっとなんていわれても、理解できるわけがない。ぼくは言葉できちんと説明できないことがきらいなのだ。

115 言葉でうまく説明できないことに出会ってしまった。(大智と海空良とともに、鳥を見にいくと決めた直後。その自分の判断をふりかえって。)

124 おどろくことと、なにかいうことはべつ。(髪を短く刈り込んだ姉の姿を見た母の反応)

166 わからないのも、悪くない、と思った。わかる楽しみがふえるからだ。

能勢博『ウォーキングの化学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』講談社、Audiobook版。

 audiobook.jpの10月聴き放題でとりあげられていた一冊。最近は通勤時間を効果的な運動に使いたいと考えているので、試しに聴いてみた。

 期待以上でした。ただ歩くだけでは、10,000歩/日継続して歩いても(きっと長い目で見たらいい効果はあるのだろうけど)生活習慣病や疾患リスクは低くならない。だけど、その歩き方を「インターバル速歩」に切り替えるだけで、驚くべき健康効果がある、という内容。

 早歩き、息を整える歩き、の繰り返しで、早歩きが週で1時間くらいになると、健康維持・向上になることがわかった。また、朝イチの頭と身体の同期のための5分間ウォークは、早速取り入れることにした。社会的調査だけでなく、医学・生理学観点からの解説が、ヒトの身体を理解するのに、とても参考になった。

三島有紀子『しあわせのパン』ポプラ文庫、2011年。

 同名の映画を基にした小説。Iyokiyehaはこの映画大好きで、もう何回観たかわかりません、ってくらい。DVDを買って、PrimeVideoでも購入してしまった。テンションがあがるわけでもなく、身体が疲れている時に観るとほぼ間違いなく寝てしまうのだけれども、何度観ても心が安らぐ作品。

 主人公の水縞くん(大泉洋)とりえさん(原田知世)の、表情と会話の行間に描かれる心情、料理のシーンとできあがった料理とそれを食べる人たちの笑顔が静かに静かに、そして内側から暖かく表現されている。多分、作品を通じて描かれているテーマは、人の幸せとか、生きることとか、仲間とか、そういう生きる上での本質的なことなのだろうけど、それを日常+アルファくらいの身近な営みを通して描く作品。言葉は少なめ、笑顔がちょっと多くて、表情で人の営みを描いている作品なのだろう。

 何度観ても、理屈じゃないものが身体を通り抜けていく感じがする。Iyokiyehaの中では、暫定1位の作品です。もう、大好き。

ジョージ・ルーカス原案、梶尾真治訳『笑うバルセロナ ヤング・インディ・ジョーンズ12』文藝春秋(文春文庫)1993年。

 インディジョーンズ若き日の大冒険12作目。時系列的にウィーンの後だと記憶していますが、フランス情報局の諜報員としてバルセロナで活躍する様子を描く。

 第一次世界大戦のこのあたりの背景って、(私が勉強していないだけかもしれませんが)よくわからないんだよね。そういえば、スペインって中立国だったっけ?って感じで。こういういわゆる緩衝地域というのは、世界を二分する戦争中にあって、お互いが乗り入れる自由と緊張感のある雰囲気だったのかもしれない。もう一度歴史を勉強しようという気になる。

 確かにテレビシリーズで観たときのこの回は、舞台の本番中に宦官役のインディが腰を振ってモールス信号を送りつけるシーンが面白かったということしか覚えていないんですよね。世界大戦が終結に向かっていくところの情報戦を面白おかしく描いている本作は、激動の時代をスパイの活動を通して描いていると読めば、この作品の本質が見えてくるか。

堀内夏子『イカロスの山』講談社、Kindle版。(マンガ)

 我々世代だと、マガジンで連載していた『Jドリーム』の作者堀内夏子氏の山岳ドラマ。数年前にセールで一括して購入していたのを先日見つけて(Amazon Kindleあるある?)連休を使って一気に読んでみた。

 メインテーマとサブテーマに分けて、以下私はメインの山岳ドラマのみに触れます。サガルマータ(エベレスト、チョモランマ)付近に、世界第二位と推定されるピークが確認され、各国から山岳チームが組まれ、その登攀を競う背景の中で、日本人チームに加わった2人を描く物語。

 いわゆる山岳モノって、リアリティを追求すれば、それが分からない人にとってはただただキツい地味な(だいだい)汚い怖いエピソードが並べられがちなのだけれども、本作は堀内氏の画力も手伝って、大変バランスのいい描き方になっていると思った。一気に読ませる迫力があり、山岳あるあるを適度に織り込んで、それでいて登攀の過酷さを伝えながら、多分本当にキツいところは丸く表現している、というか・・・とにかく読んでいて小気味よさやテンポの良さを感じる内容でした。

 サブテーマの方は人それぞれだってことと、連載雑誌の雰囲気みたいなものもあるから、読む人それぞれの解釈ってことで。私にはハマらなかったなぁ。

永松茂久『人は話し方が9割』すばる舎、Audiobook版。

 話し方について、様々なノウハウを紹介するもの。話し方によって、人間関係が良好になり、苦手な人ともうまく関わることができるようになるので、自分の周りから「嫌な人」がいなくなる、という常識を覆す考え方にも触れることができる一冊だった。

 「この人ともっと話をしたい」と思われるためには、論理の構成だけでなく、それを表出する技術もやはり大切である。自分軸(オレ、オレ)ではなく、相手軸に(あなたは)で考えること。褒め言葉を謙遜するなら、きちんと受け止めてから。相手に「しあわせでありますように」と思って接すること。否定しない。うなずき。プラストーク。いいことリストの作成。自己紹介は、経歴から自分の思いや人への感謝を伝えられるようになるとよい。しくじりリストで笑いのネタにする。人をいじるのは芸人さんの高等技術であるのと合わせて、環境ができているからできること、シロウトがマネをすると不快感すら生まれる。など、本当に様々な「話し方のコツ」を理由とともに説明している。

 確か、一時期この本がベストセラーになっていたように記憶しているが、気軽さと内容とが同居している良著といえる。

樺沢紫苑『ブレインメンタル強化大全』サンクチュアリ・パブリッシング、Audiobook版。

 人の脳機能を活性化する行動案を紹介するもの。日中の脳機能を充分に発揮するためにできること、やった方がいいことについて、生活上の様々な行動を提案するもの。

 参考になることは多かったが、特に印象に残ったのは、きちんと寝ること、脳と身体を同期させること、である。

 前者は、月並みであるが、睡眠の質と量を両方とも充実するためのノウハウがたくさん紹介されていた。すでにやっていることはもちろん、やはり「量」が重要だということを改めて理解した。私は睡眠負債が貯まっている状態であるという見方もできた。

 後者は、これまでの習慣に加えるもの。朝起きて一時間以内に朝散歩することによって、脳機能と身体機能の時間を合わせることになる、というもの。本著で著者は、睡眠、運動と併せて、この「朝散歩」を強く推奨している。運動とは異なるものとして、リズム運動を朝取り入れるもの。朝の活動だが、日中のパフォーマンスだけでなく、睡眠の質も良くなる。すでに私はラジオ体操の習慣があるので、ゴミ捨てついでにほんの5分ほど、町内を散歩してみようと思う。

久保田弘信『世界のいまを伝えたい』汐文社、2019年。

 図書館シリーズ。最近はティーン向けの読み物に手を出している。理由は、読みやすく、2時間かからずに読めて、内容が凝縮されているから。

 久保田氏は9・11前後のアフガニスタン、イラク北部でのIS掃討作戦など、戦闘地域を現地側から取材していた、フォトジャーナリスト(戦場カメラマン)。ひょっとしたら、何かの折にメディアで見たことがある人かもしれない。本当にすごいことをやっている人だと思う。とはいえ、時々聞かれる「危険を顧みない人」「好んで危険を選んでいる」といった印象は受けない。題名にあるように、純粋に「世界のいま」を伝えることにこだわりこだわりこだわり抜いて行動している人のように思う。

 難民の暮らしや、難民キャンプの様子、国外避難している人の現状や戦争下で生活を余儀なくされる人たちの姿を、カメラにおさめる。久保田氏の仕事を言葉にすると、こういうことだが、その写真が語る世界は、私にはどうやっても見えない世界の姿が写っている。その写真がすべてではないが、少なくとも私の世界の範囲の外にある世界を切り取って教えてくれる。フォトジャーナリストの仕事ってそういうものだと思う。もちろん、いろんな人がいるわけだから、何らかの意図をもって被写体にカメラを向ける。その意図が、私のイメージと全く違う人がいるかもしれない。ひょっとしたら、久保田氏もそういう人かもしれない。世の中には往々にして、そういうことがある。とはいえ、私にとって言葉にできない「何か」があった一冊であることは、自分の感覚に照らして事実である。だから、それでいいと思う。私の世界を広げようとしてくれた一冊に感謝である。

 難民にも、戦争に参加する兵士にも笑顔がある。悲しい姿だけではない。そういう「人」を撮り続けるのだろう。ジャーナリストのプライドをもった人のように思った。

■引用

103 ジャーナリストの使命は、光が当たっていないところへ光を当てることだと思う。

140 撮影の技術があり、根性もあって、現地へ行くことができても、それだけではジャーナリストになれない。ジャーナリストとしてのいちばんの資質は、「この人に話を聞いてもらいたい」、「この人になら写真を撮らせてもいい」、「この人に託したい」と、相手に思ってもらえることだ


映画「すずめの戸締り」

  長女が友達と観に行ったのを聞き、次女が「観に行きたい」というので、休日朝から映画を観に行く。新開誠氏監督の「すずめの戸締り」。前々作「君の名は」を地上波で何年か前に観ていた程度の予備情報で、本作に関する情報はほぼなしの状態で観に行く。

 なかなか見応えのある映画だった。評論するものではないが、戸締まりを災いを封じることと、鈴芽(すずめ)の成長と重ねるファンタジー。展開が速くテンポがいいことと、とこよ(常世・黄泉の国)、うつしよ(現世)を分かつ「扉」を巡り、様々な人間模様と出会いが描かれる。一つ一つのエピソードが、深入りすれば人生や成長のメタファーになっているのだろうが、そういうこと抜きにしても見せ場が多く、世界に引き込まれる内容だった。

2023年1月3日火曜日

2022年総括、2023年の抱負

  あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 病気としては終わる気配のないコロナ禍ですが、世の中は緩和ムードです。4月に異動があって、前職と関連のあった障害者支援の現場から、就学前の子どものインフラ(保育園とか幼稚園)に関わる、ザ・公務員みたいな事務職(給付とか補助金の担当)に転向しました。この異動に伴って、馬車馬のような働き方から、後輩を率いてチームの仕事をする立場(いわゆる係長級というやつです)となりました。職場の変化が生活にも多少なりとも影響した一年と言えるかな、と振り返ると思うところがあります。先日、日記帳を新調した(Iyokiyehaは1月始まりを使っています)ところですが、パラパラと振り返っても、環境の変化に、思考と行動をなんとか適応させてきた一年だったことと、そのおかげで視野がずいぶん広がったことを実感することができました。

 毎年恒例の一年の総括をしておきます。2022年はこんな感じでした。

1 読書の継続 20冊+Audiobook20冊分+α

2 10分体操+素振り15,000本

3 30分程度を目安にした勉強習慣をつくる

4 新しい仕事・勉強に前向きに関わる。心穏やかに過ごす。

 1の読書は、今年は感想をアップできた読書が49冊分(未公開を含む)、Audiobookが27冊分(未公開、感想文なしを含む)、その他にマンガは多数、映画は「ドラえもん」「すずめの戸締まり」、オンデマンドで「しあわせのパン」くらいか。あと、今年の収穫はやっぱりVoicyかと。「高山ゆかりの話し方のハナシ」(高山ゆかりさん)、「精神科医のココロに効くラジオ」(kagushunさん)はプレミアムで、他多数のパーソナリティの放送をラジオ感覚でマメに聴くようになりました。PODCASTや、ラジオ放送を含めると、耳からの情報収集についてはかなり確立してきた感じがします。書籍と向き合う時間はずいぶん増えてきました。いい傾向。2022年は、時間捻出のためにティーンズを含む小説にずいぶん手を出したので、これは継続しつつ少しずつ文学や専門的なものにも挑戦していきたいと思っています。ベクトルがずいぶん前向きになってきたので、読書筋力も意識して推進していきたいですね。

 2は、朝のラジオ体操第一+5分ウォーク+素振り50本、通勤+1,000歩ウォーク、ぶらさがりorスクワット、週末ジョグor5,000歩ウォーク、で大体習慣化しました。週末の懸垂をぶらさがりにして、休日ジョグ・ワークアウトを平日ウォーク+αに切り替え、瞬間負荷を軽くすることで、体重維持・ゆっくり筋力アップにつながっています。この歳だから、見せる筋力は要らんけど、木剣素振りの音がずいぶん変わってきている気づきがあるので、使える関節・筋肉は維持できているかと思います。体重はゆっくりと2kg減くらいです。一つ懸念は、8月に新型コロナ陽性となった後、午後の倦怠感がひどく、軽い易疲労が続いていることがあります。文献やケース報告なんかを調べると、易疲労や倦怠感の症状はもっとひどそうなので、そんなに関係ないのかもしれませんが、平日15時前後は文書が頭に入ってこない、会議でも人の話を理解するスピードが明らかに遅い、などの感覚があります。まぁ、元々緊張感がなくて集中力の維持が難しい傾向はあるので、作業順を切り替えて対応していますが、どうなることやら。うまく付き合うしかないね。

 3は、仕事とは異なる時間帯に読書や音声教材を使う、という試みをやってみています。しかしながら、喫茶店の値上げや営業時間短縮、慣れない仕事でスケジュールが組みにくく超過勤務が増える、などの状況があるので調整が必要です。週末は家庭で過ごすことと割り切って、平日に時間給とって勉強したり、イベントやセミナーにWebで参加する、といったことはできそうな気がしています。うまいこと時間を有意義なものにしていきたいと思います。

 4の前段は、ここまででも触れましたが、新しい仕事にも「そこそこ楽しく、前向きに、慣れなくても勉強して決めていく」ことを大切にやっています。チームには大変恵まれ、上司にも恵まれた環境なので、今の職場にはなんの不満もありません。いらん心配なしに、経験積んだり、知識蓄えたりできるのは幸せなことです。後段は、いろいろ試行錯誤していて、身になることと、調整中のことといろいろあるけれども、着実に前進している感じはあります。まだ、前向きスルーや不惑の境地には至れないのだけれども、自分に正直に、反応せずにいれることもしばしば、どちらかというと受け流す行動をいくつか身につけた、というところです。深呼吸、手遊び、回避などの行動と組み合わせて、自分の感情と向き合うことを意識できてきています。「刺激と反応の間には『選択』がある」という言葉が身にしみるこの頃、「選択」の余地を少しでも広げることと、反応の前の選択を意識することが自然にできるようになるといいなぁと思います。精進あるのみ。


 と・い・う・こ・と・で。

 2023年は、今のベクトルを維持しつつ、思考の土台を強靱にするべく、こんなことを意識していきたいと思います。

1 読書の継続 30冊+Audiobook30冊分+音声コンテンツ+α

2 10分体操+素振り15,000本(維持)

3 30分程度を目安にした勉強習慣をつくる(習慣化)

4 仕事のスキルを向上する

5 心穏やかに過ごす

 1は、これくらいいける。むしろこのくらいの分量を維持して、3,4につなげていく土台として知識面の数値目標とする。

 2は維持。今の習慣で継続してみる。アレンジはいいが無理はしない。欲張らないことを意識する。見せる筋肉は不要。

 3、これをどう捻出するかが、今年のカギかな。生活とは両立させる折り合いの地点はどこか。できるだけ効率よく情報インプット・アウトプットの習慣をつけたい。

 4は、今の持ち場が腰掛けではなく、今後数年は腰を据えて考えて自分の意見を持てるようになるために、きちんと勉強をしたいということ。それに加えて「チームを率いる」ことについても、いろんな知見を取り入れて、自分の力だけではなく「チームによる相乗効果」を生み出せるような、そんなリーダーになるための力を蓄えていきたい。

 5は継続。きちんと「選択」できるような物事の受け止め方ができるようになること。そして不快な感情を表情に出さない術を身につけること。


 こんなことを考え、意識して今年一年、自分を磨いていきたいと思います。今年もよろしくお願いします。