2008年5月25日日曜日

伊藤守『図解 コーチングマネジメント』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2005年。

伊藤守『コーチングマネジメント』の図解版。
コーチングをきちんと勉強したいと思い、まず読んでみた。

「何をすべきか」ということがわかっていても実行できないことがある。
「すべきことがわかること」と、「どうしたら、それを実行できるのか」という質問は関連しながらも異なった答えを導く質問である。
このことは、「わかっていても、できない」ことを「できる」ようにするためのコミュニケーションの存在が必要であることを示している。

「コーチングとは、会話を重ねることを通して、相手に目標達成に必要なスキルや知識を備えさせ、目標に向けての行動を促していくプロセス」(本書「はじめに」より引用)

対象となる人(経営者だったり、新入社員だったり、チームの部下だったり、様々)が持っている「資質や才能、経験、知識」を使える「資源」としていくスキルのことを言う。
その手法として「コーチング」という考え方を基にした「会話」を重視する。
こうした「行動を促すため」の会話の方法や、その拠り所となる考え方を、本著では図解した上でコンパクトな説明を加えている。
全体としては、特に目新しい考え方ではなく、おそらく優秀な上司と呼ばれる人は、普段から「コーチング」的な会話をしているものというのが、読後の感想である。
ただし、これまで「優秀な」というところで経験則に拠るところが大きかった「よりよい会話」のしくみや考え方について、「コーチングスキル」として言語化し、世に広めたことは大きな成果だと思われる。


Iyokiyehaの仕事に引きつけたときには、以下のことが要点となる。

・認識のギャップを最小限にする質問
「スキーのコーチによるテニスのレッスン」の項目に記載されていることだが、対象となる人に問題点をいかに「気づかせる」かを考える視点を得ることができる。
テニスのインストラクターに限らず、球技を習う場面においてよく使われる言葉「ボールをよく見て!」。
この場合、見なければならないのは何なのか?
教わる人にもボールは見えているわけで、そこに「よく見て」と言われても、見えているものをどうすればいいのかわからない。
ここに認識のギャップが存在することになる。
コーチングでは、教えるのではなく、質問により「気づき」を促す。
例には、「ボールはどんな回転をしていますか?」とある。
この質問により、これまで「見えているのに、見ていなかった」ボールの回転を見ようとし、結果これまでよりもよくボールを見るようになったとのこと。
コーチングの考え方では、「知識をいかに伝えるか」ではなく、その人の目的に近づくための「気づき」を促すための質問をいかに作り出すか、ということが重要となる。

・よりよく話を聞き分けるための4つのタイプ
その人の人格や関わり方を決定するものではないという前提で、相手を4つのタイプに分類する。
1)人も物事も支配していく、コントローラー
2)人や物事を促進していく、プロモーター
3)分析を行い、戦略を立てていく、アナライザー
4)全体を支持していく、サポーター

・認めること acknowledgment
http://iyokiyeha.blogspot.com/2008/04/acknowledgment.html
(2008年4月28日投稿分)

・バイオリアクションから自由になる
人と向き合うと、多くの人は「二極化の罠」にはまってしまうそうだ。
例えば、
-どちらが上か下か?
-勝ちか負けか?
-正しいか間違っているか?
これに伴い、起こる様々な反応を「バイオリアクション」、または分かりやすく「ストレス反応」という。
外敵と対峙したときの反応と似たもので、心身ともに消耗するものである。
これによって変化する「ストレスレベル」により、物事の見方や捉え方は影響されるという。
よって、「バイオリアクション」をコントロールすることにより、相手を理解したり、協力関係を築くことができるとしている。

これらの他にも大切なことは多いが、今のところ要点として強調したいのは上記の点といえる。
全体的なイメージとしては、クライアントとともに将来の理想像をキャンバスに描いていく作業、がIyokiyehaにはしっくりくる。
ああでもない、こうでもないと言いながら、基本的にはクライアントさんが描くのを邪魔せず、それでももう少し描きこんだ方がいいことは指摘したり、見落としていることを「気づく質問」をすることにより、より明確なビジョンを描くことができる。
明確なビジョン(できるだけ本音に近い)を共有することによって、具体的で段階的な取り組みの計画をともに立てることができる。
具体的で、段階的な計画だから、受け入れられやすくなる。

限界としては、コーチングが機能しやすい課題とそうでない課題があるということを意識することだろう。
アセスメント段階で、ともに目標と今後の流れを確認し、作り上げる(見えるカタチにする)段階のやりとりとしては、このコーチングの考え方やスキルは、大きな力を発揮するものと考えられる。
しかし、緊急に処理しなければならない課題の場合、落ち着いてやりとりできる環境が用意できないことが多く、コーチングの効果が減少しやすいと思われる。
また、リスク(様々なものを包括した概念)が高いことに、未熟な人が挑戦する場合にはコーチングは思うような効果が期待できないものと思われる。
この場合は、きちんと指導(ティーチング)すべきということも本著では書かれていた。
実際にも、ある作業をきちんと教わる前には、大切なことに「気づく」以前の問題となるように思われる。

限界を意識しながらも、よりよく仕事にも取り入れていきたい。