2007年8月26日日曜日

フォーサイトクラブ・セミナー:池上彰「日本語は乱れているのか ――メディアの日本語、私たちの日本語――」2005年7月14日。

池上彰「日本語は乱れているのか ――メディアの日本語、私たちの日本語――」2005年7月14日。

週刊こどもニュースのお父さん役として知られる池上氏の講演録。『フォーサイト』誌の付録で付いてきたCDに録音されていた。

本職であるNHKの記者の仕事の説明や、「週刊こどもニュース」の作成にまつわる裏話など、軽快な語り口で聞かせる講演となっていた。
本題としては大きく2つのことを話す。一つは「暗黙知のギャップ」。池上氏がこどもニュースをつくるときに常に考えていた「わかりやすい説明」というものについて、具体的な事例を交えて説明する。「リコール」という言葉を「安全性の問題」と言い換えて子どもに説明するも、今度は「安全性」って何?という質問が出る。それについて、「商品の中に不良品が混ざっていたら、それが基で事故になってしまうかもしれない」といった説明をしたところ、子どもたちから「じゃあ、そういう風に説明してよ」と言われてしまった等、大人にとっては「これくらいは理解できるだろう、この言葉ならわかりやすいだろう」と思っていることが、実は子どもにとってはまだまだ「わかりにくい」ものだったりした。つまり、少し応用すれば、自分の理解と他者の理解との間には差があって然るべきであり、そのギャップをお互いに埋める努力をして始めて、お互いの理解を取り付けることができる、ということと言える。
もう一つの話題は、「間違った使い方をすると、言葉の意味が変わる」ということ。「水面」という言葉はもともと「みのも」と読むものであったらしいが、今では「みなも」と読みそれが今では正しい読み方として使われている。他にも「白夜」は元々「はくや」と読んでいたのに対し、現在では「びゃくや」と読む。こうした漢字の読み方だけでなく、慣用句に関しても間違った意味が通用してしまっている現状を指摘する。

記者としてのキャリアの長い池上氏だからそうした言葉の間違った使い方にも敏感で、様々な指摘をするが、その指摘を経て氏は日本語を「生きた言葉」であるがゆえに「変化する」と結論づける。初めは間違って使われた言葉が(間違い)、次第に多くの人がその使い方をするようになり(ゆれ)、やがて言葉の意味そのものが変わってしまう(正しい)現実を説明する。
そして、放送に携わるものとして、また一般の人に対しても、常套句に逃げ込む危険性を指摘する。つまり、よく調べずに「ゆれ」ている言葉を「正しい」ものとして使ってしまうことにより、そこに「思考停止」が発生する可能性を危惧する。記者としては、安易な言葉で乗り切ってしまうのではなく、きちんと取材して真実を表現するべきだし、普段私達が実施している「説明」なども、改めて考え、「わかりやすい」「正確な」表現を考えて磨きぬくことが大切なことではないのかという結びであった。