2024年4月29日月曜日

凪良ゆう『流浪の月』東京創元社、Audiobook版。

  身体も心も居場所のないサラサ。小学生の時に、両親と暮らせなくなり、引き取られた親類の家にも居場所はなく、ようやく見つけたフミとの生活も「誘拐事件」として扱われ、自分の思いとは裏腹に、社会的にもねじ曲げられ記録される。

 自分の思いと、周囲の認識がずれることは珍しくない。ただ、本作では周囲の認識が自分の虚構を真として作り上げてしまう社会を、前面に押し出して表現する。「事実と真実の間には隔たりがある」という表現がじわじわと自分に浸透してくるような物語である。

 実際にこんなことあったら嫌だな、と思ってしまうような内容も、結局人間というのは理屈に合わない行動や感情の揺らぎの中で、似たような言動をとっているのかもしれないし、観察できる他者の言動も、結局理屈には合わないことなのかもしれない、いや、多分そういうことが占める割合って、自分が思っているのよりも大きいのだろう。となれば、人にとやかく言うのではなく、自分がどうあるべきか考えて一つでも行動に移す方が、自分にとっては有益だろうと思う。そうできないことがあっても、それも自分だと認めることができれば、自分ではない他者のそれも寛容さで受け容れられるかもしれないし、受け容れられないにしても、自分に負の影響がないように制御できるようになるだろう。

 案外、強い人、というのは、凝り固まった鉄壁の論理を身につけている人ではなくて、状況に応じて自分を変えることで、自分の強いところで常に対峙し続けられる人のことなのだろうと思うに至る。