2008年2月17日日曜日

職業センターにおける、IPSプログラムとの協力:中間報告1

To:同期・同僚および関係者のみなさま

先日、東京両国でH氏と飲んだ時に、ここ数ヶ月で私が山梨の職場で取り組んできたことの話で盛り上がったので、その内容とそれを裏付ける考え方を記録してお知らせします。

結論として、今のところ山梨の職業センターは、IPSプログラムとうまく共存できそうなところにきており、今後お互いの機関がそれぞれの役割に特化しようとしているところです。
ポイントとしては、

職業センターの自立支援カリキュラムに代表される「ステップアップ方式」の就労支援プログラムと、IPSに代表される「働くこと=治療の一部」に基づき迅速な就職活動を支えるプログラムとの間で、それらを実施する機関が衝突しておらず、お互いがお互いのもつ「良さ」を認め合っている

ことがあげられます。
この点について考えながら、ここ数ヶ月の出来事を説明します。


事の発端は、Iyokiyehaが甲府市内の某病院に併設されている作業所から、就労支援に関する講習会の講師を依頼されたことです。
以前に一度、別の作業所において、主任同席の下で講習会の講師役を務めた経緯があり、その時は単独で講師をすることになりました。

9月27日に開催。
内容は、当事者向けの就労に向けたステップアップについて。
「職業センターが何をやっているか」ということよりも、「就職を考えた時に、考えなければいけないこと」として、
1.自分を知る
2.力をつける
3.仕事を探す、面接する
4.仕事をする
という段階と、それぞれの段階で就職を目指す当人が「考え、整理する」ことについて説明したつもりです。
あくまで「障害の有無に関わらず」これらの段階を経て就職する人が多い、という立ち位置で話をしたつもりです。
(説明に使ったスライドは、関係者であれば連絡いただければ差し上げます)
強調した点は、「確率ではなくて、事実」「やるか、やらないか」というところでした。
当時はまだ確信が持てなかったので、「離職は失敗じゃない」ということはあまり強調しなかったように思います。

講演会の後、その病院の院長と個別に話をすることができ、そこでIPSの概要について説明を受けることができました。
院長の前任地での実績や、IPSプログラムを説明するときに使うスライドや、それに記載されたデータなどを説明していただく機会に恵まれます。
その基礎となる文献として、
デボラ・R・ベッカー、ロバート・E・ドレイク著、大島巌、松為信雄他監修『精神障害をもつ人たちの ワーキングライフ ――IPS:チームアプローチに基づく援助付き雇用ガイド――』金剛出版、2004年。
を紹介され、その本が確か私の書棚に並んでいたことを思い出し、当時は全く読んでいなかったにも関わらず「本は知っている」と、院長の話題に必死で食いつき、その魅力を語っていただきました。(申し訳ありませんでした)

その日のことは、先方からもブログで紹介していただきました。
http://blog.cabrain.net/CN010030/?d=2007-9-27

これがきっかけで、Iyokiyehaは『ワーキングライフ』を読み始めました。
精読しているため、まとまった時間がとれる時に読む本として位置づけ、今に至っているわけです(当ブログを参照のこと)。

内容の詳細は、読書メモを参照ください。
これまで勉強してきたことを、ざっくりまとめると、
1.従来のアセスメント方法(標準化された検査による)ではなく、就労現場におけるアセスメントを重視する
2.職業選択は、本人の興味・希望を最優先する
3.働くこと=治療の一部として位置づける
4.あくまで、一般就労(最低賃金を得て、健常者と同じ職場で仕事する)を目指す
といったことが特徴であるといえます。

2007年末からこれまでに、当病院において障害者雇用を進めてきた経過がありますが、それは中間報告2で紹介します。

先日、山梨の職業センターが主催する、地域職業リハビリテーション推進フォーラムにおいて、当病院の院長に、IPS等を中心とした精神障害者の就労支援に関する動向を説明していただきました。
その内容に続いて、Iyokiyehaが自立支援カリキュラムで担当し就労に結び付いた事例を報告しました。(このときの資料も、関係者には必要であれば個人情報を抜いた形で提供できます。連絡ください)

形だけ見れば、IPSの紹介とステップアップで就労した事例ということで「噛み合わない」ようにも見えるかもしれませんが、フォーラム後に院長と話をした中で、Iyokiyehaは以下のことを考えています。
1.当事者にしてみれば「どっちでもいい」。本人にとって、より不安が小さくなる方を選べたら一番いい。(これは、院長とも一致しました)
2.IPSプログラムでは就職率は高いが、短時間就労者も多い。(これも、一致)
3.IPSプログラム、ステップアップともに、離職者は出る。(同上)
4.ステップアップでは、プログラムが確立していれば確実に力をつけられる当事者がいる。(同上)特に、認知リハビリと自身の体調把握、注意サインの発見などを段階的に身につけることができれば、フルタイム勤務に近い一般就労を狙えるようになる。(この部分は一致まではいっていない)
5.IPS、ステップアップ共に、お互いが洗練されれば、お互いの実績もあがる。(ここで一致できました)つまり、IPSを実施する機関が実力をつけることにより、ステップアップでは支援しきれない方がIPSにより就職することができ、逆ではIPSで物足りない人が、ステップアップが効果的な人となって、職業センターを利用するようになる。結果、お互いに「支援しやすい」人が集まるようになることで、お互いの実績があがる。

1.2.3.がベースとなって、4.5.と言える、といった構造です。

現在は、ここまで至っています。
まだまだ、お互いにそれぞれの「良さ」を磨かなければならない状況ではありますが、良好な関係となっていることは、お分かりいただけるかと思います。
Iyokiyehaが知っている限りでは、岡山においてACTプログラムを展開している機関と、職業センターとがどうしても折り合いつかずに、お互いがお互いを避ける状況ができていたことがあります。
そういったことが、全国各地で起こっているかもしれません。
今後、山梨での事例を「いい形」で紹介できるよう、取り組みたいと思うところです。
リハ研とか、学会、JC-NETなど、その分野で盛り上がっている集まりで、紹介できるようになりたいものです。

今回は、ここまでの紹介で。