2008年4月13日日曜日

こうの史代『夕凪の街 桜の国』双葉社、2004年。

「昭和三十年。灼熱の閃光が放たれた時から十年。ヒロシマを舞台に、一人の女性の魂が大きく大きく揺れた。最もか弱き者たちにとって、戦争とは何だったのか、原爆とは何だったのか?著者懇親の問題作!」(裏表紙より)
『ぴっぴら帳』『さんさん録』など、普通の人の日常を淡々と描きながら、人の内面をにじませる作品を描く著者による作品。
手塚治虫文化賞新生賞、文化庁メディア芸術祭大賞、という私にはよくわからない賞をダブル受賞したことで、2年前くらいに書店で静かに盛り上がっていたのを覚えている。
オチのない、大真面目な作品。
悲しみとも怒りとも、不安や希望といったものとも違う、なんともいえない感情に触れる作品だった。

当時の私には、読んだときに感じたものが一体何なのか整理することはできなかった。
今回、何となく書棚に並ぶこの漫画を手にとって、この本に収められている3つの作品のつながりを意識して読んでみた。
「原爆とは?」「戦争とは?」といったありがちな問いとは違い、人の生死の現場に居合わせた一人の人間が直面する「幸せ」と「罪」の意識。
複雑な感情や、整理しきれないことの不安など、人間が普段直面し、悩むことを、直接描き切っている。
更に、そうして思い悩む人が、他の人と接し、その人の生き様を知ることによって自らの生き方の方向を掴んでいく過程が、直接の表現でなく、漫画に描かれる情景や表情によって感じられるような、そんな作品であるように思う。

帯に「読後、まだ名前のついていない感情が、あなたの心の深い所を突き刺します」と書かれているが、まさにその通りだと感じる。
2007年に、映画化されたらしいですね。
http://www.yunagi-sakura.jp/
(映画『夕凪の街 桜の町』OFFICIAL SITE)