2008年3月10日月曜日

JC-NET会議2008(3月8日)

毎年参加している、JC-NET会議。
http://www.jc-net.jp/
(ジョブコーチ・ネットワークWeb)
会場が、上智大学から大妻女子大学多摩キャンパスへ移り、移動は不便になったが、分科会の会場は広く、多少快適になった。
今年で第4回を迎えるこの会議。
毎年、最高級の刺激を持ち帰るのだが、今年もその例に漏れず、いい刺激を受けて新しいアイディアが頭の中で渦巻いている。

○キーノートスピーチ(小川浩)
小川氏による、この一年の障害者就労支援の動向と、会議の設計図について説明。
この方の講演は抜群に上手い。
話し方、スライドの構成のしかた、数字の説明の仕方。
どれをとっても勉強になる。

障害者雇用率の推移では、大規模企業が雇用率全体を引き上げてきている傾向がある。
1000人規模以上の企業では1.70%となっている。
5年前くらい前(平成13~14年)を境に、59~99人規模の事業所と1000人以上規模の事業所とで、雇用率の相対的な高低が入れ替わっている。
精神障害者が雇用率に算定されるようになったとはいえ、劇的に雇用が進んでいるわけではない数値が示される。
特例子会社の数は、右肩上がりで増加の一途をたどる。

労働政策審議会の意見書に基づき、障害者雇用促進法の改正が検討される。
ポイントはいくつかあるが、障害者雇用に直結する主な内容は以下の通り。
・短時間労働者(20時間以上30時間未満/週)の雇用率算定
・納付金の徴収と調整金の支給対象を、101人以上規模の事業所にも拡大する(まずは、201人以上規模から段階的に)
・除外率の10%引き下げ(早ければ、今年7月から)
一方で、障害者雇用を進めやすい施策として
・中小企業における事業協同組合
・チーム支援
・障害者就業・生活支援センターの拡充
加えて、障害者自立支援法によって打ち出された内容について、設定された数値目標は、勢いのあるもので、中でも職場適応援助者による支援数(5割)が、近年各県でジョブコーチ(かそれに類する)養成を始める根拠となっている。
また、小川氏の私見として、定着率の測定方法は2年、3年の帰趨状況とするべき、と提案される(現在は6ヶ月)。

こうした状況で、各々の立場でできることは何か、という問いを発し幕を閉じた。

スライドの作り方で、「うまい」と思ったのは、以下の点。
1)分科会会場への道のりを、写真スライドで挿入し、会場の雰囲気を和ませた箇所
2)テキストボックスを淡い色の背景色、枠なしで使い、例を書き込む


○ワークショップⅠ(地方自治体の就労支援)
大阪府のジョブライフサポーター(JLS)事業、埼玉県の障害者雇用サポーター事業・市町村就労支援センター設置促進事業、広島県の障害者ジョブサポーター事業の事例紹介。
-大阪府
2005年度に府の単独事業として実施される。
大阪府下(政令指定都市・中核市を除く)の施設や作業所の利用者を対象に、主に施設利用者に「広義のジョブコーチ支援」を行い、就労促進を目指す制度となっている。
NPO法人大阪障害者自立生活協会が事業を受託。
支援機関は6ヶ月と、再支援可。
府の健康福祉アクションプログラムにも「ジョブライフサポーター事業の実施」が明記されている。
障害者就業・生活支援センターは主に在宅障害者を中心に支援することとし、明確ではないが住み分けがなされている。
国のJC事業との違いは、「実習のみ」の場合も支援対象とすることとしている。
雇用型JLS(当該法人で雇用している)と登録型JLS(施設などの職員で養成講座を修了した方を対象に活動してもらう)を設置している(職業センターのジョブコーチ支援事業と対応する形式)。
現在は、雇用型JLS(7人)がコーディネート役となり、登録型(95人)が実働している形となっている。
予算規模は、4,700万円/年から現在は5,600万円/年となっている。
活動は一日あたり1万円の謝金。
実績から、知的障害者は集中支援を過ぎると支援頻度は減少するが、精神障害者の場合は支援機関が長期化する傾向があることが言える。
職場開拓については、電話および訪問により、約7%の確率となっている。
提案型のNPOが事業を受託していることにより、対支援機関でも場合によっては指導的立場となりうるし、対行政にも事業の効率化について厳しい意見を突きつけている。
また、準備訓練のプログラムについて、その必要を提案される。

-埼玉県
Web「働く障害者のチャレンジ・ストーリー」
http://www.pref.saitama.lg.jp/A07/BM00/syougai/syougai02.html#link0
埼玉県市町村障害者就労支援センター、埼玉県障害者雇用サポートセンター、産業労働センターとの連携。
定着支援、就労コーディネート、雇用の場の創出、普及啓発と役割分担ができている。
特に、市町村障害者就労支援センターでは、職業相談から、実習支援、定着支援(ジョブコーチ支援)と一貫した支援を実施している。
(9日のシンポジウムと連動)

-広島県
障害者ジョブサポーター制度。
雇用率が増加しない原因として、1)年間1000人ほどの離職者があること、2)国JCが県内に12人。これらにより、障害のある人の離職防止、および定着支援のための機能が限られている。
事業内容:ジョブサポーターの養成・派遣。
ジョブサポーターには、1)企業内サポーター、2)派遣型サポーターがある。
(1は120人/3年、2は90人/3年)
企業内サポーターには、障害者雇用をする企業の従業員を対象に、障害特性に関する基礎知識、職場でのサポート等について学ぶ養成講座を実施。
研修プログラムの質は高く、好評を得ている。
派遣型サポーターは、障害者就業・生活支援センターを受託している法人へ登録し、同センターが派遣の調整をしている。
受講要件の見直しや事業の継続性、また企業ニーズを察知し、適切な支援や提案を実施できるジョブコーチの養成が、課題としてあげられている。


○ワークショップ2 「地方に就労支援の芽を植える」?!
山陰合同銀行の取り組みと、地方の企業を指導役として訪問した立場からの事例報告。
-『ごうぎんチャレンジドまつえ』の開設と知的障害者雇用に関する取り組み
山陰合同銀行(以下「ごうぎん」)の知的障害者雇用に関する取り組み。
趣旨は、1)知的障害者が専門的に就労できる事業所の整備、継続的雇用を行うことで、障害者の自立を支援する。2)「森林保全活動」に告ぐ地域貢献活動の柱とする。3)障害者雇用の地域におけるモデルづくり(開設までの取り組みや、運営ノウハウの後悔により、地域全体で知的障害者の自立を支援する。地域におけるセーフティネットのモデルケースにする)。
取り組みのポイントとして、慈善事業ではないことと、当該事業所だけの取り組みにしないという前提がある。
作業内容は、1)粗品の作成(絵を描く、森林保護と絡めたエコバックや木工品(通帳入れなど)、ノベルティなのに「銀行」の文字はない!)、2)事務補助業務(名刺や伝票印刷、ゴム印押し、冊子・パンフレット封入など)。
新規事業の開発と、既存業務の切り出し・集約、外注業務の内製化により、職務を再設計する。
その際のポイントは「新たな経費負担を発生させない仕組みづくり」。
雇用には、就労移行支援事業の訓練・実習(当初5人)、トライアル雇用制度(追加4人)、雇用前JC支援(新卒5人)など、状況に応じた対応をしている。

ごうぎんが障害者の就労支援を行う理由は、1)経営理念として「地域の夢、お客様の夢をかなえる創造的なベストバンク」を目指していること。「障害者が地域で当たり前に働く」という夢をかなえること。2)地域金融機関の役割として「リレーションシップバンキング」という視点から、地域経済の活性化をめざし、企業として障害者雇用促進法への対応を検討した結果である。とのこと。
最後に、企業は企業のネットワークをもっており、支援者は支援者のネットワークを持っている状況の中で、それらのネットワーク同士をつなぐ「ハブ」としての役割を就業・生活支援センターが担うべき、との提案をされた。

発表された宮本氏のスライド。
ごうぎんチャレンジドまつえの従業員が書いたイラストが、あちこちに動作を伴って表示され、面白いつくりになっていた。

本間氏の報告では、これまでの取り組みを紹介され、その上で「継続就労」を支える、本人の力、支援者の姿勢を提案された。
事例・経験に基づく、具体的な提案はわかりやすい。
<働く人にとって大切なこと>
ハンデのある、なしに関わらず「この社会で一人で生きていく力」が身に付いていること。
これが働き続けることの、大きな力と前提となる。
・会社にきちんと来れること
 (生活リズム、通勤、病気・事故の連絡など)
・ 働く体力があること
 (食事をちゃんと摂る、健康など)
・生活習慣は身についているか
 (他の人と一緒に働く上で必要になること、風呂、着替えなど)
・「働く」ということを意識できているか
 (言われたことはきちんと守れる、分からないことは聞く・相談できる、安全に配慮できる、金銭管理と使用、お金を使う喜び、など)
・みんなとの強調
 (挨拶、会話をする楽しさ、など)
<ジョブコーチにとって大切なこと>
・障害者、事業主からの信頼を得ること
 (そのためには、「専門性の研鑽」。どれだけたくさんの引き出しを持っているか、障害者の働いている現場をどれだけ見ているか、そこで「あがいている人」とどれだけ話ができるか。一緒の現場に立てる人)
・彼、彼女をどれだけ見ているか
 (どうして、なんで?きっと理由がある)

事業所開拓の時には、企業情報をいかに入手するかがポイントになる。
「地方」という言葉には、人口が少ないとか、この分野でいえば事業所が少ないとか、そういった意味も含まれるが、どんな状況においても就労支援を成功へと導く力は、「熱い思いと、具体的に動く行動力、そして人と人とをつなげるネットワーク力」であるということが示された。