2009年12月26日土曜日

中西貴之『からだビックリ!薬はこうしてやっと効く ――苦労多きからだの中の薬物動態――』技術評論社、2009年。

Podcast「ヴォイニッチの科学書」で活躍されている中西貴之氏の、薬物動態に関する書籍。

http://obio.c-studio.net/science/index.htm
(Web:ヴォイニッチの科学書)

お腹が痛い時に、飲み薬を飲んで効く、というのは感覚的にもわからないでもないのだけれども、頭痛になぜ飲み薬が効くのか?
風邪薬はどこにどのように効いて、症状が楽になるのか?
疑問に感じた方は、一読の価値ありです。

薬が私たちの体内で、どのような経過をたどって、どのように効果を発揮するのかということや、副作用が起こるのはなぜなのか、それらの薬を作る現場では、どのようなことに苦労しているのか。
「薬物動態」という学問分野があって、その成果を豊富な実例を基にわかりやすく説明しているのが本著です。
少し専門的な内容も含んでおり、高校生レベルかそれより少し高いレベルの生物学の知識が要る箇所もありますが、基本的には一般書として十分に読める内容です。


Iyokiyehaのもともとの疑問は、仕事をしていて「抗精神約や抗うつ剤って、何で飲み薬なんだろう」と感じことです。
それから、「薬ってどうして脳に作用するんだろう」ときて、「そもそも薬ってどうやって作用するんだろう」「飲んだ薬ってどうなるの?」という疑問に発展したところにPodcast「ヴォイニッチの科学書」のCMを聞き、購入したというわけです。
読感は、やや難しいけれども十分に読めて「なるほど!」が多い本でした。

薬といえど、身体にとっては基本的に「異物」。
人間の体内には、異物を排除するための様々な機能が備わっていて、薬の研究・開発とは、そうした様々な機能(酵素やたんぱく質の働きなど)をどうすりぬけたり、利用したりして疾患部位に効果を発揮させるか、ということとの戦いだということ。
そして、一番勉強になったのは、薬の成分の多くは小腸の柔毛細胞から血管に入り込み、血流にのって疾患部位にたどりつくということ。
抗精神病薬や抗うつ剤も、そのほとんどが経口投与されて、唾液や胃液の攻撃をかいくぐり、腸から血流に乗って肝臓でさらに激しい攻撃を受けた後、硬い守りに定評のある脳へと運ばれて作用するということがわかりました。
そりゃ、個人差もあるわ。
そもそもの疾患部位にも個人差ありそうだし、そこに至るための数多くの関門ごとに個性があれば、変数が増えていくのは必至です。
加えて、副作用=正常な細胞に作用してしまったこと、というシンプルな記述によって、わかることも多い、お得な書籍でした。

少し内容が専門的なので、万人うけする本ではないけれども、人体の不思議に興味がある人や、Iyokiyehaと同じ疑問をお持ちの方にはおすすめです。


オススメ度:★★★★☆(薬や人体のしくみに興味がある人におすすめです)