2008年9月6日土曜日

精神保健福祉論(草稿)

1.はじめに
 精神科病院では、患者の持つ疾患の特性上、必要に応じて患者本人の意思や希望に反する強制的な医療行為や行動制限が実施される場合がある。
 本稿では、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下、「精神保健福祉法」)に規定されている、本人の同意なしに実施される可能性のある医療行為と行動制限を確認し、それぞれについて用意されている法制度上の配慮をまとめる。なお、本稿において法律を特定しない場合の条項番号は、精神保健福祉法を表すこととする。

2.精神科病院における強制および行動制限
 精神保健福祉法には、場合により本人の同意なしに行われる医療行為として「強制入院」と「行動制限」が規定されている。
(1)強制入院
①退院制限(第22条の4第3項、4項)
任意入院した精神障害者の退院申請に対し、指定医が入院を継続する必要があると診察する場合、72時間に限り退院を制限できる。なお、「特定医師」の場合は、12時間とする。
②措置入院と緊急措置入院(第29条、同条の2)
指定医2人以上の診察の結果、その者が精神障害者で、かつ、入院させなければ自傷他害のおそれがある場合に、都道府県知事はその者を精神病院に入院させることができる(措置入院)。また、上記手続きを採れない場合、指定医の診断により72時間に限り入院させることができる(緊急措置入院)。
③医療保護入院(第33条)
指定医による診察の結果、入院の必要がある者の内、病識の欠如や判断能力の低下等の理由で、任意入院の手続きがとれない場合、保護者の同意によりその者を入院させることができる。また、特定医師の診察による場合は、12時間に限られる。
④応急入院(第33条の4)
 指定医による診察の結果、緊急に入院が必要な場合で、任意入院の手続きが採れず、かつ、保護者の同意も得られない場合、72時間に限りその者を入院させることができる。特定医師の診察による場合は12時間に限られる。
⑤医療保護入院のための移送(第34条)
 指定医による診察の結果、入院の必要があるとされ、任意入院の手続きが採れない場合に、保護者の同意により医療保護入院させるために、本人を精神病院へ移送することができる。
(2)行動制限(第36条)
 精神病院の管理者は、入院中の者に対し「その医療又は保護に欠くことのできない限度」で、必要な制限を行うことができる。

3.強制及び行動制限に対する配慮
 強制や行動制限は、本人の同意なしに実施される。よって、本人の症状が軽減することや、判断能力が回復する等の状況により、医療の原則である本人の意思に基づく医療行為を受けられるよう、制度上の配慮が用意されている。以下、精神保健福祉法で規定されている配慮事項を説明する。
(1)退院等の請求(第38条の4)
精神病院に入院している者、あるいはその保護者は以下を求めることができる。
①都道府県知事に対し、当該入院者を退院させること
②精神病院管理者に対し、当該入院者の退院を命じること
③精神病院管理者に対し、当該入院者の処遇改善を命じること
 ①の求めを受けた都道府県知事は、都道府県に設置される精神医療審査会に請求内容を通知し、その者の入院措置や処遇について審査を求めなければならない。第三者機関が独立的、客観的判断できるしくみである。
(2)行動制限の制限(第36条2項、3項)
 精神病院では、入院患者の行動制限を認めているが、厚生省告示(昭和63年第128号)に基づき、以下の制限は禁止されている。
①信書の発受
②都道府県及び地方法務局その他の人権擁護に関する行政機関の職員並びに患者の代理人である弁護士との電話
③上記②の者及び、患者又は保護者の依頼により患者の代理人になろうとする弁護士との面会
 また、以下の行動制限については、厚生省告示(昭和63年第129号)に基づき、指定医が認めなければ実施できない。
④患者の隔離(12時間を超えるもの)
⑤身体的拘束
(3)入院時の通知
 精神障害者が入院する場合、精神病院の管理者は当該精神障害者に対し、精神保健福祉法施行規則に基づき、以下のことを告知するよう定められている。
①患者の入院形態に関する説明
②第36条に規定する行動の制限及び処遇に関する事項
③第38条の4に規定する退院等の請求(任意入院の場合は、第22条の4第4項)

4.まとめ
 以上、精神科病院における強制及び行動制限と、それらに関する法制度上の配慮をまとめた。治療に関して不満があれば、その改善を求めることができ、本人が退院を希望すれば請求が可能となっている。また、精神科病院の監視体制も、厚生労働大臣および都道府県によって整えられ、必要な基準も定められている。制度上は、本人の意志と人権を尊重したものとなっている。
 しかし、病識が欠如する、判断能力が低下する等の障害の特性により、治療方針を本人の意志に委ねることが、医療及び保護に有効か、さらには自傷他害のおそれはないか等、現場で判断に迷うことが予想される。
制度的には様々な配慮がされているとはいえ、それを生かすのは当事者と医療従事者一人一人といえる。精神保健福祉士も、支援者の一人として、人権確保のチェック機能を果たせるよう意識したい。



(勉強メモ)
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