2008年9月9日火曜日

森博嗣『スカイ・クロラ ――The Sky Crawlers――』中央公論新社、2004年。

映画化された小説。
裏表紙には「戦争を仕事に永遠を生きる子どもたちの寓話」とある。
小説ゆえに、変に評価するのはおこがましいが、小説全体を貫く「淡々とした描写」と「一人称視点により表現される心理描写」が、何ともいえない雰囲気を作り出しており、なぜか、この世界にぐいぐいと引き込まれそうになる。

率直な感想を言えば、「面白いけど、何か物足りない。そして謎が解けないもやもやは残る」とでも言えるだろうか。
映画のCMでも引用されるあたり、ボーリングをしている主人公カンナミが思うこと。

ボールの穴から離れた僕の指は、
 今日の午後、
 二人の人間の命を消したのと同じ指なのだ。
 僕はその指で、
 ハンバーガーも食べるし、
 コーラの紙コップも掴む。
 こういう偶然が許せない人間もきっといるだろう。
 でも、
 僕には逆に、その理屈は理解できない。
(245~246ページ)

こういう描写が随所に散りばめられており、ちょっと変わったカンナミの思考は、そのまま否定することが何だか後ろめたいようにも思える。
いろんな意味で、別世界へ連れて行ってくれるような小説だと思う。
「キルドレ」とは何なのか、他の登場人物は何を考えているのかといったことについて、充分な描写がなく、それがまた「スカイ・クロラ」ワールドを独特なものにしているようにも感じられる。

個人的には、謎がすっきりする小説が好きだけども、森氏の他の著書も読んでみようと思わせる小説だった。


おすすめ度:★★★★☆