2022年9月6日火曜日

蟹江憲史『SDGs入門 未来を変えるみんなのために』岩波書店、2021年。

 仕事で作文をする時に、「SDGsの項目を踏まえて」という条件が付されることが増え、真面目に勉強しておこうと思い、図書館で借りてきました。先に、斉藤幸平『人新世の「資本論」』のSDGs批判を読んでいたため、ちょっと批判的に考えていたのだけれども、きちんと読めば、やはり、持続可能な社会・世界を目指すための入り口だと分かり、ないがしろにするものではない、ということ。斉藤氏の批判についても、「単に『いいことをしていると思い込めるだけで、足りない取り組みを繰り返す』だけ」という地点ではないことも整理できた。

 要は、SDGsの目標というのは、何か業を起こしたり事業に取り組む時、開発を行う時に、それが何の目標に当てはまる取り組みで、取り組みの結果その目標となる分野がどのように「改善」されていくのか考えるフレームワークだということ。かつ、他のどの目標に影響を与えるのかを考えるフレームワークであるということ。これらを通して、持続可能な社会・世界にどのように寄与するのかを考えるためのフレームワークとなりうる、ということだと理解した。

 だから、SDGsの項目に当てはまることを「やればいい」のではなく、目標を通じて何を成し遂げたか「考えること」がその本質である。さらには、政治的合意で成立したものであり、各目標の整合性(こちらを達成すれば、他方も達成するなどの連動)は目標レベルでは未調整の段階であるため、他への影響を「考慮する」ための切り口となりうる。

 この背景には、答えのない問いに対して取り組むためには、不断の取り組みが必要であり、今のところ行動やその結果を相対的に評価するしかないわけだ。持続可能な社会や世界を目指すための現時点での到達点といえるだろう。

 本書は、様々な「前向きな」取り組みを目標に落とし込む理屈、そして他への影響への視野を、豊富な事例を基に丁寧に論じている。中学生向けと言ってあなどるなかれ、今まで読んだ本、論考の中でもトップクラスのわかりやすさだと思う。