2022年9月24日土曜日

岡田憲治『政治学者、PTA会長になる』毎日新聞出版、2022、Kindle版。

 本書との出会いは、我が家で購読している『毎日小学生新聞』の広告欄。2020年度にPTA会長に就いていたIyokiyehaさんは、その職を退いた今でもPTA活動には興味がある。とはいえ、今は関わろうとはしない。ありがたいことに個人的には勧誘してもらえるけど。振り返れば、IyokiyehaにとってPTA活動は2勝5敗くらいの感覚で、そのうちの1敗分が「あー、めんどくせ」に変換されてしまったために、おなかいっぱい、になってしまったのが現実。とはいえ、当時からもやもやと頭や心に残っていたものが、すーっと言葉に整理された読後感のある一冊だった。

 考え方や思いは、おそらく私と近いところにあったように読み取れるのだが、その受け止め方や対峙の仕方、そして取り組みは数段階進んでいるようだ。会長の任期が異なる(私は副会長2年、会長1年。著者岡田氏は会長3年)ことも大きな違いだが、役員ポイント制や区市町村P連との関わりなど、似たような問題意識への取り組みと着地点のイメージ、実際の乗り切り方が全く異なっており大変興味深い。PTAは「やるべきもの」ではなく「やったほうがいい、あった方がいいもの」であることや、「多くの人が気軽に学校と関わるしかけ」を持つべきとする根本的なイメージは重なる部分が多い。ただ、それを「自治の課題」と位置づけて、原理原則を確認した上で必要なもの・こと、そうでないもの・ことを分類し、整理していったあたりの経緯は、(おそらくここに描ききれない出来事が細々あったのだろうが)読んでいて小気味良いものだった。参考になった。

 特筆すべきは、役員ポイントでもベルマークでも感じたことだが、集まって雑談することの「ガス抜き機能」を明確化し、自由な活動の中にきちんと位置づけていること。それを正当化するために「挙手制、提案制」のボランティア活動を推奨してたきつけ、本部役員はコンセプトキーパーに徹していること、など、おおよそ私がイメージですら到達しえなかった、ベクトルの先にあるものを具現化している。

 「PTAかくあるべき」ではなく「それぞれ原点に返って、見直したほうがいいんじゃない?」と訴えかけてくるような一連の取り組み記録である。政治学者ならではの分析も鋭いが、専門用語で切り分けていくのではなく、あくまで運動・活動の内面から立ち上がる「感情」を大切に、あくまで活動のためのガイドとなりうる内容にまとまっている。他の論考や記事には「PTAは不要」と断じてしまうようなものもある中にあって、本書の整理は「PTAの役割を再構築」しているものであり、これは、原点に返ることから現在と個別の学校の状況に即した活動があるはずだ、とする主張の書である。

 PTA関係者や子を持つ親に「考えること」を促す、大人の良書といえる。