2007年12月16日日曜日

デボラ・R・ベッカー、ロバート・E・ドレイク著、堀宏隆、他訳、大島巌、他監訳『精神障害をもつ人たちの ワーキングライフ』金剛出版、2004年。(8)、123ページまで。

○IPSプログラムの始動
1.(対象者の)資格要件基準
-制限はない。
-IPSでは、すべてのクライアントが、就労と働くことが彼らにもたらすであろう可能性について考えるよう勧められる。

2.紹介
-就労に関心を持つすべてのクライアントがIPSサービスにアクセスできるよう展開される
-例えば、関係機関やその待合室などに、ポスターやクライアントが働いているところを写した写真、パンフレットなどを展示する
(手順)
-IPSが順番待ちの場合は、CMはクライアントがどんな職種に就きたいか考えるよう勧める。職場訪問も有効。
-ただし、援助つき雇用プログラムの開始までの時間を短くし、働く意欲が削がれることを防ぐ
-短時間就労(15時間以下/W)も希望として成立する
-クライアントを障害者や患者としての役割ではなく、成人としての役割(本人の才能・能力・好みなど)に焦点をあて、本人を鼓舞する
-「働くこと」が物質乱用等のパターンを変化させる動機付けとなる
(紹介システムの進行)
-IPSコーディネーターが紹介を受け、就労支援スペシャリストを割り当てる
-就労支援スペシャリストとクライアントは、紹介後1週間以内に直接顔を合わせる

3.契約と関係の樹立
-クライアントが就職面接にストレスを感じているならば、伝統的な面接なしで職を得られるようクライアントを援助する
-最初の数回の会合では、就労支援スペシャリストとクライアントが互いに知り合い、クライアントが何をしたいのか見定める(ニーズ把握)ことに時間を使う
(援助関係)
-クライアントがどのような人なのかを知ることが、関係作りでは重要
-精神保健センターの外でその人を観察することは、何が(1)クライアントの就労への動機付けとなり、(2)障壁となり得るかについて、重要な洞察につながる
-クライアントの世界に入ろうとする積極的な様子は、クライアント尊重・理解の一助となる
(意欲低下・病状悪化時の対応)
-IPSでは、就労支援スペシャリストがクライアントに接触し続ける
-クライアントが困難な状況に置かれていたとしても、チームはクライアントの肯定的な面を見るようにし、その成功を目指す
☆「チームは希望を運ぶ」

4.面接技術
(基本的要素)
-面接が始まった後、信頼関係を築く有効な方法の一つは、クライアントについて肯定的な発言を行うこと。クライアントの努力と経験を、肯定的な枠組みの中で、常に繰り返し指摘する
-就労支援スペシャリストは、個人の意見を示すにしても、一般化したアプローチを用いる(個人的な逸話や考えを話すことは避けたほうがいい)
-自由回答形式の質問(「○○について教えてください、どんなことが好きで、どんなことが嫌いでしたか」「そのことについてもう少し話してください」など)を行うことにより、(1)新しい情報を得る、(2)回答によって質問がきちんと理解されているかどうかが明らかになる
(リフレクティブ・リスニング:聞き返しながら傾聴する)
-二つの利用方法
1)スペシャリストがクライアントの話を正確に聞いていることを確認する
2)クライアントとの関係を築くのにも利用される
3)クライアントが、自分が話した内容をもう一度聞き、話そうとしたことをさらに明確にする機会を提供できる
-スペシャリストは、共感を込めて、クライアントがどのように感じているか応答する
-面接者は、クライアントが「話している時に体験している情動」を同定する
-アドバイスを避ける
 クライアントが自分で解決策を探し出すよう励ますことを望む
 問題解決のための様々な選択肢と、それらの長所・短所を見つけることを援助する
 ただし、賛成できない場合は、賛成できない理由を述べた上で、クライアントを尊重し、支持していることを示し続ける
(意見の不一致が原因となる「対立」は避ける)
☆クライアントの失敗する権利、自らの経験から学ぶ権利を認めるようにする
-就労に焦点を当てた面接を続ける
-面接の最後に、話し合ったことを要約し、次の面接時間と、次回の面接でどのように時間を使うか決め、更にクライアントの就労目標に関連して、お互いに次の面接までに何をするか、意見をまとめる
(動機付け面接motivational interviewing・ストレングス評価)
-クライアントが目標を明確にし、目標達成に向けたプランを立てるための質問
 重要なこと、目標達成を阻む障壁の明確化を援助する
-意欲が低下しているときには、クライアントにとって働くことの意味を再確認する
 就労が望ましいと周囲は思っていても、クライアントがそう思っていないのならば時期尚早である
-クライアントとの協働作業においては、クライアントは全人的な視点で捉えられ、病気も持っているが、技能とストレングスを持っている人である
-クライアントが夢を持つよう励まし、その夢が実現するよう手助けをする

(5.州の職業リハビリテーションプログラムとの連携)
(-シチュエーショナル・アセスメント=場面設定法)
( ジョブコーチによる支援が普及し、職場における評価を意味するようになった)
( アメリカでは、2週間程度のシチュエーショナル・アセスメントの制度があり、
  その間のクライアントの賃金は、職業リハビリテーション部門が負担する)

6.7.8:就労支援スペシャリストとクライアントが始めに話し合うこと
1)社会保障給付
 クライアントは、受給資格を失うことへの不安が就労の検討をためらわせる主な要因となっている(米国)。働き始めたら、給付がどうなるのかということに関して、正しい理解と働きかけが必要となる。
2)障害の開示
-「障害をもつアメリカ人法:ADA」に基づく保護を得るためには、事業主に病気のことを開示する必要がある(米国)
-面接や就労の前に、障害の開示について(1)開示するか否か、(2)どの程度開示するか、について話し合っておく
-仕事上の調整が図られた方が助かることをクライアントがはっきり分かると、事業主に障害を開示しようと思うようになる場合もある
☆事業主にとって疾患に関する詳細な情報は必要ない
3)家族の関与
-どの程度家族が関与するか
-連絡体制の構築
-多くの場合、本人に対する(1)家族の対応策、(2)仕事に関連する興味、(3)事業主への連絡など、有益な情報を提供してくれる

9.時宜にかなった就労計画
-クライアントが、(1)精神疾患の症状の悪化、(2)物質乱用の再発、により「働きたくない」と言った場合
 →援助チームは、その時は就労に焦点をおかず、将来の職業上の成功に向け勇気付ける
☆働くことは一つの目標になる
-本人が、目標とその妨げとなるものを認識するように促す
-働くことは、クライアントが生活のほかの部分にも支援を受け入れる動機となる
☆就労支援スペシャリストは柔軟であり、クライアントの希望に焦点をあてる。それが就労支援スペシャリストの思いと多少異なるものであったとしても