2007年9月16日日曜日

奥山清行『伝統の逆襲 ――日本の技が世界ブランドになる日――』祥伝社、2007年。

『フェラーリと鉄瓶』に次ぐ、奥山氏の著書。山形工房での活動を通して考える、日本のブランド戦略に関する考察と課題をまとめている。それらをまとめあげる過程で、奥山氏の経歴にも触れ、日本人のアイデンティティやものづくりの考え方、デザイナーの仕事について、仕事に不可欠なコミュニケーション能力について、経験を通して感じていることが率直に述べられている。

日本人のアイデンティティとして、特徴的なものは「想像」と「犠牲」とする。前者は「思いやり」とも言い換えられる。自然と他者を慮ることが日本人は非常に得意であるとし、それがビジネスにおいてマーケティングに絶大な力を発揮する。「それが今できているかどうかは別にして」という前置きはあるが、クリエイティブになっていくための素地が日本人には自然と備わっているとする。後者は、自分をある程度犠牲にしても全体を生かそうとする気持ちを持てるのは、やはり日本人だけとのこと。全体を見て、今一番大切なものが何かを知り、自分のポジションを知る。その上で、大切なものを作り出すことができるという。
さらに、この日本人のアイデンティティが、必要なコミュニケーションと結び付いたときに、活躍の場はさらに広がるだろうとしている。「言わなくてもわかるだろう」は日本国内で、「想像力」に長けた日本人を相手にしているのであれば、成立するかもしれない(これまではしてきた)のかもしれないが、今後世界で活躍する上では「日本人はコミュニケーション下手」ともなりかねない。奥山氏は「自ら成功の幅を狭めてしまっている」と言い切っている。

もう一つ印象的だったのは「シンプル」というものの考え方だ。「シンプル=単純」と、言葉の意味としては間違いないところであるが、ただ要素の少ないもの、単純なつくりのものが「シンプル」であるかというと、そこに本質はないとする。一つには、「何かコアとなる価値があって、それを凝縮したもの――削ぎ落としていって、コアとなる価値を残した『もの』や『こと』」、もう一つのシンプルには「たくさんの要素がありながらも、それらを統合し、リファインして洗練されたものになってくると、結果としてシンプルに見える」(126ページ)というものという。本質は何か、ということを突き詰め、必要ないものは削ぎ落としていく。または、洗練させてコアを際立たせる。徹底的にそういった行程を経ていくことによって「シンプル」であることの機能性、美しさが立ち上がってくる。

具体的に、何に活かす、といったことを、今ここで書きとめておくことはできないが、おそらく今後の生活や仕事の中で自然と活かされてくる考え方のように思う。『フェラーリと鉄瓶』と同じように、少し時間を置いてまた目を通したい本である。傑作。

KEN OKUYAMA オフィシャルサイト
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山形工房
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