2007年9月1日土曜日

奥山清行『フェラーリと鉄瓶 ――一本の線から生まれる「価値あるものづくり」――』PHP研究所、2007年。

傑作。

この一言に尽きた。


私の仕事はものづくりとは遠いところにあるが、学ぶべきことが詰まった内容だった。デザインの仕事においても、コミュニケーションがその全体の三分の二くらいであるとのこと。正しい人から正しい情報を引き出し、デザインを書き、できたものの情報を正しく伝える。最初と最後は考えや成果を人に伝えること、すなわちコミュニケーションである。顧客のニーズに合わせる、時代に合わせるために必要な情報を集めるのはコミュニケーション能力であるから、これからの日本で言えることとして「沈黙は悪」とシンプルに語る。
イタリアの文化やものづくりのしくみについても、著者の視点から具体的に語られており、読み物としても純粋に面白い。
その中からも、イタリア人が「言葉をアイデアを出すための道具として使っている」ことに触れ、さらにコミュニケーションの具体的な広がりについても説明している。「いろいろなことを話しているうちに、自分でも具体化していなかった要素を会話の中から見つけ出し、それをどんどん洗練させていく」ことや、デザイナーとしての「手」についても、「重要なアイデア出しの道具」として「自分が当初考えていた形とか面とか線とかを通り越して、自分が予想もしていなかったアイデアに導いてくれる線がある」という。脳がコントロールし切っていない手の動きを目で見て脳にフィードバックするといった、職人的な感覚についても触れている。
私も何かの考えをまとめようとするときに、思っていることを誰かに話したり、図示したりして手を動かすようにしている。その効能というか、そうした「コミュニケーション」の形は、私の独りよがりではなくて、自分の頭をより効率よく使っていい成果を生み出すための手法として位置づいているのかもしれないと思った。

冒頭にも書いたが、私にとって「傑作」だった。読後感も最高で、また日を改めて目を通そうかと思う。