2019年1月26日土曜日

働くことコラム02:資格とは

 職業訓練を通じて就職を目指すことをイメージしている人に、
 Q「職業訓練でどんなことを学びたいですか?」
 と質問すると、その多くから、
 A「資格をとって就職したいです。」
 との回答が聞かれた。
 Q「どんな資格?」
 A「就職に役立つパソコン系の・・・」
 といったやりとりである。
 求人の数で多いのが事務系だから、事務系での就職をイメージして、これまで勉強したことがないからパソコンスキルを身につけ、資格欄に書ける資格取得のための勉強をする。勉強意欲そのものを批判するつもりはないが、現状認識が間違っていると思ってきたし、ある期を境にこのことは直接語ってきた。
 私が考えていることは、大体以下の通りである。
(1)資格には2種類ある。自分の実力を証明するものと、専門職に就くための切符になるもの。
(2)資格取得だけでは就職活動を勝ち抜けない。
(3)事務職=パソコンで仕事するわけではない。
 もう少し補足すると、まず、資格そのものの位置づけが「就職できるもの」ではない(1)(2)。百歩譲って「就職に有利になる」ものにはなりうるし、世の中にはある特定の職種について、その基礎資格がなければそもそも就職できないというものがある。例えば、学校教員であれば教員免許が必要だし、福祉専門職なら社会福祉士や精神保健福祉士が必須という職場がある。そういう類の資格であったとしても、資格は「自分の実力を証明するもの」であり、勉強の成果を証明するものである。資格の種類や就職先の業務内容によって、就職が有利になる可能性はあるが、資格取得をもって就職できるとは期待しない方がいい。
 もう一つ加えておくと、特にパソコンに関する資格(様々であるが、MOSやパソコン検定などをイメージ)について、資格を有していることが事務職の就職活動に与える影響は大きくないことである(3)。わかりやすく言えば、事務職に就きたいならパソコン以外のことをちゃんとやらなきゃいけませんよ、ということである。前回の「生活リズム」はいうまでもなく基盤になる。事務職で求められることは、ルーチン作業は正確に素早く処理できること、他の人の仕事の指示の意図をくみ取って正確に作業できること、次々と持ち込まれる作業指示を自分なりに整理して漏れなく・間違いなく行うことができる、といったどちらかというと理解力や遂行機能を発揮する業務といえる。その仕事を助けるという意味ではパソコンは大きな武器であるが、必須スキルかと問われると一部の職場をのぞいては「そうでもないよね」と言うのが多くの職業人の認識であろう。現場第一線で活躍している人の中に、パソコンの資格を持っている人もいるけれど、それよりも必要なスキルを必要な時に身に着けている人がほとんどだろう。
 若い人の親御さんが「パソコンの資格があれば事務系で就職できる」と思いこんで、子どもに吹き込んでその気にさせてしまっていることが目立った。はっきり言って百害あって一理もないし、それにとらわれて他の人の助言が聞こえなくなってしまっている人もいた。間違った情報をあたかも正しい情報であると信じ込んで、検討違いの努力に時間を費やすことになってしまったことの責任はどこにあるのか。一義的には本人であるが、それを行動にまで落とし込んで修正しない大人にも責任はあるんじゃないか?
 職業訓練に関わっていた頃、私は事務系訓練の指導員の先生方に
 「Wordの資格要らんから、Excelだけやって、後はビジネススキルとか簿記の訓練やってよ」
 と提案したことがある。回答は様々で、よく協議して一部のプログラムを修正してくれた先生はいたが、大体は、
 「Wordから入った方が進めやすいんだよ」
 「何か見える成果(資格)がないと」
といった理由で、数ヶ月かけてWordやるんだよね。就職直結しない資格だって、みんな肌感覚ではわかっているはずなのに・・・
 前回と同じ事例ですが、個人的に就職の応援をした40代後半女性は、経理関係の職業訓練を受けて、簿記2級は不合格でした。それでも、就職は決めて働きはじめています。資格の有無じゃないっていうことの一つの証明になるような気がしますけれども、どうでしょうか。