2008年7月1日火曜日

SETシステム(ジェロルド・J・クライスマン他著、星野仁彦監『境界性人格障害のすべて』ヴォイス、2004年。より)

「SETシステム」とは、境界性人格障害(BPD)の人たちの、根本的な不安に応えつつ、真意の伝わらなかったメッセージを伝達する手段として、セントルイス総合治療センターのスタッフが開発したもの。
支持・共感・真実を合わせて伝えることにより、BPDの人と関わる人が真に伝えたいことを効果的に伝え、当該障害を持つ人に事実を理解させ、具体的な目標行動を本人納得の上で考えさせるもの。

SETシステムは以下の3つを抱合する。
1.支持 Support
相手を気遣う、個人的な気持ちを表明する。この時重要なのは、あくまで「話し手自身の気持ち」として相手を気遣っていることを伝えなければならない。
例えば、「あなたが、どんな気持ちでいるか、とても心配しています」などとなる。
この「支持」が伝わらない場合は、BPDの人は「自分を心配していない」「避けられている」と感じ、相手を非難する行動に出る。
具体的には「大切にしてくれない」とか「自分を傷つけようとしている」などと周囲にもらすことも少なくない。

2.共感 Empathy
BPDの人の、混乱した気持ちを受け止める姿勢を表明する。
例えば、「どんなに辛いことでしょう」となる。
重要なのは、同情(×「かわいそうに…」、主観的に相手を評価していることになる)ではないことと、話し手への感情を抑え「中立的」であること(×「どんなに辛いか、よくわかります」、見下すような印象を与えてしまう)。
この「共感」が伝わらない場合は、BPDの人は「理解してくれていない人の話は取り合わない」という態度となる。
「あなたに私の気持ちはわからない」という結論に達し、理解されていないので、コミュニケーションを拒否することを正当化する行動となる。

3.真実 Truth
今そこにある問題を認識し、その解決に向けて具体的に何がなされるべきか述べること。
その時には、話し手がBPDの人の行動によって強いられる対応について、主観を交えず、客観的な姿勢で、事実に即して伝える。
最終的な責任は本人しかとれないことや、他の人が肩代わりすることができないことが前提となる。
「それで、どうしようと考えているの?」という働きかけとなる。
現実との因果関係の認識を、無視しているか退けている彼らにとって、最も受け入れがたいのが、この「真実」といえる。


BPDの人の根本的な不安は、「恐ろしい孤立感」「誤解されているという感覚」「圧倒的な無力感」といったもので代表される。
これらにより、「相手を受け付けない」「激しく混乱した力」がそこに現れる。
それらに直面する周囲の人は「穏やかに道理を説明できない」ため、怒りの爆発や衝動的な破壊行為、自傷の脅し・ふるまい、自分を最優先してほしい理不尽な要求、などに直面することになる。

BPDの人は多くの場合、相手の容認を自分にとって最も都合のいいかたちで解釈する。
自分が本来とるべき責任を、相手が引き受けてくれる証や、自分の考え方・感じ方が全面的に受け入れられて支持されている、というような感覚を基に「相手に融合」しようとする。
その相手が、要求に応えられるうちは、表面的には信頼関係が成立しているように見えるのだが、それは結局相手との距離感がつかめておらず「融合」している状態が、心地よく見えているだけなのかもしれない。

よって、BPDの人たちの根本的な不安に応え、感情の激しい炎を鎮め、いっそう深刻な軋轢に「メルトダウン」するのを防ぐために、「SETシステム」は開発された。



(勉強メモ)