2007年11月16日金曜日

デボラ・R・ベッカー、ロバート・E・ドレイク著、堀宏隆、他訳、大島巌、他監訳『精神障害をもつ人たちの ワーキングライフ』金剛出版、2004年。(7)-2、96ページまで。

■プログラムの実施と準備
○支援の基本的哲学
<働くことがクライアントの「治療の一部」である>
 治療・援助とリハビリテーションの基本的哲学(≒ミッション)として理解する必要がある
 働くことは、重度精神障害をもつ人たちが「患者という弱い立場」という役割から脱し、地域社会で通常の成人の役割を獲得することを可能にする一つの方法であるということを、支援者のミッションとして確認することが重要といえる。

<就労が、援助とリカバリー過程の中心的要素となる>
 導入は慎重に。理由は以下の通り。(「リカバリー」※読書メモ(2)参照)
1)新しい方式を取り入れることは、関係者が正しいと思っていたことを否定する側面もある
2)関係者の働き方や自分の仕事に関する考え方が変化するかもしれない
3)従来からの実践家は、職業訓練など十分な準備が必要であると信じているかもしれない。そうなると、迅速な求職活動の強調は信じがたいことになりかねない
4)ケースマネージャーによっては、クライアントの生活全般に安定感を築く手助けをする仕事、社会保障給付金を得ることやデイケアプログラムの作成まで、に力を注いでいた可能性がある
5)クライアントの生活を「変化」させる働きかけや、生活の複雑さを増すようなプログラムに不安を覚えるかもしれない

<実践ガイドライン>
1)精神保健援助と就労支援サービスの統合
2)クライアントが地域において、できるだけ早く、最低限、最低賃金を得られる、自分の好みと技能にあった職業を探すことができるよう支援する
3)長期的なサポートを提供すること
これらの基本的な概念的枠組みに対する、共通の理解をもたなければ、クライアントの利益に影響を及ぼすことになる
(精神保健援助チームの事務所と、就労支援スペシャリストの事務所は近いほうがいい)

○他のプログラムへの影響
・IPSプログラムに参加したクライアントの大部分は一般就労し、除々に就労時間を長くし、精神保健機関で過ごす時間が少なくなる
 従来のデイケアプログラムの利用は徐々に減少する。場合によっては、日中プログラムではなく、勤務時間後の夜間プログラムが必要になるかもしれない。

(○スタッフの研修)
・精神保健機関の訪問は、2~3日の期間で。内容は以下のものが望ましい
1)IPS就労支援スペシャリストの定例グループスーパービジョン・ミーティングへの参加
2)援助付き雇用に関与している精神科医に会い、援助プロセスにおける精神科医の役割についての説明を受けること
3)1~2人のケースマネージャーに会い、その役割について話を聞くこと
4)クライアントに会う、求職活動を行う、事業主に連絡を取るなど、地域で活動する就労支援スペシャリストに同行する

○スタッフの役割
<IPSコーディネーター>
就労支援スペシャリストの業務をスーパーバイズし、クライアントの紹介を扱う
・ミーティングの開催(2回/週)
-クライアントについて話し合い、SEをスーパーバイズするもの
1)嬉しいこと報告
 小さくても、達成感をスペシャリストに抱かせる
2)クライアントに関して直面している課題
 最新支援プランを説明、問題解決の戦略を立てる、次回検討
3)クライアントの紹介
 収集した情報を提示し、担当を決める
-職場開拓について話し合われるもの
1)就労の手がかりについて情報共有する
2)データーベースをチェックし、事業主ネットワークリストを作成
 ネットワークの構築は、クライアントの雇用機会を創り出す効果的な方法といえる

・スーパービジョン、研修
-IPSコーディネーターは以下の点に留意し、スペシャリストを観察する
1)事業主に対しプロ意識をもって対応しているか
2)可能性のある労働者としてクライアントを自信をもって紹介しているか
3)事業主のニーズを見極めているか
4)精神保健援助チームの他のメンバーとどのように連携しているか

こうした業務を遂行するために、IPSの運営と全体目標を完全に理解していることが大切である。重要なのは、IPSコーディネーターが、援助付き雇用は一般就労するクライアントを支援するための最善の方法であると確信していること。