2023年1月9日月曜日

原田ひ香『三千円の使い方』中公文庫、2021年。(初版は2018年版)

 今年(2022年)の初め頃、書店で平積みになっていた文庫小説。4人の女性にまつわるお金の話、短編小説の形式だがそれぞれの話が最後にまとまっていく。読み物としては、シンプルに面白い。

 身内の4人が、それぞれのライフステージでお金について考える。終活?夫の定年後?子育て中?結婚相手?。どの話も、いわゆる「普通の」家庭でどこにでもありうる内容である。だからといって地味な話なのか?というと、地味ではあるが、ぐいぐいと読ませる内容である。自分の生活に重ねるところがあるからなのか、イメージがしやすいからなのか。そういうことを考えていると「日常を描くことの難しさ」みたいなことが意識の中に立ち上がってきて、著者の表現力の豊かさに気づかされる。著者の世界観に引き込まれている、という感覚ではなくて、自分の生活にいつの間にか「いる」ような感覚である。ファンタジーを読んでいる時には絶対に感じられない感覚なのだろうが、とはいえ、自分の中に確かに入ってくる感覚が大変新鮮である。

 「お金」≒生活費という共通点はありながら、背景も悩みも異なる4人が、それぞれの立場で悩んで、悩んで、それなりの着地点を見いだしていく。決して正答とは言い切れないが、とりあえず納得して過ごしていく。言ってみたら、人の生活なんてのは、そういうことの繰り返しなのかもしれない。そう思わせる生活像を描ききる著者の力量に、素直に脱帽です。

■以下引用

337 お金や節約は、人が幸せになるためのもの。それが目的になったらいけない。

347 (略)「他人は他人、自分は自分」なんてことは誰にだって耳にタコなのです。それでも心の粟立ちを抑え込めないのが人間なのです。