2023年1月9日月曜日

久保田弘信『世界のいまを伝えたい』汐文社、2019年。

 図書館シリーズ。最近はティーン向けの読み物に手を出している。理由は、読みやすく、2時間かからずに読めて、内容が凝縮されているから。

 久保田氏は9・11前後のアフガニスタン、イラク北部でのIS掃討作戦など、戦闘地域を現地側から取材していた、フォトジャーナリスト(戦場カメラマン)。ひょっとしたら、何かの折にメディアで見たことがある人かもしれない。本当にすごいことをやっている人だと思う。とはいえ、時々聞かれる「危険を顧みない人」「好んで危険を選んでいる」といった印象は受けない。題名にあるように、純粋に「世界のいま」を伝えることにこだわりこだわりこだわり抜いて行動している人のように思う。

 難民の暮らしや、難民キャンプの様子、国外避難している人の現状や戦争下で生活を余儀なくされる人たちの姿を、カメラにおさめる。久保田氏の仕事を言葉にすると、こういうことだが、その写真が語る世界は、私にはどうやっても見えない世界の姿が写っている。その写真がすべてではないが、少なくとも私の世界の範囲の外にある世界を切り取って教えてくれる。フォトジャーナリストの仕事ってそういうものだと思う。もちろん、いろんな人がいるわけだから、何らかの意図をもって被写体にカメラを向ける。その意図が、私のイメージと全く違う人がいるかもしれない。ひょっとしたら、久保田氏もそういう人かもしれない。世の中には往々にして、そういうことがある。とはいえ、私にとって言葉にできない「何か」があった一冊であることは、自分の感覚に照らして事実である。だから、それでいいと思う。私の世界を広げようとしてくれた一冊に感謝である。

 難民にも、戦争に参加する兵士にも笑顔がある。悲しい姿だけではない。そういう「人」を撮り続けるのだろう。ジャーナリストのプライドをもった人のように思った。

■引用

103 ジャーナリストの使命は、光が当たっていないところへ光を当てることだと思う。

140 撮影の技術があり、根性もあって、現地へ行くことができても、それだけではジャーナリストになれない。ジャーナリストとしてのいちばんの資質は、「この人に話を聞いてもらいたい」、「この人になら写真を撮らせてもいい」、「この人に託したい」と、相手に思ってもらえることだ