2023年1月9日月曜日

山崎史郎『人口戦略法案 -人口減少を止める方策はあるのか』日経BP、2021年。

 職場で共有されていた、何かのセミナーの動画を視聴したときに、その講師だった山崎氏の近著。2022年夏の時点では、内閣官房参与(社会保障、人口問題)及び全世代型社会保障構築本部総括事務局長となっている。元々厚生労働省(旧厚生省)に籍があった方。そのセミナーは、人口減少問題を取り上げたもので、残念ながら視聴期間が超過してしまったのだが、その内容が本著を基にしたものだと言われていたので、手に取った一冊。その分量に驚くものの、内容はまるで実際の資料を基にした講義を受けているかのような錯覚に陥るような書きぶりで、重厚な内容でありながら、小説仕立ての大変読みやすいもの。

 現在の私の立場、守備範囲を拡張して視野を広げて読んだときには、労働政策と子育て政策とは(厳密には)別物で、これまで労働政策として取り上げてきた育児休業(と給付)制度とは別の「普遍的な子育て制度」の創設あるいは再検討が望まれている、ことが推測される。働いている「から」使える育児休業制度だけでなく、「子育てをするための」育児制度が必要といえる。子ども・子育てを考える上で、労働政策はその対象の一部しか補足できない、というパラダイム転換が必要だとする論点が、大変印象的だった。

 社会保障の観点から、出産支援制度の充実、保育を含めた子育て支援制度の充実に留まらず、日本の世帯特性を踏まえた結婚(出会い)支援への広がり、ライフプランの見直し、人口問題として一段視野を広げたときに三本柱として取り上げられる地方創生と移民政策。前半の出産・子育ては今の私の立場ど真ん中の内容だが、地方創生(乱暴に言えば、「東京からの転出を増やす、東京への流入を減らす一連の取り組み)の意味や取り組みの本質に触れられていたり、議論百出の移民政策が関わってくる。こうしたことを踏まえた「一億社会」であって、決して出生数を増やすことだけが人口政策ではないことがよくわかる内容である。中央省庁の仕事とその背景、地方公共団体との関わり、国会対策と、小説としての内容も負けておらず、静かな感動がある。

 これだけ広範な内容を、データに裏付けて説明する技法は、公務員の大先輩として学ぶことばかりであるが、それを小説として、勉強会等での報告、という形で話し言葉で描く手法は、これからの書籍のあり方にも一石を投じる内容とも思われる。論文調ではなく、面白おかしい物語ではなく、その間を高次元で表現する技法にも素直に感心させられた一冊といえる。行政(自治体)には、くだらない人間関係はあるが、静かな大きい感動もある、ということが伝わってくる良著といえる。