2008年11月3日月曜日

精神保健福祉論レポート(3)

テーマ:精神衛生法から精神保健福祉法の2005年までの法改正経過をふまえ、それぞれの意義と主なポイントについて述べなさい


1.はじめに
 精神障害を有する者に対する処遇に関する、この100数年の法改正を概観すると、彼らを社会から隔離・収容(自宅や病院)する社会防衛思想に基づいていたものが、地域生活を目指すものへと変化してきたことがわかる。
 本稿では、精神衛生法制定から現在までの法改正を取り上げ、それぞれの意義をまとめ、上記変化について整理する。

2.法改正とそれぞれのポイント
(1)精神衛生法制定(1950年)
 欧米からの最新の知識を導入し、公衆衛生の向上・増進を目的として成立した。しかし、精神障害を有する者を「社会生活を破壊する危険性のある者」とし、従来の私宅監置を、精神病院に収容する手続きを定めた法律と評価されている。ポイントは以下の通り。
①私宅監置の廃止
②措置入院と同意入院(現在の医療保護入院)を新設
③精神衛生鑑定医の設置

(2)精神衛生法改正(1965年)
 欧米で「脱施設化」運動が起こり、ケアマネジメントの手法が注目されるようになったことを受け、日本でも「地域ケア」が検討されていた。しかし、駐日アメリカ大使が、精神分裂病の診断を受けていた19歳の少年に刺され(1964年のライシャワー事件)、政治的対応も含め、精神障害を有する者が再び「市民的秩序を破壊する危険性を持つ者」とされる。こうした背景の中、精神衛生法は改正された。ポイントは以下の通り。
①保健所を第一線相談機関とし、精神障害を有する在宅者の訪問指導・相談事業を強化
②精神衛生センターを都道府県に設置
③通院医療費公費負担制度を新設
改正の結果、同法は治安的要素が強くなり、警察による精神障害を持つ者への取り締まりが強化されることになる。

(3)精神保健法成立(1987年)
 入院患者は増加の一途をたどる。この期間中、複数の精神病院における実態や事件が報道される。その中でも、宇都宮病院事件(1984年)は、国内だけでなく海外でも日本の精神医療現場の問題として取り上げられる。こうした国際的批判を背景に精神保健法は成立した。ポイントは以下の通り。
①任意入院制度の新設
②人権擁護制度の新設(退院・処遇改善請求および、精神医療審査会の設置)
③社会復帰施設の法定化
 任意入院は、後に入院形態の主流となる。ただし、「精神障害者」の定義や、保護義務者の負担については先送りされた。

(4)精神保健法改正(1993年)
 精神保健法成立後、国内では障害者対策に関する長期計画が打ち出され、国際的には国連原則が採択される。こうした背景と見直し規定により法改正される。ポイントは以下の通り。
①大都市特例(1996年から)
②医療・福祉・行政の連携と協力に関する義務規定
③保護義務者の名称を「保護者」に改めた(実態はほとんどかわらない)
④精神障害者社会復帰促進センターの創設

(5)精神保健及び、精神障害者福祉に関する法律(以下「精神保健福祉法」)(1995年)
 精神保健法改正後、障害者基本法が成立し、精神障害者が障害者施策の対象として位置づく。また、保健所法も地域保健法へと改正され、精神障害の発症から社会復帰まで、一貫したサービスの提供を保健所が担うことになった。また、当時入院患者数の増加も指摘されていた(約33万人)。
 これらの背景を受け、精神保健法が改正され精神保健福祉法が成立した。ポイントは以下の通り。
①目的に、精神障害者の自立と社会経済活動への参加の促進が加わる
②精神障害者保健福祉手帳が創設
③精神病院への指定医必置
④社会復帰施設の追加(福祉工場、福祉ホーム)
⑤精神障害者社会適応訓練事業の法定化
 ①により、社会参加の視点が目的に加わり、それに基づく法整備であるといえる。

(6)精神保健福祉法改正(1999年、2002年、2005年)
 精神保健福祉法成立後、「障害者プラン」が打ち出され、精神障害者に関わる施策は医療から福祉へと切り替わっていく。これらの背景、これまでの課題への対応、および構造改革の流れを受け、1999年に精神保健福祉法は改正される。ポイントは以下の通り。
①保護者の義務の緩和
②市町村が福祉サービスに関する相談を実施する
③ホームヘルプ、ショートステイが在宅福祉事業に位置づく
 居宅生活支援が制度の中に位置づき、地域における在宅福祉施策が展開されるようになった。
 2002年には、市町村保健福祉業務の開始に伴い法改正された。
 2004年に、「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」が打ち出される。精神障害者に関する課題は「精神保健福祉の改革ビジョン」に基づき取り組むとされた。こうした流れの中、2005年に障害者自立支援法が制定された。それに伴い、精神保健福祉法も改正される。ポイントは、障害者自立支援法への統合(通院医療費公費負担制度や社会復帰施設に関する事項)である。

3.まとめ
 以上から、冒頭で述べた、精神障害を有する者に対する処遇の変化がわかる。
 本稿では、精神障害を有する者の支援に関する法律を概観してきたが、障害者福祉全体の流れがこれと同様、地域生活を支える視点へと変化しつつあるといえる。法律の変化だけでなく、その根底にある「住民参加と協働に基づくサポートネットワークの形成による共生社会の実現」を見据えた取り組みが必要となるといえる。
平素から、障害を有する方への支援をしつつ、こうした大局を見据える姿勢を忘れないようにしたい。




(勉強メモ)
※なお、本投稿データをコピーしてレポート課題としないでください