2008年11月3日月曜日

精神保健福祉援助技術各論(2)

テーマ:ケアマネジメント過程をまとめ、考察せよ


1.はじめに
 「ケアマネジメント」は、1960年代に欧米で勧められた脱施設化によって新たに発生した問題(退院した患者がホームレスになってしまう、または症状が悪化して再入院となる、など)を解決する手段として体系化された。定義する人により、ニュアンスに多少の違いはあるが、その意味するところは「従来の支援を超え、地域をベースに、利用者の生活ニーズを起点として、その充足のために必要なあらゆる社会資源を調整し、組み合わせて、その人らしい地域生活ができるように調整する新たな支援技法」といえる。
 本稿では、ケアマネジメント過程を7段階に分け、それぞれの要点を整理した上で、精神保健福祉士が目指すべきケアマネジメントについて、私自身の体験を交えて考察する。

2.ケアマネジメントの段階とそれぞれの要点
(1)インテーク(受理面接)
 ケアマネジメントの導入を判断する。主に初回面接のことを指す。クライアントの主訴を把握し、問題解決のための大枠を見立てる。
 具体的な支援には至っていない段階であるが、今後の支援を円滑に実施するためにも、クライアントのとの信頼関係を築くことが重要である。
(2)アセスメント(ニーズの把握と評価)
 様々な手法により、クライアントの生活ニーズの把握と、当該クライアントの状況からニーズ充足の方法や利用可能な社会資源の検討を実施する。
 ここで重要となるのが、「できる」「できない」に留まらず、クラアントやその置かれた環境の持つストレングスに注目しつつ、広く全体を評価することである。クライアントの生活領域毎のニーズそれぞれについて、セルフケア能力だけでなく、社会資源の利用・対応状況も含め、全体としてどんな状況なのかということを評価する必要がある。
(3)プランニング(ケア計画の作成)
 これまでの過程で得られた情報に基づき、クライアントのニーズを充足させるための目標を設定し、利用する社会資源やサービス、それぞれの役割分担や責任の所在、取り組みの期間を調整・確認する。
 目標は一つに絞り込むのではなく、ケアマネジメントによって実現が不可能としても、それがクライアントの真のニーズであるならば「大目標」としておき、大目標に近づくための現実的かつケアマネジメントによって対応可能な目標を設定する。その現時的な目標を達成するために、当面取り組むことを「小目標」として設定し、それに基づき具体的な計画を作成する。
(4)介入(ケア計画の実施)
 プランニングで作成した計画に沿って、クライアントとその周辺の環境に対し、直接・間接に支援を意図的に実施していく。直接支援は、クライアント本人のセルフケア能力を向上させるために実施される。例えば、コミュニケーション能力の向上のためのSSTへの参加を促すことがあげられる。間接支援は、クライアントを取り巻く社会資源に対し、その改善や、個々のサービス担当者の役割を明確にするなどして、サービスの適正化を図る調整があげられる。
 直接・間接支援の双方を必要に応じて実施することが重要となる。アセスメントで全体を評価することによってそれは可能となる。課題を本人のセルフケア能力のみに起因させず、社会資源の調整を視野に入れる点がケアマネジメントの特徴であるといえる。
(5)モニタリング(進捗状況の把握と評価)
 支援を実施した後、それらが計画通り進行しているか、支援によって新たな課題が発生していないか等、追跡調査を実施する。
 モニタリングの結果、目標達成のために計画の大幅な変更が必要と判断された場合には、再度アセスメントの段階に戻り修正する。
(6)エバリュエーション(総合評価)
 実施された一連のケアマネジメント支援全体をふりかえる。
 これまでと同様、クライアントのセルフケア能力がどの程度向上したか評価するとともに、クライアントをとりまく社会的な支援ネットワークをどの程度拡充・向上させたかについても適切に評価する必要がある。
(7)ターミネーション(終結)
 エバリュエーションにおいて、これまでのようなケアマネジメント支援が必要でないと判断された場合に、フォローアップ体制を整えて支援終了とする。
 ケアマネジメントは終了するが、ケアは必要に応じ次の段階へ移行するなどの引継ぎを確実に実施する。

3.考察
 以上、ケアマネジメントの段階とそれぞれの要点について概観した。改めて整理すると、困難を抱えた人に対し、何らかの援助活動を実施する場合、ほとんどこれと同じ段階を経て実施していることがわかる。私が普段業務としている雇用支援も例外でない。
 その上で、二つのことを取り上げて本稿を結ぶ。
 一つは、ケアマネジメント支援における「環境」への注目である。もちろん、クライアント自身のセルフケア能力向上は重要である。「その人らしい地域生活ができる」ことを考えた時に、重要なのはクライアントの能力だけでなく、その人を取り巻く資源をいかに活用しその人が能力を発揮できる環境を調整するかという視点が重要となる。例えば、「仕事をしたい」と言ってくるクライアントの主訴が、「安定した収入が欲しい」ということであれば、障害年金の受給も視野に入れるなどの対応が求められるだろう。
 もう一つは、人と関わる上で大切にしたいこととして、ケアマネジメント支援がクライアントの人生をどう方向づけるのかという視点である。課題・問題のある現状へと至った経緯は人それぞれであるが、その解決を通じて、クライアントはどんな人生を描いているのか。プランニングの大目標の設定に通じる部分であるが、そうした大きな目標にどのように近づいていくかという視点があって初めて、クライアントがエンパワメントされ、セルフケア能力も向上していくのだと考えられる。ケアマネジメント支援は、クライアントが置かれている生活上の困難を解決するために実施されるものであるが、その解決は本人の希望する人生に近づくためのものとして取り組むことが求められるのではないだろうか。
 人と関わる以上、その人の今後の人生を視野に入れた計画作成が必要といえる。さらに、全ての人や環境は変化する力(≒可能性)を持っていることを考慮し、ケアマネジメント支援を実施することが、精神保健福祉士が目指すべき支援のあり方であるといえる。



(勉強メモ)
※なお、本投稿をコピーしてレポート課題として提出しないでください