2008年10月5日日曜日

精神科リハビリテーション学2(草稿)

テーマ:「包括的地域生活支援プログラム(ACT事業)と既存のプログラム(訪問看護、ケアマネジメントなど)との違いについて論じなさい」

1.はじめに
 精神障害を持つ人々が、病院や施設で生活するのではなく、地域で生活することを目指す取り組みが注目されている。古くは1970年代に欧米で始まった脱施設の取組みに端を発するが、近年特に注目されているプログラムに「包括的地域支援プログラム Assertive Community Treatment」(以下、「ACT」とする)がある。我が国では2002年から研究事業が開始され、2008年からは民間事業として実施されている。
 本稿では、ACTと既存のプログラムとの違いについて、訪問看護とケアマネジメントを例に論ずる。

2.ACTの概要と支援の視点
 ACTの原則は、以下のようにまとめられる。
(1)支援は精神障害を持つ人が暮らす場所に訪問して実施される
(2)決まったサービスはなく、利用者のニーズに合わせてサービスを形成する
(3)1人の対象者に対し、必要に応じた10人程度の他職種の専門家によるチームでアプローチする
(4)24時間、365日、必要に応じいつでも支援し、危機介入にも対応
(5)支援の対象となるのは主に重度障害者(従来の医療・福祉サービスでは支援困難とされた者)
 さらに、援助理念として、障害を持つ人個人のエンパワメントや自立が強調され、地域生活を維持するための支援が展開される。障害によって生じる「能力障害」は、個人と環境の相互作用で発現するという視点(社会政治モデル)で関わり、支援の対象は障害を持つ個人だけでなく、その個人を取り巻く環境も含む点が特徴といえる。
 具体的なサービス内容を列挙すると、「薬の処方と提供、病気と服薬を自己管理するための支援、個別の支持的療法、危機介入、入院期間中の継続支援、住居サービスに関する支援、日常生活の支援、身体的健康に関する支援、経済的サービスに関する支援、就労支援、家族支援、社会的ネットワークの回復と維持のための支援」等となっている(参考文献1.116ページ)。
既存の支援では対応できなかった重度障害者に対し、いつでも、いつまでも、ニーズに応じた支援を調整・実施する、集中的・包括的な支援モデルの一つとされている。

3.ACTと既存のプログラムとの違い
 本章では、精神障害を持つ人々への従来の地域支援プログラムとして、訪問看護、ケアマネジメントを例に、ACTとの違いをみていく。
(1)訪問看護とACT
 1965年の精神衛生法改正時に法制化された「訪問」は、地域生活支援の方法の一つで、1986年に診療報酬制度に位置づき、「訪問看護・指導」と呼称されるようになった。
 具体的なサービス内容は、先にACTのサービス内容としてあげたものと類似しているが、西尾雅明はACTとの違いを、リハビリテーションの視点と原則から、以下の2点にまとめている(参考文献1.116ページ)。
①訪問看護で直接提供されるサービスの内容は、服薬管理や症状の観察など医学的な対応が主となる医学モデルである
②訪問看護の場合、サービスの質が各機関の裁量にゆだねられる(対象者、ケースロード、時間、頻度)

(2)ケアマネジメントとACT
 イーゼンバーグによると、ケアマネジメントの定義は「さまざまなサービスや資源を調整かつ統合し、利用者および利用者グループの機能の向上を図るように支援すること」とされる(参考文献1.114ページ)。日常生活において困ることを、具体的に支援する生活支援の技法の一つであるが、障害を持つ人々の多様なニーズに応じ、適切な支援を調整・実施する手法である。
 西尾雅明によれば、ACTとの違いは以下の2点である(参考文献1.116ページ)。
①(サービスの)斡旋・調整機能が主となる
②サービス提供に時間枠がある

4.まとめ
 以上、ACTの概要と既存のプログラムとの違いについてまとめた。
 ACTは、既存の支援プログラムを統合し、誰にでも(重度の障害を持つ人)、いつでも、生活の場に訪問して、支援することをプログラム化したものと言える。繰り返しになるが、重要な点はサービスの内容ではなく、クライアントのエンパワメントを促す「社会政治モデル」の視点に立った支援プログラムであることだ。生活上の困難の原因を個人の持つ障害だけに起因するのではなく、制度やサポートの不足といった環境要因をも対象とし、双方に対し積極的にアプローチしていく点が、既存のプログラムとの一番の違いといえる。




(勉強メモ)

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