2022年12月4日日曜日

対談を浴びきった! Voicyフェス 2022

 Voicyフェス2022(10/27-29)に一部参加して、11月はアーカイブを聴きまくり。11月下旬の自宅待機の時にもちまちま聴いて、11月末になって、すべての対談を聞きおわりました。

 対談はすごいボリュームです、そしていろいろな刺激がありました。パーソナリティの一人一人が個性的であるのに加え、対談によって話が深まって展開して更に深まっていくという流れが、それぞれの対談から感じ取ることができます。この3日間+アーカイブ11月分で学んだことは以下の通り。

・自分の価値観だと信じられることは、いわゆる社会の価値観に流される必要はない。特に数的評価指標は、取り扱いに注意すること。数字ばかり見ていても先はない。

・Web3の時代は、個で生きていく時代。組織に所属する・しないではなく、個として生きていく覚悟とその手段に価値がある。

・ツールそのものではなく、その使い方を個の生き方に活用していく発想で経験を蓄積し、視野を広げることが求められる。

・物事の質を追求することと併せて、モノによってはその質をビジネスの視点で広げる発想が求められる。ビジネスが置き去りにされるものは、社会の共有材になり得ない。

・表現されるものの根底には、その人の生き方や、集団の意思が反映される。それらはいわゆる「バズる」とは重なりつつもずれが生じる。ただバズらせればいいというものばかりではない。

・短期間で集中して取り組んで成果を出すことも大切だが、何かを長く、継続することによって成し遂げられることもある。思考を行動に、行動を習慣にするのには、継続することが必要。

・気の持ちようって大事。前向きな気分をつくることで、ポジティブなものが見えるようになる。自分の中に軸を作ることで、他人の批判をうまく受け流せるようになる。

・個人の気分は、自分の思考だけでなく、身を置く場所にも影響を受ける。

・自分にとって、本当に必要なものって何か。それほど必要ないものは手放すことで自分の気落ちが楽になる。


思わずうなった対談のちょっと感想は以下。※あくまで個人的な感想です。●はオンエア中に聴いたもの、■はアーカイブで聴いたもの。★は個人的なおすすめ。一部省略しています。

10/27 StageA

●後藤達也×DJ Nobby 個人経済メディアがくる!

 多様化する時代に、発信側も多様性を意識する。来てもらった人に残ってもらうために求められるのは、人としての品格や信頼感。

●武田双雲×鴨頭嘉人 人を動かすコミュニケーション

 日本を元気にするには、自分が元気になることによってしかない。

●茂木健一郎×ジャルジャル後藤 笑い脳

 舞台に出てきたときに「この人は笑っていいんだ」という感じがあるとウケる。脳科学的には「安全基地があるから、チャレンジできる」いわゆる「安全基地」をどう仕掛けるか。

■茂木健一郎×後藤達也 専門性とネット社会

 世界経済は個人の行動まで影響がある。世の中が変われば、プラットフォームもめまぐるしく変化する。メタバース、音声メディアを含め多様化するツールをどんなターゲットにどう使うか、受け手のリテラシーも問われる。

■西野亮廣×PIVOT佐々木紀彦 時代の転換点の作り方・乗り方

 ブランディング、実績の作り方、見せ方。今後はNFTのウォレットをポートフォリオ化してアピールの材料にするなど。海外でも通用するものと日本でしか通用しないことがある。作品を作るチームの発想。

■渡部陽一×田中慶子 世界の聴き方★

 柔らかい選択肢を自分の中にたくさん持つこと。納得できる自分の環境を作ることになる。通訳は言葉の向こうにあるものを届ける仕事。たくさんの情報を受け取る立場として、「あらゆる情報を選択肢として受け止める」ことが、人生のあらゆる選択の役に立つ。

■渡辺将基×MB 個人の影響力をどう活かすか

 発想の転換も必要だが、とにかく視野を広く保つこと。ただ、拡大によってできることが増えるとは限らない。事業にも適正規模がある。何事にも適切な事業規模がある。基本は個人×個人を大切にすること。

■けんすう×COTEN深井龍之介 人と社会はどこにいく

 歴史は未来予測にはならないが、現代を読み解く膨大な事例集。未来を読み解いた人はいないのに、それでも参考になる、学び続ける人がいる。


10/27 Stage B

■ニシトアキコ×鴨頭嘉人 これからの幸せの必需品

 追うことも、手放すことも、幸せだと思えれば、自分がよければそれでいい。未来が「希望」ならば、今がマルになる。自分の力を超える何か、を知っていると、自分だけの力ではなく、「私たち」の感覚になる。自己否定に感謝はない。

■DJ Nobby×伊藤洋介 日本の政治と経済どうなる?

 若い人にとって政治家が魅力的でない。首長、市議会、県議会には若者が入る余地があるが、国会は今のところ無理。新風に期待を込めてネット民達が票を入れたが、結局なにもやっていない。次は投票そのものがなくなる危険。当選した人たちに使命感が全く見えない。

■ニシトアキコ×朝倉千恵子 自分の魅力の見つけ方

 「人を見て態度を変える」のが好きじゃない。オカマから「あんたみたいな中途半端な女が嫌い」と言われたことをきっかけに、「女性らしい」所作、身のこなしを教えてもらった。男の社会で張り合ってきたが、女性は愛嬌がなければ愛されない。本質は内面、魂の美しさが外面に出てくる。経験を積んで出てくるもの。

●のもきょう×田中慶子 世界を知ると見えること

 正解ありきで自分や社会を見てしまう窮屈さに気づく。語学を学ぶことによって、自分にも、他人にも肝要になれる。なんでもいいや、になれる。世界が広がる。常識が常識でなくなる、境目がぼやける。

●中島侑子×稲垣沙織 私らしく生きる

 理想の自分が「するだろう」判断を積み重ねていくと、理想の自分に近づく。判断基準を自分の中に持つと選択が楽になる。

■箕輪厚介×渡辺将基 猛獣の調理法

 仕事の目的に焦点を当てる。人に好かれる必要はない。迷ったら前に出る。

■佐々木紀彦×猪瀬直樹 社会を変える人を増やすには

 末端が権力を持つことになる。多様な価値が取り込まれないから価値が固まってしまう。

■西野亮廣×けんすう これだから人はおもしろい

 ゼロイチはまず当たらない。今あるコンテンツをうまく利用できる形が望ましい。ダメなものに見切りをつける知恵。

●MB×箕輪厚介 これから来る人おわる人

 数字でバズらせることも大事だが、良いコンテンツをつくりこむことはもっと大事。エンゲージの高い人に長くリピートされるのがストレスのないビジネス。


10/28 Stage A

●阪口ゆうこ×香村薫 私たちは何を目指すのか

 文字は、相手の捉え方・気分によって伝わり方が変わる。相手次第。声は感情が乗せられるからか、影響力は強い。

●香村薫×精神科医Tomy 心の片付け方

 辞める、捨てる、手放すと「楽になる」。生まれてから死ぬまでが「生きている」だけであって、ちょっと良くなればいい。どうでもいい=あるがまま、になると気が楽。

■石田勝紀×デジタルミニマリストあやじま 幸せに必要なこと

 幸せの秘訣。他の人や情報に一喜一憂しない。目に見える評価だけが評価ではない。

●かぜのたみ×まあち これからの暮らしってどうなる?

 がんばらない方が何事もうまくいく。モノを減らして不幸になっている人はいない。

■まあち×ワーママかお 夢の叶え方

 成果がでると、「向いている」とか「才能がある」とか思ってしまいがちだが、膨大な努力や継続して取り組んできた土台がある。とにかく何かを続けること。

■るろうに心理カウンセラー×オノチャンミニマリスト シンプルさって何?

 ミニマリストという生き方。大切なものを見極める。自分にとって、大切と言い切れないモノや習慣、行動を手放すと楽になる。

■朝倉祐介×宇野常寛 インターネット、これからどうなる?★

 Webの世界が、承認の交換増幅装置になってしまっている。自分とモノとの接点を強烈に作っていく、今まで注目されなかった価値観が大事。啓蒙によって価値観をつくる。

■パジ×白木夏子 次の時代の見つけ方

 技術を純粋に理解すると、利用の可能性は未来に広がっている。ブロックチェーンはデータ上に引き継がれるもの。大衆化するものと本質とはズレる。

■企業分析ハック×妄想する決算 忘れられない決算書

 決算書は過去のもの。その企業の安定性は分かる。「儲かる会社」は分からないが、投資で「やってはいけないこと」はわかるようになる。

■川原卓巳×木下斉 これからのブランディング

 日本の価値の適正価格を学ぶこと。世界で言うビジネス感覚と、日本のよさを知ってもらうことは、ズレがある。薄利にしてしまうことに品のなさを感じる。勝ちを褒める土壌は必要。


10/28 Stage B

■くわばたりえ×OURHOME/Emi 今だから言える、暮らしのしくじり

 いろいろやってあげることで、できない子に育ててしまう「しくじり」。自分と異なる価値観から「信じられない」と言われても、自分の中に軸があればショックにならない。

■くわばたりえ×白木夏子 大胆に生きるには

 小さな悩みを自分で大きくしているだけ。あまりにも緊張している人が目の前にいると、一緒に緊張できない。人が集まって、それが安心できる場だと大胆になれる。人に活かされている。チームでやっていく。

●精神科医Tomy×るろうに心理カウンセラー 「今」の受け容れ方

 物事が悪化するのは突然。どうにもできない先のことを考える必要がない。共感と傾聴はほとんど自分でできる。書き出してクリアにすることで整理できる。

●虹色の朝陽×石田勝紀 家族との向き合い方

 あせらない、諦めない。こうしなきゃ、ああしなきゃ、と思わないよう「言い続ける」。日常会話が大事。

■大学教員/スポーツ栄養士ながたか×かぜのたみ 落ち込んだとき、どうする?★

 みんなそれぞれ振れ幅が違う。他者との比較の中で優位性を探すのではなく、自分の状態に思いを巡らすのがいい。理想の自分との比較は奮起のきっかけ。比較「対象」が大事。自分で変えられること、自分ではどうしようもないことの両方があることに気づく。上を見たらきりがない。情報がいくらでも得られる環境で、落ち込むための環境がそろっている。反応するからしんどくなる。

■OURHOME/Emi×川原卓巳 ちょうどいい私らしさとは

 大きくし過ぎない「ちょうどいい」やり方。サイズ感は勝手に超えにくるけど、安易に拡大に走らない。依頼が入りまくる、いい仕事ばかりだと無理しがちだが、適正サイズを意識して捨てていくことが本質かも。

●木下斉×たいろー 社会人これからどう学ぶか

 どうありたいか、もあるが「どうありたくないか」を考える。嫌いなものはそんなに変わらない。やりたくないものをやらずに、軌道修正していく生き方。過剰ラーニングになりかねず、混乱のまま終わることもある。インプットは良質なモノを適量に。

●企業分析ハック×緒方憲太郎 これからVoicyが世界を変えるには

 誰でも発信できること(Web2.0)はいいことだけじゃない。本当にいいコンテンツはユーザーが決める、が成立するのは運営側の思想が浸透しているから。自由の中では、心の弱さがむき出しになる。構成員の質によって結論が変わる。一定の品質保証が保たれている安心感をVoicyでつくる。


10/29 Stage A

■バブリーたまみ×LILY せっかくなので、ぶっちゃけます

 注目を浴びることと、自分が自然でいることとは、一致するわけではない。人間はポジだけでなくネガも存在する。人から批判されること、受け止め方・かわし方はそれぞれ。

■エリサ/ミニマリスト×モンテッソーリ教師あきえ ワクワクの見つけ方

 ワクワクは自分に余白がないと見つけられない。物事を手放したり、整理することで見つかる、挑戦することによって、化学反応のように新しいものが生まれる。

■バブリーたまみ×星渉 シン・自分らしさ★

 「自分に許可を出す」ことが自分らしさ。幸福度は伝染する。自分の敵は大体自分。

■大手町のランダムウォーカー×oishi haru尾石晴 いつまでも学び続けるには

 学ぶには王道を押さえること。必要だから必要なことを学ぶ。自分のタイプを見極める。短期集中の方が効率はいいけれども、長期間継続することで身につくこともある。

■小川奈緒×芳麗 ご機嫌に生きるには

 何をもってご機嫌とするか?不機嫌じゃなきゃいい。ご機嫌の基準を上げすぎると、かえって下がりやすくなってしまう。「ちょうどいい」が大事。言語化できるようになると、俯瞰できるから、解釈を変えることができる。

■竹中平蔵×大河内薫@税理士 お金の教育で社会を変えるには★

 悪人は止められない、善人は味方してくれない。それを突破していく胆力が必要。いつやっても時期尚早。両方から反対されるときは間違っていない。立場によって見え方が違う、物事には両面がある。変えられないことはたくさんあるが、変えられそうなこともたくさんある。

■伊藤洋一×青木真也 死ぬまでにやりたいこと★

 生きていることは存在。存在をつぶしにきたら、徹底的に戦うだけ。相手の存在=大事にしていることは攻めない。尊重。お互いのプライドがルール。

●竹中平蔵×oishi haru尾石晴 次の世代に何を残すか

 開示する。やるべきことも、弱さも。反対勢力を恐れない。自由に生きることを支え続けること。

■大河内薫@税理士×伊藤洋一 私たちで世界を変える★

 社会を変えたい仲間。掟は、人の夢を笑わない。行動は、夢を語る。自治体ハックする。よってたかってトップに届ける。戦う相手は既得権益とそこにしがみついている人。


10/29 Stage B

■ひうらさとる×星渉 知る・届けるの極意

 きちんと届けるには、まっさらな目で見直すこと。脳は「頻繁に起こること=重要」、と認識する。脳は主語を理解しない。ネガティブ表現は自分に跳ね返ってくる。ポジティブ表現で溢れさせると、いいことが見えるようになる。

■LILY×エリサ/ミニマリスト いま私たちにできること★

 自分が管理できる量を超えてしまう苦しさ。苦しさに気づいたから、好き・嫌いで手放していく。強さとは頑固さではなく、透き通った強さ、しなやかさ。

●kagushun@精神科医×かねりん Web3時代をどう生きるか

 Web3は、可能性とともに、今まで以上に人間関係が問われることもある。生き方の選択肢としてのメタバース。新しいことに挑戦する人たちの中で、マウントの取り合いが起こってしまう。

■荒木博行×かほこママ 道に迷えば○○の方へ

 起業(課題解決・ソリューション)には、段階がある。顕在化した課題と、本質に迫る問いとが混在する。時流を読むことも、読まないことも大切。迷わないための、人生の定義。やるべきことを決める。迷う前に続けろ。

■ひうらさとる×荒木博行 今知りたいこと、知るべきこと★

 KPIをどう設定するか?続けることが大切。価値基準を外に求めないようにする。両輪。燃えている人にも左右されず、世の中の「べき」に消されないよう、種火を燃やし続けることが大事。

■Madoka Sawa×プチプラのあや 挫折をどう乗り越えたか★

 自分の挫折を自分で定義して落ち込むのは勝手にどうぞ。他人のことをあれこれ言うのは野暮。できることをやればいい。やれることしかできない。Web3は「個として立つ」世界。ふらふら生きる。どこにも拠っていない。

■たいろー×Madoka Sawa シン・キャリア

 点をつなぐのは意思、自分の意味づけ。挫折を負い目と定義するか、学びと定義するか、これらも自分の意思。「失敗したことがないんですよ。でも、思い通りの結果がでたことはない」という最強の思考。

■青木真也×kagushun@精神科医 戦う心の持ち方

 恐怖は肉体的な怖さではなく、自分の存在が消される怖さ。すべてを出すことが戦う心だと思う。着飾れるから、戦わなくてもいいのが今の世の中。


2022年11月6日日曜日

最近考えること 時代の最先端をいく対談を浴びながら

  先月末に開催されたVoicyFes2022に参加して、今(本日は11/5)でもアーカイブを聴きすすめている。メモをとりながら聴いている対談が多いので、膨大なメモに埋もれているところだ。昨年から何気なく参加しているこのVoicyFesだが、今年は仕事を早く切り上げるなどして参加している。音声配信サイトVoicyのパーソナリティ達が、3日間に渡り対談を繰り広げるというこのイベント。思うところがないわけではないが、基本的には大変刺激的で学び多い、価値観への影響も大きいと思えるイベントである。

 去年も、Webのトレンドや、ライフスタイルに関することに触れる対談はあったが、今年はより広がる深まる対談ばかりである。個別にあげていくとキリはないのだが、現時点で自分なりに集約してみると、

・数値化される価値観、例えばフォロワー数とか再生回数などは、ビジネス視点の立場からは指標として重要といえる。ただ、個人の生き方にとっては検討の余地が大きい。数的評価指標が承認欲求増幅装置となっている雰囲気も見え隠れしているのが現在といえる。

・Web(2.0)において、個人が世界中に向けて発信できる環境が整ったといえる。そこで人間が全体的に賢くなったかというと、そう言っている人はいない。些細なこと、ちょっとしたこと、どうでもいいことにコメントをつけることで、コメントをつけた人の自己満足を満たす(可能性がある)だけであって、対象事象・物とつながって深めていくような使い方ができている事例は「探していかないと見つからない」。

・ビジネス視点と物事の質の視点というのは、関連しながら異なるもの。車の両輪のような関係にある。数的評価指標として見える化される物事は、ビジネス視点の立場で世界を見るヒントにはなる。物事の質の視点というのは文化を作る原動力となるものであって、日本においては「本質を極める」という文脈で語られることがある視点である。現在の日本では、後者に重きを置く動きはあるが、前者(ビジネス)が置き去りにされている。

・Webツールは、人生にも影響を与えるものとして位置付く。ただ、本質を外した使い方ができるものでもあり、むしろ世の中の話題はそういったことに注目を集めていく。いわゆる話題性(バズる)という価値観が増大していく。

といったことを感じ取っている。

 おそらく、自分にとってはいい刺激を一杯受けているのだろう。もちろん、何十人も対談者がいるわけなので、私の価値観には合わない人もいないわけではない。どうにもかみ合わない、と感じる対談があったのも事実。ただ、そういった内容のものであっても、それを一旦自分の中に取り入れることで、価値観がより立体感をもって、世の中の視野が広がるような気がする。チケット代3,800円をどう考えるか、であって、これを高い、と断じるのは簡単だけれども、私にとっては「気に入った対談が3つもあれば元をとれる」と思える内容です。

 気になる方はチェックしてみてください。私は来年も参加予定です。今年の対談も11月中はアーカイブで聴けます。

2022年11月4日金曜日

中川なをみ作、白石ゆか絵『マグノリアの森』あかね書房、2022年。

 図書館シリーズ。小学生高学年~中学生向けの小説は、病院の待ち時間とかで読めてしまうので手軽でよい。『屋根に上る』ですっかり味をしめてしまった。
 幼い頃から気管支が弱く、ぜんそくっぽい症状のある卓(たく)。父親の転勤が中国に決まり、身体のことを考慮して海外へは行かず、田舎で暮らす祖父宅で暮らすことになる。都会から農村への生活の変化、人間関係の変化の中で、自分を見つめて開放していく物語。
 とはいえ、祖父宅で幼い頃からの知り合いアズサとの関わりと、祖父が大切にしている山の花畑に植えられたマグノリアの花々、生活環境の変化に伴う体調の変化から、それぞれが好きなこと、歌うこと、踊ること、踊ってみることを見つめ直し、生活を変えるきっかけにしていく様子を描いた一冊。大変手軽で、表現も平易、穏やかに物語が進行するので、安心感のある物語である。
 文学は、感情描写が背景描写に表れる、と高校の時に習い、そういうものだと思って読んでしまうが、児童文学の一部には、伏線だと思っていた表現がそのまま放置されてしまうかのように読めてしまうことがある。これは単純に背景を切り取って描写していると読めばいいのだろうと、最近になって思えるようになってきた。単純に物語を楽しむことを最近になって思い出している図書館シリーズでした。

かみやとしこ作、かわいちひろ絵『屋根に上る』学研プラス、2021年。

 図書館シリーズ。最近は、次女(小学校2年生)が読めるもの、だけでなく、自分がさらりと読めるもの、も選んでいる。本書は後者。題名もさることながら、表紙のイラストと内容をパラパラ見たところで借りてみた。

 中学生男子のちょっとした人間関係に、祖父と接点のあった高齢男性(田村さん)とその大工仕事が関わってくるお話。思春期手前のもやもや感をそのままに、大人が大人の理屈と子どもたちに寄り添う様子を描いている。ちょっと関わりがとがった感じのある友人一樹とのやりとりを中心に、主人公の思いや田村さんの気遣いが暖かい。

 心があたたまる読み物に触れるようになり、こういうティーンズ向けの小説って、若い時にもっと読んでおけばよかったなぁとも思うようになる。シンプルな言い回しの中に、ちょっとした心の動きが描かれていて、それでいて本当の意味での悪者がでない、どこにでもある日常にちょっとしたドラマがある。ほら、実際の生活は小説より奇なりとも言えるくらい、身近なところにいろんなことがあるだけでなく、いわゆる「普通の生活」にも人は迷うことがあり、合理的でない行動をとる。その背景には、それぞれに様々な思考があるわけで、こうした小説にはそうした「普通の生活の中にある心情」が描かれている。悪者が出てこないので、読んでいて心地いい。

新井紀子『AIvs.教科書が読めない子どもたち』東洋経済新報社、Audiobook版。

 以前、キャッチーな題名と、AIの認知度が高くなってきた背景から、ベストセラーになっていた本。聴取のタイミングと、『僕とアリスの夏物語』の読書時期とが重なったので、相乗効果も手伝っていくつかのことがわかった1冊。

 AIは人間の脳機能とは異なるしくみで機能している、ということを様々な角度から説明している。基本的には、人間の脳が物事の「意味」を理解して出力することができるのに大使、AIは基本的なしくみが数学にあるため、論理・確率・統計が現時点での限界となっている。もちろん、数学的な思考によって現在の枠を超える可能性はあるものの、数学によって記述できないことは、現時点でAIの機能として期待することはできない。特に「意味」の理解と出力については、AIの深層学習によって身につけることは現時点では不可能であると結論づけている。

谷口忠大『僕とアリスの夏物語』岩波書店、2022年。

 Amazonポイントアップセールの時に、後1冊購入したいタイミングでリストの上位にあった1冊。小説とAI解説、というキャッチコピーに「わかりやすいかも」という期待を込めて買った本。新井氏の『AIvs.教科書が読めない子どもたち』とも相まって、自分の中でのAIに関する理解は少し深められたのだと思う。

 物事を「認識する」ということに焦点を当ててみると、人間の脳がいかに多様なものをいかに質的に分類しているのだと気づかされる。質的な分類というのも、A=Bといった単純な結びつきではなくて、その要素を分解し、部分や全体を自在に他の事物と様々な形で意味を持たせて結びつけている。しかしながら、AIの理解というのは、(1)コンピューターの言語に置き換えられる事・モノであること、(2)テキストデータとの結びつけは可能だが背景となる言葉の意味までは把握・理解することはできない、という特徴がある。また、本書後半の物語で表現されるように(3)人間の生活には、論理では(今のところ)表現しきれない矛盾が無数に存在している、という限界がある。

 解説部分は、雑誌記事のような専門的な内容を含みつつも、一般向けに説明を試みている。今まで読んだAI解説の中では、大変わかりやすい内容であった。それを補ったり、発展させたりする意味で、本書の物語の果たす役割は大きい。

 AIに関する理解を深めることと合わせて、人間の認知(機能)の理解を深めるのにも訳に立つ1冊といえる。

瀧本哲史『ミライの授業』講談社、2016年。+Audiobook版

 著者の瀧本哲史(たきもと・てつふみ)氏は、2019年に若くして亡くなられましたが、『僕は君たちに武器を配りたい』がベストセラーになり、注目されるようになったエンジェル投資家、経営コンサルタントで、京都大学で教鞭をとっていたことでも知られています。

 「ミライの授業」といいながら、本論は古今東西有名無名(無名といっても知られていないだけ)の伝記。でもテーマは、今を生きる若者(14歳の中学生に行った講演録、とのこと)に未来を切り開くための知恵を語るもの。

 歴史をひもとくことが、未来を語ることになる。その歴史は、聴く人・読む人にとって人物像だけでなくエピソードが魅力的であることが大切です。古代から現代までの19人を描きつつ、未来を生きる中学生(14歳)に語った講義録です。伝記として取り上げられる人の生き様は、これからを生きる現代人であっても参考になることばかり。参考になるように瀧本氏が見事にデザインした講義を展開しています。

 今年(2022年)もっとも感銘を受けた本といわれたら、この本を挙げます。歴史上の著名人について、その功績の要点を説明しながら、これからの社会を生きる若者に向け、変化の時代を生き抜くためのヒントを示し、その伝記とヒントを結びつけて、自分を見つめ直すことと、一歩踏み出すことを説く講義です。これはライブで聞いた中学生には響く内容なのではないか、と感じるほど、活字で読むのであっても迫力のある内容でした。

2022年9月24日土曜日

思い出したことは美談になりがち

  このBlogは、ビューが5~10件なので何の発信力もないのだけれども。以前から個人的には思うところがあって、最近一言にまとまってきたこと。

「『人生の決断』とか言うけど、そのほとんどは結果であって、自分語りをする時に言葉になるだけのこと。」

「人生の交差点・分岐点は、その時にはわからないこと」

 似たようなことは、カウンセリングの時にいろんな人に言ってきたけど、結局「何かを選ぶ」悩みのほとんどは仮の話であって、同列の選択肢が自分の前に提示されることはほとんどなく、だいたいは「自分の意とは異なる具体的な選択肢と、自分の思い通りになった時の仮の話」を天秤に並べて迷うもの。実際は「具体的な選択肢にのるか/すてるか」ということだけである。

 もう一つ言えば、上のような判断って、日常の延長線上で行われるものであって、その時は意味をもって選択肢が迫ってくるわけではない。といことは、その時の気分や準備の中で何気なく選んだことが、後日・後年思い出した時に「意味づけられる」だけのことである。結局は自分の中のことであって、何度も言うけれども、選択肢が意味を持って迫ってくるということではない、といえる。

 先日、そういえば就職活動やっている時にこんなことがあったなぁ、と仲間と話していた時に「人生の決断ですね」と言われたことに対する違和感から、こんなことを考えました。だって、飲み屋で「ウチにこい、俺が面倒みてやる!」と名刺をくれたのだけど、翌日強烈な二日酔いとその人というよりは背景の不信感が拭い去れず、結局履歴書ださなかった、というだけのことだもん。履歴書出していたら、今所沢にはいないかもしれないのだけれども、どうなっていたか、なんてわかんないじゃん。

 そのエピソードだって、就職活動を思い出して、半ば美談にしていたからそう聞こえたのだろうし、その時だって自分の職歴を「環境活動か/教育活動か」だなんて将来を選んだつもりはない(その後、雇用支援から自治体職員になるなど、想像もしていなかった)わけで。

 だから、楽しいよね。っていうのと、世にはびこる「目標指向を人生に適用する」できるのは、ごくごく一部の人達の営みなのだろうと思うわけです。

林誠『どんな部署でも必ず役立つ 公務員の読み書きそろばん』学陽書房、2020年。

 コロナ陽性(2022年8月:オミクロン株の時期)の症状が軽快し始めた時に、少し頭に負荷をかけようとして選んだ一冊。

 こんな本を書ける人が職場の先輩にいるという心強さと、基礎基本を今一度確認をと思って手に取る。私が中途採用者であることと、前職から今までも含め、どちらかというと「事務職らしくない」仕事ばかりやってきているので、勝手知ったるところでも、窓口や現場に立つことに何の不安もないのだけれども、いわゆる中堅事務職員に求められる技能(の一部)はすっぽ抜けている自覚があるので、こういう基礎基本は本当に心強い読み物だった。

 現代的なスキルとして、統計の読み方や、ファシリテーションに触れているなど、「このままでいい」と思えるようなことも、予算科目のざっくりした読み方(「報酬」か「報償費」かとか「工事請負費」と「修繕費」の違いとか)、何度聞いてもよくわかっていなかった地方交付税の算定式とか(「基準財政需要額」-「基準財政収入額」で求められる。後者はある程度積算可能だが、前者は国の裁量で係数が毎年変わるなど)地方自治体の全体を見通すための言葉が、平易にまとめられており、そんな意味でも心強い一冊。

岡田憲治『政治学者、PTA会長になる』毎日新聞出版、2022、Kindle版。

 本書との出会いは、我が家で購読している『毎日小学生新聞』の広告欄。2020年度にPTA会長に就いていたIyokiyehaさんは、その職を退いた今でもPTA活動には興味がある。とはいえ、今は関わろうとはしない。ありがたいことに個人的には勧誘してもらえるけど。振り返れば、IyokiyehaにとってPTA活動は2勝5敗くらいの感覚で、そのうちの1敗分が「あー、めんどくせ」に変換されてしまったために、おなかいっぱい、になってしまったのが現実。とはいえ、当時からもやもやと頭や心に残っていたものが、すーっと言葉に整理された読後感のある一冊だった。

 考え方や思いは、おそらく私と近いところにあったように読み取れるのだが、その受け止め方や対峙の仕方、そして取り組みは数段階進んでいるようだ。会長の任期が異なる(私は副会長2年、会長1年。著者岡田氏は会長3年)ことも大きな違いだが、役員ポイント制や区市町村P連との関わりなど、似たような問題意識への取り組みと着地点のイメージ、実際の乗り切り方が全く異なっており大変興味深い。PTAは「やるべきもの」ではなく「やったほうがいい、あった方がいいもの」であることや、「多くの人が気軽に学校と関わるしかけ」を持つべきとする根本的なイメージは重なる部分が多い。ただ、それを「自治の課題」と位置づけて、原理原則を確認した上で必要なもの・こと、そうでないもの・ことを分類し、整理していったあたりの経緯は、(おそらくここに描ききれない出来事が細々あったのだろうが)読んでいて小気味良いものだった。参考になった。

 特筆すべきは、役員ポイントでもベルマークでも感じたことだが、集まって雑談することの「ガス抜き機能」を明確化し、自由な活動の中にきちんと位置づけていること。それを正当化するために「挙手制、提案制」のボランティア活動を推奨してたきつけ、本部役員はコンセプトキーパーに徹していること、など、おおよそ私がイメージですら到達しえなかった、ベクトルの先にあるものを具現化している。

 「PTAかくあるべき」ではなく「それぞれ原点に返って、見直したほうがいいんじゃない?」と訴えかけてくるような一連の取り組み記録である。政治学者ならではの分析も鋭いが、専門用語で切り分けていくのではなく、あくまで運動・活動の内面から立ち上がる「感情」を大切に、あくまで活動のためのガイドとなりうる内容にまとまっている。他の論考や記事には「PTAは不要」と断じてしまうようなものもある中にあって、本書の整理は「PTAの役割を再構築」しているものであり、これは、原点に返ることから現在と個別の学校の状況に即した活動があるはずだ、とする主張の書である。

 PTA関係者や子を持つ親に「考えること」を促す、大人の良書といえる。

森島いずみ『ずっと見つめていた』偕成社、2020年。

 図書館シリーズ。ティーンズ向け小説。新刊の棚に並んでいて、装丁が素敵で手に取った一冊。

 妹の化学物質過敏症候群を理由に、埼玉県浦和市から山梨県南アルプス市に転居した一家を描く作品。自然の恵みや人情ばかりでなく、地方のよそ者扱いや都会へのあこがれなども描かれている。小説ではあるが、派手ではなくむしろ普通のありふれた日常を描いており、淡々と心温まる内容になっている。

 浦和のマンションを売って、母親の夢だった地方で食堂を開店する。素晴らしい材料を母親が料理の腕をふるうのだが、地元の親玉のようなおじいさんが「よそ者め!」と言って回るので、近所の他の人もお店を使いづらくなっていく。近所づきあいも少しギクシャクするのだけれども、ある事件がきっかけで・・・という、よくあるお話なのだけれども、一家の人柄がよかったり、近所の人たちも根がいい人達だから、きっかけでカチリと歯車が合えば、コロコロと事態は展開していく。読んでいて、穏やかなのに何かこころが暖まる、そんな読後感のある小説でした。

 願わくは、続編を読んでみたい。

白石優生『タガヤセ!日本 「農水省の白石さん」が農業の魅力教えます(14歳の世渡り術シリーズ』河出書房新社、2022年。

 農林水産省の公式You Tubeチャンネル「BUZZ MAFF」で活躍されている、白石さんが中学生に農業の魅力を語る一冊。これは面白い。

 動画コンテンツは、ながら観ができないのと、コンテンツの質がどうしても玉石あることから、あまり利用しないのだけれども、そんなIyokiyehaにあって、時々再生しているYouTubeチャンネルの一つ「BUZZ MAFF」。農水省の取り組みを、動画コンテンツとして若手官僚が作成し発表する活動で、チームによって差はあれど、公的機関の広報を根本から考えさせられる取り組みといえる。公務員あるあるが絶妙な感じで織り込まれ、手作り感がたまらない。ただ、その内容は奇をてらってモノだけではなく、きちんと国の施策をとりあげており、ありとあらゆる方法を使って、広く伝えようとしている姿勢が見て取れる。Iyokiyehaイチオシのチャンネルである。

 その中心人物の白石氏。農業への興味から、身近な農業、進んだ農業、今の農業について、現状から課題、対策まで、身近でできることを語る。端々に、ちょっとした蘊蓄も盛り込まれ、冷蔵庫やスーパーから農業を考えられる一冊にまとまっている。大人が読んでも本格的な内容で、食料自給率など広い課題にも触れつつ、ただその語り口は14歳向けで大変わかりやすい。言葉選びのセンスはあるのだろうが、それ以上に九州勤務~現在を通じて、相当勉強されているのだろうと察せられる。

 まだ20代、若手官僚でありながら、広い見識とその伝え方は、たとえ農業に興味のない人であってもちょっと気になってしまうレベルで、それは日々のBUZZ MAFFや本書を通じて感じ取れる。とはいえ、彼にはまだまだ語ることがあるだろうし、今後の活躍にもついつい期待してしまう。

kagshun『精神科医kagshunが教えるつらさを手放す方法 幸せになる超ライフハック』KADOKAWA、2022年。

 Voicyで何気なく聴き始め、現在私のプレミアムリスナー枠に収まっている、元世界一周バックパッカーで精神科医による著書。「精神科医のココロに効くラジオ」で語る、人の性格に関する分類や、心の病気の概説を、ウェルビーイング(Well Being)と結びつけて、生活に役立ついろんな知識やアドバイスが書かれている一冊。

 元々私にとってラジオ番組がコツンと響いている人の著書なので、内容はすんなりと入ってくるし、自分が知っていることと、その周辺の+αの知識に加え、「それを生活に活かすための具体的な方法」を理論に基づき説明している。いわゆるよくある「ポジティブ思考」にも似ているのだけれども、ここで一つ視野が広がったことは、「健康を追い求める社会=幸せな社会とは限らない」という言葉。ちょっと振り返れば当たり前のことで、人間易きに流れやすく、私もその例外ではなく、目の前の快楽を優先してしまうことがあるわけです。ただ、それは全部が全部悪いわけではなくて、自分で納得していれば「それもアリ」と思える、「いい/わるい」じゃなくて「幸せ」というもっと先の生き方を意識すれば、目の前の明らかな健康に悪いことでも「その場で結構楽しいもの」は、それはそれで自分の生き方を豊かにする一つになり得る、ということ。「生き方の正解はひとりひとりが決めていい」ということです。当たり前のことだけど、改めて言葉にしてもらえると、きちんと意識できますね。万人におすすめの一冊です。

 音声番組の方では、精神疾患に関してかなり突っ込んだ話題や、逆にゆるゆる軽々な話題まで多彩な話題が満載です。精神科医が一般、それもどちらかというと若者や当事者向けに病気の解説や背景・歴史を説明することがあり、これが大変勉強になります。G氏を褒めちぎっていたり、私の志向とは合わないものを取り上げることもあるので、ズレを感じるところもありますが、それも視野を広げるきっかけになると思えばアリってことで。

鴻上尚史『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』講談社、Audiobook版。

 戦争をモチーフにした作品は、自分なりに違和感をもって読み進めることにしている。なぜか?私が気になるのは、個人内の公と私のせめぎ合いだ。「戦争に参加している、そのときの体験、思考を描き切っているもの、逆に言えば公や世間体といったことに染まり切っていないものに、接することができたと思える機会は、それほど多くない。

 そんな背景の中で本書は、Audiobook.jp内で評判がよかったことと、率直に題名に惹かれた、ということがある。特攻、反抗、という言葉がキーワードになって、自分の目にとまったというのがきっかけだった。

 想像以上の生き様が描かれている、と思った。「特攻兵として9回(くらい)出撃して、生還した」というすさまじい実績を一旦おいておけば、一兵卒として何十機という航空機や船を沈めたわけではなく、小説『永遠のゼロ』で描かれた宮部久蔵ように類い希な操縦技術をもっていたわけでもない。そして、崇高な自己犠牲精神の表れた行動や、国を守るために身を犠牲にするという行動もここでは強調されない。ただ一点、「航空機乗りとしては、一機でも多く敵国船を沈め、失敗しても何度でも沈めに行く」というプライドと、そのプライドを支える「必ず生き残る」という気迫と行動は、この書籍を貫くテーマであり、ある人の「生き様」と言ったときに語られるべき歴史なのだと思った。

 戦争末期にかけて、日本の風潮が「お国のために死んで参ります」を褒め称えるようになってきており、軍隊を描いたものには十中八九「華々しく散ってこい」「お国のために死んでこい」と上官に命じられる様子が描かれる。一部では事実だったのだろうし、こうした側面があったことは否定しない。個人の中にそうした意思が全くないとも思わないし、きっと何かきっかけがなければ、自分を鼓舞することはできないこともあったかもしれない。こういう描写を多く見かける戦時中の読み物にあって、本著(の基となった人物、ササキトモジ氏)の記述内容は、読む(聴く)たびに驚くことの連続である。特攻の不合理さを暗に指摘し、特攻作戦でありながら、爆弾を投下する発想をもった上官、その説得を受けて飛行機を改造した整備士、生還するも他の上官から鋭く徹底的に罵られ、「死んでこい」と言われても言われても、それでも何度も生還する肝のすわり方。何度も続ける内に誰も口にしないが「こいつを死なせてはならない」と援護し続ける直掩機パイロット達、戦没者に名を連ねられ帰国の目処が立たない絶望の淵にあっても彼を励まし続ける仲間達・・・

 ササキ氏のプライドを気迫が周囲の認識と行動を変えていくあたりは、迫力だけでなく感動してしまうようなエピソードであった。個が公を超えて、人間としてあるべき在り方が広がっていったかのような感じがした。

 初めは聞き流すつもりで購入したAudiobookでしたが、その内容のすごさから思わず聴き入ってしまいました。戦争物に抵抗がない人ならば、おすすめの1冊です。

2022年9月20日火曜日

齊藤飛鳥『子ども食堂 かみふうせん』国土社、2018年。

 個人的に「子ども食堂」に対しては、なんとも言えない魅力を感じており、老後の視野の隅に入っていたりする。カミさんには反対されるだろうけど。あこがれから手を出した、というわけではないのだけれども、最近、いわゆる「児童文学」っぽい読み物も気楽に読むようになったので、あの「国土社」さんの出版物(以前、『月刊社会教育』を取り扱っていた出版社)ということや、Amazonセールであと1,000円くらい買いたかったことなど、いくつかの偶然が重なって手に取った一冊。

 八百屋のおかみさん「あーさん」が月2回ではじめてみた子ども食堂「かみふうせん」と、そこに集まる子ども達の物語。両親が突然出て行ってしまった女の子、芸能活動をする妹を持つ男の子、テーブルトークゲームが好きな家族の一人で自称「地味」な女の子、レストランを経営する一家の男の子。みんながちょっとした生きづらさを抱えていて、「かみふうせん」にくることで、生き方の選択肢が増えた、というシンプルな短編集。シンプルでわかりやすい。

 制度面の大人の理屈ではなく、子どもの課題解決事例とも言い難い物語。フィクションなのだろうけど、巻末に参考資料など掲載しているあたり、著者は丁寧に取材しているか、子ども食道の運営に関わっておられるのだろう。特別な物語のように見えて、おそらくこんな事例はあったのだと推察される。見方によっては重大な事件にも見えるし、本人にとっては生活そのもの。事実は小説よりも奇なり Truth is stranger than fiction.と言われますが、まさに、そういうことかもしれない。読み物と見せて、実は身近によくあることなのかもしれない、なんて思いながら読みました。

 とはいえ、こんな風にあーだこーだと考えるのも大人の発想かもしれません。読んでちょっとほっとする、派手なハッピーエンドじゃなくて、地味な一歩前進のお話なんだけれども、こころを暖めたい時にパラパラっと読みたい一冊です。

■引用

80 強いやつと戦う勇気がないのをごまかし、弱いやつをつぶして自分をなぐさめているだけの、絵に描いたような負け犬が、このおれだからだ。