2022年11月4日金曜日

谷口忠大『僕とアリスの夏物語』岩波書店、2022年。

 Amazonポイントアップセールの時に、後1冊購入したいタイミングでリストの上位にあった1冊。小説とAI解説、というキャッチコピーに「わかりやすいかも」という期待を込めて買った本。新井氏の『AIvs.教科書が読めない子どもたち』とも相まって、自分の中でのAIに関する理解は少し深められたのだと思う。

 物事を「認識する」ということに焦点を当ててみると、人間の脳がいかに多様なものをいかに質的に分類しているのだと気づかされる。質的な分類というのも、A=Bといった単純な結びつきではなくて、その要素を分解し、部分や全体を自在に他の事物と様々な形で意味を持たせて結びつけている。しかしながら、AIの理解というのは、(1)コンピューターの言語に置き換えられる事・モノであること、(2)テキストデータとの結びつけは可能だが背景となる言葉の意味までは把握・理解することはできない、という特徴がある。また、本書後半の物語で表現されるように(3)人間の生活には、論理では(今のところ)表現しきれない矛盾が無数に存在している、という限界がある。

 解説部分は、雑誌記事のような専門的な内容を含みつつも、一般向けに説明を試みている。今まで読んだAI解説の中では、大変わかりやすい内容であった。それを補ったり、発展させたりする意味で、本書の物語の果たす役割は大きい。

 AIに関する理解を深めることと合わせて、人間の認知(機能)の理解を深めるのにも訳に立つ1冊といえる。