2019年2月24日日曜日

雄谷良成『ソーシャルイノベーション ー社会福祉法人佛子園が「ごちゃまぜ」で挑む地方創生!』ダイヤモンド社、2018年。

・優良事例を扱うこういった書籍は、私にとって読み方が難しいと感じてしまいます。その事例の特徴や迫力が言葉として伝わってくる一方で、ほとんどの場合その実際のところは「理想」ではなく「現実」であるからだ。
・もちろん、その「理想」が素晴らしい・面白い・インパクトがある、から書籍化され、広く知らせ・知らされるわけだが、その内実となる事例を知っていると、その評価がとたんに揺らぐ。しかしながら、その揺らぎは自分にとっても必要不可欠な「栄養」であるから、難しさを感じても、読み続けている。
・参考にすべきだけれども、全ての事業にはその前提となる条件があり、背景が違うところに安易に事例をはめ込もうとしても大概上手くいかないものである。だから、こういう書籍は知識や視野を広げるために読むものだと考えている。
・この前提のもとで本著を読む。「ソーシャルインクルーシヴ」を地でいく事例だと感じられる。
・言葉に迫力はある。ただ、その素晴らしさだけではなく、「人が人と関わり、役割(を得る)がある」という、いわゆる「自立した」生活を考慮して、施設の設計(ハード面)からも支える構造となっている。この点が本当に面白い。
・制度上、介護保険サービスと障害福祉サービスは別物であり、それらを共存させる発想は、「制度上」想定外なのだろうが、この点に工夫を加え、施設として実現しているところに、この事例の面白さがある。
・この事例の特徴は、制度上「特殊」といえる。しかし、本著のキーワードである「ごちゃまぜ」は、社会にとってごくごく当たり前のことであり、本事例は見る角度を変えれば、いわばある地域に見えない線を引いてその場所を福祉の制度で運営する、だけであるとも見える。社会を上手に縮小(ミニチュア化)する手法については、大変勉強になるものの、そこでの営みは社会の「当たり前」のように感じるところだ。

(以下引用)
44ページ:「三草二木」は、法華経で説かれるたとえ話にちなんでいる。仏の慈悲は育ち方の異なる大小さまざまな草木に降り注ぐ雨のように差別なく平等に注がれていることを指す。
47ページ:(略)社会福祉の仕事で最も重要なのは、障害者や高齢者が自ら役割を見つけ、生きる力を取り戻すことで、サービス提供に自分たちが頑張り過ぎるのは、彼らから力を発揮する機会を奪い逆効果なのではないかと痛感したという。
58ページ:福祉を核とするまちづくりでは、高齢者、障害者、子ども、住民の誰もが地域の支えとなりうる。「三草二木西圓寺」では期せずして地域に人口増加ももたらした。たとえ小さなことでも、住民や高齢者、障害者の声を引き出し、主体性を発揮できる機会や場を設けることが重要だ。
66ページ:「地域に溶け込むというより、さらに踏み込んで、まちづくりそのものを自分たちで手がけるくらいのことをしないと、思うような施設をつくれない」
75ページ:クリストファ・アレグザンダーの『パタン・ランゲージ』:人々が「心地よい」と感じるまちなかの環境をヒューマンスケールで分析して、狭い路地や窓からの眺め、目にとまる植裁など253のパターンを挙げている。
80ページ:医療の世界では、外来医療、入院医療に次ぐ「第三の医療」として、在宅医療が位置づけられている。一方、雄谷は「三草二木西圓寺」で認知症高齢者や重度障害者の症状改善を目の当たりにして、人と人とのつながりのある暮らしが、住民の生きがいややりがいを生み出すだけでなく、介護予防や健康増進、場合によっては要介護状態の改善にも役立つ「第三の医療」になるのではないかと考え(略)
112ページ:ビールの製造を始めたのをきっかけに「酒税」を納めるようになったのである。
115ページ:「障害者福祉」と「ビールづくり」のマッチングに、どうやら「福祉を食い物にしているのではないか」と疑いの目を向けられていたようだ。
152ページ:(認知症)清掃活動などで地域に貢献することで、「介護される側」から地域にとって貴重な「人的資源」となり得ます。そして、そういう仕組みをデザインすることが自分たちの仕事だと思っています。
154ページ:どんな生きづらさを抱えていても、その当事者にこそ、よりよく生きる力が備わっているという信念、人や地域の暮らしを支えるのは福祉だけじゃないという検挙さをもって、領域を超えてそれが発揮される環境をつくっていくうちにソーシャルイノベーターとみなされるようになってきたのは、示唆深いことです。
162ページ:「きれいな人たち」心を磨き、人としての美しさや品格を育てていることを学生が見抜いて(略)