2019年2月17日日曜日

働くことコラム05:採用活動から見た面接 -ニーズの有無

 例えば、あなたが自宅でのんびり過ごしている時に来客があったとします。その人が、

 「はじめまして。ちょっとお宅に上がらせてもらいたいのですが、いいですか?」
 と言ったとしたら、あなたはこの人を自宅に上げますか?お引き取り願いますか?

 もう一問。
 例えば、半年掃除せずに荒れてしまった自宅をあなたが掃除したいと思っている時に来客があったとします。その人が、
 「はじめまして。私は清掃業者の営業です。今閑散期で仕事が欲しいので、格安でお宅の掃除をします。いかがですか?」
 と言ったとしたら、あなたはこの人を自宅に上げますか?お引き取り願いますか?

 単純なニ択にしているので、答えを出しにくいかもしれません。ただ、多くの方は前者より後者の方が抵抗感は少ないと思います。いずれも「自宅には上げない」と回答した人に追加で「もし、どちらかを上げなければならない場合、どちらを選びますか?」という質問にすれば、ほとんどの方は後者を選ぶのではないでしょうか?
 では、その理由はどこにあるのでしょう?
 そんなに難しくないと思います。まずは自宅にいる「自分」が、何かを欲しているか否か。前者は特にニーズがない状況、むしろ来客は迷惑だと思う人もいるでしょう。後者には「部屋を掃除しなきゃ」と思っています。ここには「部屋をきれいにする」等のニーズがあります。
 次に、来客側がどんな人物であるか。前者は初対面だというだけの情報、どこの誰だかわからない。後者はとりあえず清掃を生業にしている(らしい)ことはわかる。世間一般的な「信用」というところで天秤にかければ、後者の方が情報がある(と思われる)分、信用度は高いといえます。
 このように要素を分解して比較することで、(1)自分が欲しているものを提供してくれる、(2)世間一般的な信用が若干高い、ことを理由に、家に上げてもらえる可能性は後者の方が高くなると思います。

 さて、前置きが長くなりましたが、企業の採用活動というのは、この立場を逆に考えることになります。もちろん、ヒューマンリソースの立場からもっと詳細でもっと高度な分析方法がある、ということは理解していますが、実際に労働市場に出た場合、その人の置かれた立場は飛び込み営業のそれと似たところがあります。
 就職活動の現場でいろんな人の話を聞いてきました。
 「私には、専門技能がないから雇ってもらえない」
 「こないだまで働いていて即戦力だから、すぐに採用されるよ」
 「同じ業界長いから大丈夫」
 いろんな意見があります。否定的に「自分は採用されない」と思いこんでいる人の多くは、戦う場所を間違えていることに起因することが多いですし、楽観的に「すぐに採用される」人の多くは、特定企業への就職活動における戦略を考えていないことが多かったです。だから、就職活動がくじ引きみたいになってしまう。就職率や応募者数に翻弄されてしまう。じゃあ、1人の採用枠に自分1人が応募したら必ず採用されるか?といったら、確かに採用されやすいけれども確実とはいえないでしょう。そんなこといったら、早いもの勝ちになってしまう。就職活動の戦略そのものが変わってしまいます。
 大切なのは、当該企業の置かれている状況や背景から、「採用活動はどんな立場で行っているのか」「どんな人を欲しているのか」を感じ取って、就職活動の方針をそれに合わせていくことが必要になってきます。
 例えば、公務員試験は(1)年度採用数が決まっている。「○人程度採用する」ことがあらかじめ決まっている。(2)任用方法は決まっている。(3)自治体にもよるが、基本的に要領がよく協調性のある人を欲している、わけですよね。いわゆる一般企業においては、定期採用か中途採用かで大きく変わります。新卒定期採用ならば、(1)年齢や卒業年の枠が当てはまるか。(2)可能性をどう評価してもらうか。(3)会社が欲している人材像に自分をどう当てはめていくか、といった点が重要ですよね。中途採用の場合は、(1)そもそも雇用「しなければいけない」状況なのか、「してもよい」状況なのか。(2)配置部署やプロジェクトが決まっているのならば、そこに必要な技能を持っているか、(3)新しい環境への適応をどう評価するか、といったところが要点になると思います。この場合の(1)は冒頭の質問のように、ニーズがあるのかないのか、と似たようなイメージですね。

 自宅に上がってもらうか、や、話を聞いてもらえるか、ということはこういったことと関係しているものと考えられます。企業に問い合わせて「求人出しているから」と言われて、訪問できたとしても、とても雇用する意志があるとは思えない企業もたくさんあります。
 一般的に言われていることや、根拠のない助言、過小評価によって戦略なき戦いを挑まないようにすることが、就職活動におけるPDCAになると思います。自己分析と併せて対象分析も怠らないこと。ただし、いずれも100%はありえないので、やるべきことをやってきちんとふりかえることによって精度を高めていくことが求められると思います。