2023年12月10日日曜日

丸山正樹『デフ・ヴォイス -法廷の手話通訳士』文藝文庫、2015年(初出:文藝春秋、2011年)。

  CODA(Children of Deaf Adults)で元警察事務職員の尚人が、手話通訳士として殺人事件に巻き込まれていく小説。久々に小説を読んだことに加え、すっかり「この」世界に没頭した。小説の一気読みなんて、何年ぶりだろう。フィクションでありながらも、それほど明るい話題ではないのだが、落ち着いてじわじわとやってくる迫力と、随所にちりばめられたいわゆる「文化摩擦」とその架け橋となる手話という言語に、改めて意識を向けさせられました。ミステリの要素がいいスパイスになっており、一気に読ませる一冊でした。

■以下引用

97 幼いころから嫌というほど「家族と世間」との間の「通訳」をしてきたのだった。

123 彼ら(デフ・コミュニティを言語的少数者、文化的集団と捉える運動を起こしたアメリカのろう者たち)は、自分たちの集団を「耳が聴こえない」ことによってではなく、言語(手話)と文化を共有することによって成り立つ社会とした。その際、英語で耳の聴こえない人のことを表現するdeafという単語の頭文字を大文字にし、Deafという言葉を、新たに彼らのコミュニティのメンバーを指すものとした。

158 デフ・ヴォイス。生まれついてのろう者は、人前で滅多に「声」を出すことはしない。しかし、家庭内ではその限りではなかった。特に、「聴こえる」子どもを離れたところから呼んだりする場合などには。