2022年6月19日日曜日

斉藤幸平『人新世の「資本論」』集英社、2020年。Audiobook→書籍(集英社新書、2020年)。

  書店でも平積みになっていて、私の勤務先の管理職向けの研修講師に招かれていた接点で、Audiobookを試してみたもの。哲学的なところをもう少し丁寧に読みたいので、書籍に挑戦した。やっぱり斉藤氏は「エコバックと環境配慮を結びつける」ことは気になっているのだろう。身近なことから壮大な思索を展開している。

 世界的に広まったSDGsの取り組みをきっかけとして評価しながらも、その問題点を鋭く指摘し、SDGsを超えた取り組みの必要を説く。

 論考のモチーフとして斉藤氏が立脚するのが、マルクスの思想である。歴史の教科書にも『資本論』は取り上げられて、社会主義の基礎を築いたと教わった(ことしか筆者は覚えていない)のだが、マルクスの思想は資本主義から社会主義への転換を論じただけでなく、特に晩年は「よりよい社会」とか「世界の平和」という安っぽい言葉に象徴されるような、人と社会のあり方について、もっと鋭い思考に至っていたことを数々の資料から取り上げる。この地点までマルクス論を展開した上で、資本論でも登場する「コモン」の内容を詳述し、現代社会に活かす知恵として「脱成長」を掲げている。しかも、その「脱成長」は清貧や懐古主義的、「昔に戻ろう」「不便を受け入れよう」といったものではなく、資本主義のパラダイムとは異なるところに価値を見いだす地点での「脱成長」を論じている。

 「脱成長」「自由」といった、聞き慣れた言葉が、実は資本主義の範疇での思考に留まっていることを思い知らされる論考であり、マルクス理解が(最大で)高校世界史レベルだった私にとっては目からウロコの一冊であった。著名人が高評価している理由もなんとなく感じられただけでなく、哲学者としての一面をもつ斉藤氏が、ここまで平易な表現でこれらの論述を展開していることにも素直に驚いた。

 すべてを数値化してサービスにしない、資本主義の論理にすべてのことを当てはめない、コモンズを意識して資本主義の外にある価値を大切にする。当たり前といえば当たり前なのだが、社会的共通資本、という価値については、再考しつつ深めていきたい。