2009年10月4日日曜日

こうの史代『この世界の片隅に(上・中・下)』双葉社、2008~2009年。

戦争の時代を、豊富な取材と独特な視点で描くこうの氏の最新作。
最前線で生死の境を生き抜く派手さも、身内を戦地に送り出して悲しみにくれる家族の悲壮感もなく、ただ淡々と日常を描き、戦争を知らない世代に、戦時中の日常生活を伝える物語としても新鮮だった。

この時代を生きていないIyokiyehaには、戦争を評価する気も、正当化あるいは卑下する気もない。
ただ、例えば今後日本が戦争に巻き込まれた時、自分が戦線へと向かうことがない限り、戦時下の生活というのは、不安を感じつつも淡々と流れていくのかもしれない。
Iyokiyehaが、こうの氏の漫画に惹かれるのは、「普通」に生きることの困難と、そこにある人間ドラマは完全に個別で、人から評価されなくとも「そこにあり」、その人なりの幸せや生き様というものが見え隠れする、その瞬間を漫画という手法で見事に切り取っているからだと思われる。

このテーマの前作『夕凪の街 桜の国』で感じたものも、これに近いように思う。
http://iyokiyeha.blogspot.com/2008/04/2004.html
(2008年4月13日投稿分)
戦争により、実兄を亡くし、目の前で姪っ子を失い、自身も利き手を爆風で吹き飛ばされながらも、好きな絵を描く。
そして、ささやかだけれども、「普通」で確かな幸せを描く作品だろう。


おすすめ度:★★★★★(好き嫌いあるでしょうが、素直にしみじみしたい方にはおすすめ)