2009年8月4日火曜日

木村秋則『リンゴが教えてくれたこと』日本経済新聞出版社、2009年。

NHKプロフェッショナル仕事の流儀に出演してから、更に注目されるようになった「木村さんのリンゴ」の木村氏による単著。
先日紹介した『奇跡のリンゴ』は取材を重ねて書かれたものだが、今回紹介するのは、木村氏自身の著書。
http://iyokiyeha.blogspot.com/2009/06/2008.html
(2009年6月7日投稿分)

木ばかり見ていては、リンゴの本質はつかめない。
土を作ることによって、初めてリンゴ「が」実をつけてくれる。
リンゴを「育てる」のではなく、リンゴが「育つ」のを手伝うのがリンゴ農家の本質であると、木村氏は語る。

不思議な体験についても語られている。
リンゴの木が実をつけなくなり、お金もなくなってしまい、肥料も薬も買えなくなる。
木が今にも枯れそうになった時に、木村氏は自分の思いを一本一本のリンゴの木に語りかける。
「申し訳ない。枯れないでくれ」
不思議なもので、その時に声をかけなかった(隣の畑に隣接する列の木)木は枯れてしまったのだという。

自然農法に関しても、収入は少なくなっても経費が抑えられることによって、全体の収支は安定するものとしている。
木村氏の、農家に対する、自然に対する姿勢が、様々なエピソードから引き出されている。
率直な、飾り気のない著書といえる。

こうした、いくつかのエピソードから「ずっと見ていること」が大事であるとする。
「自然はものを言わないから、こっちがそれをとらえる感性を磨いていかないと」(154ページ)
としているが、このことは自然でなくとも、社会で人が生きていく上でもとても大切な心構えだと思う。
KYがどうとか言われる世の中にあって、周囲の雰囲気を察することが人間関係を構築する上でことさら重要視されるところであるが、そんな表面的スキルだけではなく、もっと深くて基本的な、人と接する人が持つべき「心構え」だと思う。
良く見る、全体を見る。
常に、自らに問い質すべき姿勢だと思う。


おすすめ度:★★★★★