2023年5月13日土曜日

香取照幸『教養としての社会保障』東洋経済新報社、2017年。(以前Audiobook版聴取歴あり)

  医療、介護、年金、子育て支援、地域福祉、雇用保障など、「社会保障」とは様々な分野で人が生活する上で最低限必要なことを、公的制度として保障するものとして位置づけられています。「国民の『安心』や生活の『安定』を支えるセーフティネットである」と定義づけられるとしています(44頁)。その上で、「現行の社会保障制度の基本的な哲学は、『自助』を基本に『共助』で補完する」(47頁)とする、昭和25年の社会保障制度審議会勧告を引用して、原理原則を説明しています。この文脈に立つと、自助、共助、公助のうち、公助とは生活保護制度のことを指し、冒頭のように、いわゆる「社会保障」と言われた時にイメージできるような諸制度のほとんどは「共助」に該当する、と整理できます。そして、その原則は、国民が経済的・社会的に自立し、自分の生活を支え、自分の健康維持をはかる「自助」が基本にある、ということになります。「自立した人同士がリスクを分散するための制度が共助であり、自助があるから共助があるのであって、自助のない共助はない」(48頁)という一文に、社会保障制度のすべてが集約されているといっても過言ではないように思います。

 本書では、戦後の医療保険の発展から紐解き、年金に関する解説に続き、人口減少社会に関する現状と見通しに触れ、雇用、福祉、介護など各論を展開していきます。いずれも、歴史をきっかけに、現状、そして見通しの解説の上で、「提言」として著者の「こうなるといいな」が論じられています。特徴としては、どの部分を切り取っても、地域生活、社会のデザイン、そして上記で引用した社会保障制度の根幹を考慮して、著者(≠政府)が論じているという点といえます。多分、解説だけなら、中央省庁や学者さんの解説を読んだ方が詳しいのだろうし、提言なら(信頼できる)雑誌・新聞の記事なんかを読んだ方がいいのだろうけど、香取氏が官僚として社会保障にどっぷり浸かった経験が整理され、一般向けに(といっても、少し難しめだけど)まとめられている点が、大きな特徴といえるでしょう。

 制度とは「共助」であるわけですが、だからといって言われたことを何でもやればいいというものではないはず。かといって「自助」が基本とはいえ、その「基本」は社会規範にあったとしても個別事情まで考慮すれば、できる・できないの境界は明確に線引きできるものではない、といえるでしょう。だから社会保障制度は難しくて、だから人の手が必要だ、ということを、改めて確認する機会になりました。行政、社会保障に関わる人にはおすすめの一冊です。