2022年2月6日日曜日

山本弘『アイの物語』KADOKAWA、2015年。Kindle版

  本ブログでは、以前にとりあげた『サーラの冒険』シリーズの著者。SF小説の世界では著名な方らしい。Iyokiyehaは(旧)ソードワールドの世界でお世話になった方。著者検索して何となくkindle版を手にしてみた。いい意味で、期待を大きく裏切られました。

 ヒトと人工知能との関係を、SFではあるのだけれども、ここまで壮大に描いたものを今まで読んだことがなかった。いや、近未来を描いた作品にはいろいろ接しているはずだし、身近なところではドラえもんなんかも、未来世界を描いているという意味では同じ線上にあるのかもしれないのだけれども、ヒトの能力の限界と人工知能の限界と可能性、それらを少し超えたところで通じ合える地点があることを、7つの物語を通じて描いている。表題作「アイの物語 ーA Tale of i」に集約され、伏線がすべて回収されるので、その引用は避けて一カ所とりあげるとすればここかな。

 介護ロボット詩音(しおん)が発した「ヒトを理解するための基本的なモデル」を説明した一節「すべてのヒトは認知症なのです」(中略)「論理的帰結です。ヒトは正しく思考することができません。自分が何をしているのか、何をすべきなのかを、すぐに見失います。事実に反することを事実と思い込みます。他人から間違いを指摘されると攻撃的になります。しばしば被害妄想に陥ります。これらはすべて認知症の症状です」(kindle版No.4139 第6話 詩音が来た日-The Day Shion Came Hereより)

 人間とは、論理的矛盾を常に抱えた生き物である。ただし、それら論理的矛盾がヒトを人間たらしめている、といっても過言ではない。人間の営みは、ゆらぐ思考や行動とともにある、という大きな学びのあった小説でした。