2019年3月17日日曜日

久賀谷亮『世界のエリートがやっている 最高の休息法 ー「脳科学×瞑想」で集中力が高まる』ダイヤモンド社、2016年。

・アメリカで活躍する日本人医師がマインドフルネスに関して、小説形式で描いた本。
・論文というよりは、実践本といえる。小説ではあるが、学術的成果を参考文献として押さえている。英語が読める人ならば、原著にあたってもっと深めることができる構成になっている。
・物語は大変シンプルなサクセス&ハッピーエンドである。ただ、マインドフルネスが視野に入れている社会貢献的な内容に触れられており、ビジネスマンとしての成功の定義にも疑問を投げかける。小説としても面白い。
・マインドフルネスのプログラム(取り組み方)がとてもシンプルなので、取り組みやすく、効果も実感しやすい。
・Iyokiyehaが山梨に住んでいた頃に、「精神(思考・考え方)は身体(内蔵機能や循環器機能を含めた)に影響する」ことを、認知行動療法(CBT)の学習で学んだ。その時に逆(つまり、身体が精神に影響すること)もあり得ると漠然と考えていたことがある。そのことが、マインドフルネスにおいて実証されつつあることを知った本である。
・個人の能力が開放されることにより、社会的意義が生まれることにも触れている。
・個人的には大変可能性のあるプログラムであると思っている。自分で身につけたいし、広めていくことも今後考えていきたい。
・課題としては、宗教っぽさ・うさんくささが付加されてしまいがちな点だろう。語る言葉/説明を持つ必要がある。
・「いま、ここ」という言葉は、理解の度合いや背景の学びによって意味が変化するものだと思うのだけれども、「自分に執着しない」「価値判断・評価を自分の外に出す」「今の自分で頭を満たす」といってキーワードで、実践を伴う理解が必要になるのだと思う。

(以下引用)
1ページ:たいていの人は、「休息=身体を休めること」だと思い込んでいます。(中略)しかし、それだけでは回復しない疲労があります。それが脳の疲れです。
 そう、脳には脳の休め方があるのです。
2ページ:「科学的に脳を癒す方法」が模索されている
4ページ:脳は体重の2%ほどの大きさにもかかわらず、身体が消費する全エネルギーの20%を使う「大食漢」です。さらに、脳の消費エネルギーの大半は、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)という脳回路に使われています。
5ページ:このDMNは、脳の消費エネルギーのなんと60%?80%を占めていると言われています。
6ページ:DMNの活動を抑える脳構造をつくっていかないと、あなたに真の休息は訪れないというわけです。
同:マインドフルネスとは「瞑想などを通じた脳の休息法の総称」です。
9ページ:本書が目指す休息は、ただの「充電」ではありません。なぜなら、脳は変わるからです(これを脳の可塑性と言います)。(中略)あなた自身の脳を変えて、高度な集中力を手に入れることが、「最高の休息法」の真の目的です。
60ページ:マインドフルネスの起源は原始仏教にあると言われている。19世紀ビクトリア朝時代のイギリス人がスリランカを訪れた際、この概念に出会って西洋に持ち帰ったのだという。西洋人が東洋の思想や瞑想法を自分たち用にアレンジしたものだと言えばいいだろうか。そのため、もともとあった宗教性は排除されており、どちらかといえば実用面に比重が置かれている。
61ページ:「評価や判断を加えずに、いまここの経験に対して能動的に注意を向けること」
67ページ:DMNとは、内側前頭前野、後帯状皮質、楔前部(けつぜんぶ)、そして下頭頂小葉などから成る脳回路であり、意識的な活動をしていないときに働く脳のベースライン活動だ。いわば脳のアイドリング状態といったところだろうか。(中略)DMNは「心がさまよっているときに働く回路」として知られている。
71ページ:マインドフルネスは脳の一時的な働き具合だけでなく、脳の構造そのものを変えてしまう
72ページ:脳が絶えず自らを変化させるということ、いわゆる脳の可塑性については以前から明らかになっている。
84ページ:呼吸を意識するのは、いまに注意を向けるためなんじゃ。(中略)脳のすべての疲れやストレスは、過去や未来から生まれる。
87ページ:(前略)毎日続けること。このとき大事なのは同じ時間・同じ場所でやることじゃ。脳は習慣を好むからな。(中略)脳の変化には継続的な働きかけも欠かせんというわけじゃ。
126ページ:マインドフルネスにはだいたい3つの経験段階があると言われておる。初期はいまここに注意を向けることに躍起になる段階。中期は心がさまよったことに気づき、いまここへと注意を向け直せる段階。(中略)そして最終段階が、努力せずともつねに心がいまここにある状態じゃ
127ページ:前頭葉あ人間の理性なのだとすれば、扁桃体は自らの恐怖の対象から守るべく活動する感情ないし本能である。扁桃体は数臆年前の魚類にも存在していたという、脳の中でも最も原始的な部位だ。通常は扁桃体がストレスに過剰反応したときには、前頭葉がそれを抑えるつける格好で鎮静化を図ろうとする。
196ページ:マインドフルネスは身体にも効く。脳の状態を変化させることで、間接的に身体の問題を解決していくというわけじゃからな。
197ページ:脳の状態は、自律神経やホルモンを介して身体に反映される。心と身体はつながっている
229ページ:マインドフルネスは休息法じゃと言ったが、これが癒すのは個人だけではない。拡張していけば、組織や社会をも癒すことができるんじゃ。