2013年1月5日土曜日

伊藤氏貴『奇跡の教室 ーエチ先生と『銀の匙』の子どもたち 伝説の灘校国語教師・橋本武の流儀』小学館文庫、2012年。


2013年の正月に初めて購入し、その日の内に読みきった一冊。灘中学校で長年教鞭をとってきたエチ先生こと橋本武氏の『銀の匙』実践と『銀の匙』授業を受けた卒業生の感想をひきながら著者伊藤氏がこの実践について論じている。
一冊の本(文庫本『銀の匙』)を「自分のもの」になるまで三年間かけて読み込む。気になった「モノ」「こと」を徹底的に深めて掘り下げていくことにこだわり、単に文章を学ぶだけではなく、言葉で表現されていることを体験してみたり(飴をかじってみる、凧を作ってあげてみる、魚へんのついた漢字を探してみる、など)季節や文化、生活に根ざした調べ学習とその種まき、集めた情報を他人と調整しつつ軸をもって編集しアウトプットするという、現代で言うところの総合的な学習の時間、デューイの言う「operation」にあたるような学習活動を戦後間もない墨塗り教科書の時代に行っていたという事実は、今の教育実践だけでなく、生活者としての視点を鍛える意味でも「学習活動」全般に対し大変重要な視野を与えてくれるもののように感じた。
生活が、読書が、勉強が、学問が、実感をともなってつながっていくことは、生活と学びが乖離し知識偏重型と言われるような学習活動とは違い、生活することそのものが学びとなるような、それこそ総合的な学習の時間の本来の目的と合致するような内容であるように思う。
灘校は現在でも東京大学進学者数が多いことで有名だが、このこと自体に意味があるのではなく、人生の選択肢(レパートリー)を増やしていく、可能性を広げていくという教育実践の本来あるべき姿に真摯に取り組んできた(いる)証拠のように思う。
解説付きの『銀の匙』も読んでみようと思う。

・壁を階段にするイメージ
・自由な発想で調べる、広げる、深める、突き詰めていく
・集めた情報や知識をある軸(テーマ)に沿って編集する(注入よりも抽出)アウトプットを重視する
・ポートフォリオ法の原型に近い形式
・「勉強の時間」ではなく、生活そのものが学びの機会であること