2012年8月1日水曜日

甲野善紀、田中聡『身体から革命を起こす』新潮文庫、2011年。

武術を基盤とした身体技法の実践研究家の甲野氏と、フリーランスライターの田中氏の共著。題名からは、甲野氏が様々な分野で提案している身体技法に関する解説本かと思っていたが、本著は身体技法をベースとしながら様々な分野における発展・応用の現状と、それらを束ねたところに見える「革命」の可能性について論じている。
個人の身体技法開発に留まらない考察が非常に興味深い一冊といえる。

私が甲野氏の身体技法について知ったのは、岡山に住んでいた頃なので、5、6年前でした。トレーニングを兼ねて自宅で木刀を振り回していた頃で、どうやったらもっと早く振れるか、どうやったら身体をもっとうまく使うことができるのかという以前からの問いについて「ナンバ」というキーワードが響いた頃でした。
山梨に住んでからは、合気道を始めたこともあって、「身体との対話」ということが自分の中で更に強調された時期でもありました。この頃が自分自身の身体感覚も一番敏感で、目を閉じて間合いを測るとか、倒れそうになるのに合わせて足を前に出す、といった武道の身体動作等に興味が強かったこともありました。

こんな風に「とにかく身体動作」にこだわって甲野氏の著書やナンバに関する書籍を読んでいた時に、自主トレができなくなる3年間を経て、最近また身体との対話を始めたわけですが、この期間に蓄えた知識から、単に身体動作にこだわるだけでなく、身体との対話を通じて「常識を疑う」ことについて実感するようになっていました。

前置きが長くなりましたが、本著で論じられていて、単に身体動作の解説本でないにも関わらず私が感銘を受けたのは、まさにこの点で「身体動作を通じて身体の喜びを実感し、喜びを誰かと共感することにより更なる身体の喜びが広がっていく」ようなイメージが、すでに甲野氏の周辺で起こっていることについて、本著を通じますます興味を持つようになりました。

■以下、核心に触れると思われる部分を抜粋。

「変革は、意志によってではなく、この身体の響きあいから生まれる。」旗振り役は要らず、風にはためく旗そのもののはためきが大切で「はためく動きに、胸騒がされ、みずからのうちにも、はためく動きの響応を聞く。それが出会うということだろう。そうして響きあう身体から、やがて新たな時代の声が生まれる」(136ページ)
「身体感覚の幅が広がれば、そこから生まれる思考の幅も広がる。歩き方が一通りしかないと決めつけることは、思考をも一通りの枠のなかに閉ざしてしまうことになりかねない」(中略)別のやり方、他の分野への活かす等の類推や応用を促すだけでなく、発想が変わる。「身体が変われば思考も変わる。もう一つの歩き方は、たんなる発想のヒントなのではない。別の歩行をする身体が、別の思考をするのである」(205ページ)
「技術というのは、誰にでも同じにできるという発想に立っていて(中略)マニュアル的な発想」「だけど技は、たとえ同じ方法でも、誰がやるかによって結果は違う。発想が違う」(255ページ)
カウンセリングのイメージ、考え方(273ページから)
身体を使う体験がないとシステムが暴走し、システムの都合で動くようになる(290ページ)