2022年5月8日日曜日

小熊英二『日本社会のしくみ -雇用・教育・福祉の歴史社会学』講談社、Audiobook。

  主に高等教育とその後の雇用の分野における慣行の分析。日本の雇用現場の慣行だけでなく、世界の国々の事例を交えて比較するなど、豊富なデータとインタビューや各話題に関する過去の記事などから、日本における年功序列制を分析し、解説している。

 様々な論点とその分析の鋭さに思わずうなってしまう内容が多い論文だが、印象的だったのは、日本では「仕事は人についている」ということ。当たり前と思われるのかもしれないが、「仕事ありき」で人を採用するのではなく、欠けたポストに人をあてがい、ポストが属する部署の仕事をする、というイメージのことである。微妙な表現であるが、採用活動には大きな影響を与える認識といえる。採用活動に影響があれば、雇用における人の流動性にも影響が出て、社会全体の人の流動性にも影響がでる。

 欧米のいくつかの国において、職場内で転職(ポストの変更)をする、という慣行があった。エグゼクティブだけでなく、一般社員においても人事異動によって昇進するのではなく、昇進のための就職活動に参加するというもの。こうなってくると、軽く使っている「労働市場」のイメージも、それを構成する人を見たときに、全く異なる市場の姿が見えてくる。人の流動性が高まる、ということも日本においては新たなモデルを創出する、くらいの意識で考えていかないと、日本の良き雇用慣行がズタズタに壊されてしまう危険をも感じた。

 本著は全体を通して、基礎文献に位置付く内容といえる。著者が政治的な主張をしているわけではなく、日本の現状を淡々とデータを積み上げて理解する内容といえる。「平易な表現」と言いつつ、結構難しい部分もあったが、タイトルにあるように「雇用、教育、福祉」の分野から社会のしくみを理解する基礎文献として、非常に有用な一冊といえる。