2022年5月8日日曜日

ロブ・イースタウェイ著、水谷淳訳『世界の猫はざっくり何匹?ー頭がいい計算力が身につく「フェルミ推定」超入門』ダイヤモンド社、2021年。

  ネットで調べると「6.3億匹」だそうですが、これも概算でしょう。筆者はこう考えます。「イギリスでは大体5軒に1軒くらいで猫が飼われている。2匹以上飼っている人はあまりいない。よって、10人に1匹くらいの猫がいることになる。イギリスの人口は7,000万人くらいだから、イギリスには700万匹くらいの猫がいる。ところで、他の国ではそれほど猫は飼われていない(ような気がする)ので、20人に1人くらいの割合で猫が飼われていると仮定して、(世界の人口大体)80億人÷20=4億匹」。

 そもそも6億匹が概算なんだから、4億匹って答えが間違っているとは言い切れないよね。桁数が合っているし、大体正解でいいんじゃない?と考えます。最近よく聞かれる「フェルミ推定」ってこういうものと捉えています(定義はありますが・省略)。大事なのは答えが合っているかどうかというよりも、(とりあえずの)答えを出すのに、どのようなプロセスを経たか、ということに注目する、というわけです。「じゃあ、なんでも適当でいいじゃん」というとそうでもなくて、少なくとも出題者や説明を受ける人が「なるほど」と納得感が得られることと、実際の統計があるならば、どのくらい近似値が算出できるか、ということが大切になります。

 本書では冒頭の「猫」だけでなく、様々な「概算」が紹介されています。そのどれもが「なるほど」と感じさせる部分と、筆者なりのユーモアが見られるのですが、それ以上に本書から学んだことは以下2点。

 一つは、「精度」と「正確さ」の違い。数学では「正確さ=正解にどのくらい近いか」「精度=どの程度の細かさのレベルまで自信があるか」と示される。筆者は「数値を使って世の中の出来事を解釈するときには、精度よりも正確さのほうが重要だ」と言い切っている。精度が高くなくても、正確であれば推定値は役に立つ、というわけだ。

 もう一つは、「ジコール(Zequal=zero+equal造語)」という概算の考え方。この発想は「計算に取りかかる前に、すべての数を有効数字1桁まで丸めて単純化する」というもの。有効数字2桁目を四捨五入するので、例えば6.3は6、35は40とする。「精度」よりも「正確さ」を重要とする場合には、ジコールで十分役に立つ、というわけだ。35×65=2275をジコールを使うことで、40×70=2800で、2800は3000と考える。これだと1.5倍くらいになってしまうが、これが問題かどうかで有用性を考える、という考え方だ。

 社会人としての経験を重ねれば重ねるほど、物事をイメージだけでなく数的に把握することの重要性は高まっていると感じる。付け焼き刃で数的根拠を積み上げるのはなかなか難しいのだけれども、それが得意な人がつくったデータを読み解くには十分参考になる一冊でした。