2009年5月24日日曜日

ノーマン・ドイジ著、竹迫仁子訳『脳は奇跡を起こす』講談社インターナショナル、2008年。

先日、メモとして紹介した書籍。
http://iyokiyeha.blogspot.com/2009/04/2008_29.html
(2009年4月29日投稿分)

脳の「神経可塑性」に注目し、脳に損傷を受け何らかのハンデを負った人たちのケース記録を通じて、人間の限りない適応能力と可能性を描いている。
全盲の人が、舌に電極をつけて視覚を取り戻した事例や、学習障害者が訓練によって弱点を克服する、過去の経験がトラウマとなって人との関係構築が難しい人の治療の過程、生まれつき脳が半分しかない人の言語能力取得など、事例は非常に興味深く、そして人間の神経可塑性が、具体的な事例とともに理解できる。
人間の脳や、学習、広い意味での成長、そして教育といった、人が変わっていくことに興味のある人であれば、興味深く読み込める一冊だと思われる。

この書籍の終章で、研究の結果として可塑性を4つに分類している。
1.マップの拡大
2.感覚の再配置
3.補償のマスカレード(代替戦略)
4.鏡映領域の引きつぎ
いくつかの異なる形式によって、損傷した脳や隘路に入り込んでしまった神経活動が変化していくことが事例によって示されている。
脳科学者の茂木健一郎氏は、解説の中で以下のように述べている。
「本書の最も大切なメッセージは、可塑性を通して脳を大きく変えるきっかけとなるのは、本人の意欲、それに周囲の人の愛だということだろう。(中略)前向きに生きようという精神力こそが、システムとしての脳の潜在的可能性を引き出す」
Iyokiyehaの感想は、この点とほぼ一致するので、これ以上の言及はしない。

普段人と接する仕事をしていて、人が変わっていくことを目の当たりにすることも多い。
一方で、全く変わらない人もいる。
その違いはどこからくるのかといえば、外的要因としてのプログラムの質、働きかけの質もさることながら、変わる原動力は他ならぬ「その人のやる気」とか「気持ち」に左右されるのだろうなと感じているところである。
人と関わることを仕事としている人間として、「いかにその人のやる気に火をつけることを『促進し見守るか』」というところに専門性があるように思うところである。


おすすめ度:★★★★★(人の変化、成長に興味がある人)