2021年7月17日土曜日

松本俊彦『薬物依存症 シリーズ ケアを考える』ちくま新書、2018年。

  タイトルの通り「薬物」、および「薬物依存症」に関する基礎文献。国立精神・神経研究センターで、長年この分野の治療と研究に携わってきた松本医師による著書。著者は本書を「紆余曲折の最近⑩年あまりのあいだ、薬物依存症の治療と回復支援について私なりに必死に考え、実践してきたことが詰め込まれています」と評しています。

 世界中の知見と、著者の経験が、(おそらく)学術文献並みの内容でもって、新書の体裁を保っているところが、本書の特徴といえるでしょう。この分野に関わったことがある、あるいは興味のある方であれば、内容は充分理解できるものであると思います。この表現力もすごい。

 人間の身体のこと、医療のことって、文字通りの日進月歩の世界で、私が薬物や薬物依存に対して持っていた知識を一新させ、さらに関わり方についてもその認識を改めなければならないと思うほどのインパクトのある一冊でした。今は福祉、以前は雇用の分野で、支援の対象者としての薬物依存者、その人の傍にある薬物に対して、私は傍からみたらちょっと変わった関わり方をしていたのだと思いますが、その関わり方を支持する内容もあり、一歩進む内容もあり、さらに改める必要がある内容もあり。そして、現状維持からちょっと改善の積み重ねていくにあたり「要求や結果を表現できる環境整備」が地域生活を継続する上で不可欠であることをはっきり認識できました。

 「薬物依存症の回復支援とは、薬物という「物」を規制・管理・排除することではなく、痛みを抱える「人」の支援なのだ」(299ページ)、「(ポルトガルの事例を受けて)薬物問題を抱えている人を辱め、排除するのではなく、社会で包摂すること、それこそが、個人と共同体のいずれにとってもメリットが大きい、という科学的事実ではないでしょうか」(310ページ)、「(自傷行為、依存症者の傾向を)『人』に依存できずに『物』に依存する人たちなのです」(322ページ)。

 これまで、「人の支援であり、統制排除ではない」という福祉の本質(だと思っていること)を横滑りさせて関わってきたところですが、本書はすっきりとその範囲を整理してくれたような気がします。