2021年7月25日日曜日

働くことコラム10:生活支援の限界 -生活リズム

 久々の「働くことコラム」です。最近、雇用支援について身内向けに説明文書を作っているので、そこで改めて考えたこと。

 これから書くことの結論を先出しすると、

・生活リズムを治せるのは自分だけ

・目標か危機感の共有がなければ動かない

 ということです。

 職業カウンセリングのなかで、求職者の相談を受けていると、「仕事ができる/できない」以前の問題で、仕事が決まらない、仕事が続かない、という人が少なくない。支援計画にも「生活リズムを整えましょう」と書いてあって、本人の署名があったりします。話を聞いてみると「分かっているのだけども、早起きすると調子が悪いんです」とかなんとか。具体的に就寝時間と就寝前の時間の使い方を聞くと、24時過ぎ就寝で、直前まで動画を観ている、などなど。

 当時はカウンセラーを名乗っていたこともあり、「○○してみましょう」「■■を試してみましょう」なーんて提案(説得?)していたのですが、今振り返ればなんて悠長なことをやっていたのか、とくやしい気持ちで一杯です。もちろん、組織の都合もあったので、当時はそれで「やむをえない」と思いこんで仕事をしていたわけですが。

 今、私が支援者として、こう言ってきたクライアントが目の前にいたらどうするかな、と考える。私が策定する計画には「○時頃起床して、□時に家を出る」という目標にするかな。指標は自宅を出発する時間でドライに評価する。方法は助言をするけど、基本的には本人任せ。2週間経っても変化がなければ、計画再策定や助言を重ねるけど、職業リハビリテーションや就労支援という枠でできるのは、これくらいかな。

 そもそも、生活支援って限界があるんです。自分の目の前で生活を観察することは困難を極めるものだし、万が一観察できたとしても、観察者がノイズになって通常生活を送れなくなる可能性が大なので、やれたとしてもおそらくやらないでしょうし、やる意味を考えたら労力が成果を上回る事例と言えるでしょう。

 大切なのは、「計画策定」の本来の意味のところです。本人のサインをもらうのが本質なんじゃなくて、「本人が納得して同意する」ことが重要。本人(クライエント)、支援者、関係者がみな同じ方向(目的)を向いて、そのための指標(目標)を共有して、これができてはじめて「本人のペースで」取り組んでいくことが求められます。

 はっきり言っちゃえば、理由はどうあれ、なんだかんだ言って生活リズムが変わらない人って、「自分の枠内でしか物事考えない」(≒考えられない)人がほとんどですから、自分の中に危機感や理想像が浮かび上がって、内発的な動機付けにならない限りは、行動が変わることはないでしょう。ただ、内発的な動機に変わった時に急激に変化することがあるので、それはきちんと支えないといけませんが。

 このコラムで繰り返しになるかもしれないけれども、仕事の現場で通用する「自分の力」って、それが「習慣になっているもの」だけです。業務遂行の技能だけは、とってつけた知識が結果を左右することもありますが、もっと土台の日常生活・社会生活の部分に関しては、習慣=土台になると思います。単発の技能は土台になりえない。ということで、支援者に求められる技能は、「助言の知識とスキル」「クライエントをやる気にさせる(危機感を煽る)相談スキル」「変化を見極める評価のスキル」という当たり前のことと、もう一つ「変わらないことを受け入れる覚悟」みたいなものじゃないかな。間違っても「生活リズムを、外(支援者)から変えられる」と思わないことです。