2024年8月17日土曜日

武田惇志、伊藤亜衣『ある行旅死亡人の物語』毎日新聞出版社、2022年、Kindle版。

  「人を感じる取材」と感じた。記者さんの仕事すべてがこの密度で行われるとは思わないのだけれども、いわゆる「取材力」というのは、こういう形で発揮されるのだろう。そんなことを感じた一冊。取材プロセスが(おそらく大部分の地味な大変なところは省略されているのだろうが)表現されているのが、読んでいて大変面白い。

 確かに「ある行旅死亡人」だから、「あぁ、そういうことがあったのね」で済んでしまう出来事でしかないが、そこに気がつき(認知して)、調べていき、まとめていく。記者の仕事って、一つの表現活動なのだな、と思いながら読んでいった。一つの表現のために、膨大な準備と取材をして、入手した情報を、正確かつ伝わるように表現し、発表する。直線的に表現できるこの活動の見えない部分は、地道な情報収集、取材など、ほとんどが思い通りにいかないことばかりだが、時に点と点、線と線がつながってくる感覚があるのだろう。そういうかすかな情報をつなぎ合わせて、一つの記事(作品)になる。模索、練習、振り返りの膨大な繰り返しの上、作品として立ち上がってくる、そんなことが垣間見えるノンフィクション?であった。最初から最後まで、興味をもって読み通しました。